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旅する料理店、『 食堂アメイル』から考える『旅人を出迎える町である』、ということ。
三重県尾鷲市の九鬼の食堂『網干場』(あばば)で、旅する料理店 『食堂アメイル』(以下アメイル)が1ヶ月間限定のイタリア料理店を開店した。
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お店が開店したのは1月の後半から2月の後半までの1ヶ月間。
お昼はパスタやリゾットなどのアラカルト(一皿)から選べ、夜は予約制のコース料理が食べられ、連日満席状態だった。
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しらすとからすみ、季節の野菜のペペロンチーノ
『旅する料理店』の名前の通り、アメイルの2人は、全国を旅しながら料理店をしている。
今回は縁あって、尾鷲市九鬼町の『網干場』を使って、1ヶ月間の料理店を開店した。
地元産の野菜や魚介類などを使用した料理がメニューにのぼった。
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アカイカをカブと合わせたり、メヒカリのフリットの衣に九鬼で養殖されているスジアオノリを混ぜ込んだり、
「へー!こんな食べ方が出来るんだ!」
と、地元産の食材の新たな食べ方に驚きと可能性と新鮮さを覚えた。
アメイルのお2人に話を聞いてみると、全国には『シェアキッチン』といって、キッチンを有料で貸し出し、色々な人が使えるようにしているところもあるそうで、もちろんそのシェアキッチンは保健所の許可も得ていて、営業も可能なのだそう。
そういう『シェアキッチンという営業形態がある』、ということを初めて聞いた。
全国のシェアキッチンや、シェアキッチンではないが今回の『網干場』のように、お店の厨房を貸してくれるお店を転々と、全国を旅しているのも、『アメイル』の2人だけでなく、そういう人は結構いるらしく、そういうコミュニティもあって、情報交換をしたりもしているそう。
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まだ20代の若いお2人のお話を聞いて、とても羨ましくなった。
いずれどこかち落ち着いてお店を持つにしても、20代を、全国を旅して料理をする過ごし方に充てる、という選択は、大正解だと思う。
その土地土地の食材や食文化を知ることは何より知識が増えて、料理のアイデアの幅が広がる。
時に借りたキッチンの使い勝手の悪さや、動線の不自由さや、道具の少なさ、あるいは食材の確保の難しさは、それは逆にいうと『その条件下で何ができるか』を考えるきっかけになり、応用力が身につく。
その時その時に手に入った食材で、その日のメニューを考えることはマリアージュの意外性の発見と提案、新しいメニューのアイデアの瞬発力を鍛えることにもなる。
その土地その土地に知り合いができ、全国に人の輪が広がる。
時に何かしらのトラブルがあったとしても、それは対応力や危機管理能力を鍛えることにもなる。
旅先での全ての経験が、その後の自分に活きてくるのだろうになると思った。
『空き家バンク』の活動している友人が、『アメイル』の広報をお手伝いしていた。
『アメイル』の2人が九鬼に来てから地元メディアの取材やSNSでの情報拡散によって、連日予約でいっぱいになり、九鬼もにわかに賑わいを見せ、周辺地区にも少なくない経済効果をもたらした。
『空き家バンク』の活動をしている友人と、これからの空き家や空き店舗の利活用について話した。
もしかしてこのこと(『旅する料理人』『シェアキッチン』というスタイル)は、地方の空き家や空き店舗に新しい価値を生み出すことができるのではないか、ということを話した。
飲食店の少ない九鬼という町が、期間限定の飲食店で賑わいを見せた。
九鬼の人はもちろん、近隣の市町からもたくさん『アメイル』の料理を食べにやって来た。
人口の少ない町において、飲食店が開店する、というのは一つの『事件』のような大ごとで、たった一つの飲食店がもたらす影響力は計り知れない。
今の時代、『アメイル』の他にも、全国を旅しながら料理をしている料理人はいる。
彼らは彼らでコミュニティを作り、連絡を取り合い、情報交換をし、SNSなどで発信している。
他にもいる『アメイル』のような『旅する料理屋』が、年に2〜3回、町の空き店舗を利用した出張料理店を開店してくれたなら、とても面白いと思うし、地元の人間としてはとても嬉しい。
空き家や空き店舗をすぐに飲食店や宿泊業として使えるようにするには、許可の面においてクリアすべき問題は多いが、料理人だけでなく色々な『旅する人』たちを出迎えられる町であると、面白い町になっていくのかもしれない、と思った。
「また夏頃に来ます」
そう言ってアメイルの2人は1ヶ月間の九鬼での営業を終え、次の場所へと旅立っていった。
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夏は夏の食材で、また美味しい料理を作ってくれるにちがいない。