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始まりを巡る
◆ 私の記憶 ◆
「松戸、懐かしいね」
1990年代の中ごろ。東京都に住む親せきに会いに行くとき。
祖母、母、私。茨城県の真ん中から常磐線に乗り、まずは上野駅まで向かいます。
途中の土浦駅では数分停車するので、ホームの売店で森永のハイソフトキャラメルを買いに行っていた、甘い物好きな祖母。
特急ではなく鈍行なのは、特急列車が今ほど発達していなかったからか、節約のためか。
そして松戸駅で停車するとき、祖母はいつも冒頭の言葉を零していました。
◆ 私が聞いた話 ◆
1964年の東京オリンピックの年。11月15日の七五三の日。
祖父母は結婚しました。
福島県生まれの祖父と、茨城県生まれの祖母。
お見合いは祖母の故郷の茨城県のようでしたが、祖父が東京都で勤務していたのもあるのかもしれません。
挙式、その後の居住は東京都。そこで娘(私の伯母)を授かって、暮らしていました。
70年代に入ろうとしている頃。新たな居住を求め、千葉県へ。
そこで二人目の娘(私の母)を授かります。そして大阪万博が話題になっている最中、母が生まれました。
◆ 思い立つ ◆
「そうだね」
祖母がこぼしていた言葉に、いつもそう答えていた母は覚えているのでしょうか。
何せ母は3歳の頃までしか千葉県に住んでいなかったはずです。
ですが、祖父母も母ももうこの世界にはいないので、その頃の暮らしがどうだったか、どれくらい覚えているかなんてもう聞けません。
伯母もその頃では、5・6歳。ハッキリした話は、正直、期待できません。
私は、主に祖父がつけていた育児記録のノートを開きます。
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そして、筆まめな祖父に改めて感心します。
当時住んでいた団地の住所が記載されています。
最寄り駅の簡易な地図までも手書きで記されています。
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コロナ渦で、頻繁な遠出を控えていた反動もあってか、私は急に思い立ちます。
2023年5月に入って間もない、季節外れの暑い日。
そして5月は、祖父母、母の命日月。
(ああ、これは行ってみよう。行くなら今月中だ。来月ではなくて、今月だ)
◆ きっと節目 ◆
改めて育児日記を読んでいきます。
母子手帳も見つけたので、併せて開きます。
1970年の春
祖父・37歳、祖母・32歳
まだ3歳に満たない娘(私の伯母)
末っ子として母が生まれます。
それから紆余曲折あって、祖父母と娘2人は、1973年、茨城県の祖母の実家の近くに家を建て、移り住みます。
1973年から2023年。ちょうど今年は家が建って半世紀の節目。
私も今は、当時の祖母と同じ、32歳。
5月は祖父母と母の命日月。
(余談ですが、逝去の年と日にちはバラバラなのですよ)
育児日記には、
・常盤平団地
・常盤平中央病院
・(常盤平)第一小(学校)グラウンド
・西友ストア
に住んでいた、生まれた、行ったということが書かれていました。
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目を大きく開いたのがよっぽど可愛かったらしい。笑
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それにしても祖父の子煩悩な様子が丸わかりです。
それで伯母は、上の子特有の「お母さん取られた!」となって母に悪戯して、祖父は押入れに避難させてたらしい…。大変だ。
◆ 計画から実行 ◆
4か所の地図を見てみると、徒歩で巡れて、日帰りで済みそうだということが分かりました。
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常盤平駅をスタートとゴールにして、
団地 → 病院 → 小学校 → 西友
というルートで一周できるな、と何となく想像します。
茨城から千葉まで。もちろん特急の方が時間をムダにせずに向かえますが、ここはむしろ鈍行で。
2時間強なので、午前中から動くことを踏まえ、電車の時間を調べます。
「さて、何日に行こうかな」
おおよそ固まってきたところで、5月の下旬ごろに行こうと決めました。
当日の朝。通勤通学ラッシュの時間帯。
駅近くで安いコインパーキングに何とか停められました。
しかし、予定の電車には乗り遅れます。
「まあ、急いでいないし…」
一人旅で気楽なのはこういうところでしょう。
売店で飲み物を買い、ホームでまだ少し寝ぼけている脳内を少しずつ起こします。
そうこうしているうちに、次の電車が来て、その混み具合がラッシュ時より落ち着いているのを見て、少しホッとします。
何せ、7か月振りに電車に乗るので、前日から、なんだかソワソワしていたのです。
上手く席にも座れると、安堵でウトウトし始めます。
土浦駅の停車時に、「車両切り離しとかドキドキしたなあ」とか「昨日ハイソフト買えばよかった」など、少し思い出に浸ります。
ウトウトしたり、寝たり、スマホをいじっていると、松戸駅に到着しました。
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そして、新京成線に乗り換えて、常盤平駅で下車します。時間は11時を少し過ぎていました。
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きっと半世紀前と景色は変わっているのだろうけど、ここに住んでいたのだな、と辺りを見渡します。
先に西友が目に入りますが、とにかくまずは常盤平団地へ。
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(実は日記には部屋番号まで記してありましたが、
ここでは省略させてください)
道沿いでなく、少し入ったところなので、「え、いいのかな…」とちょっとビビります。
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ありました。階段の入り口付近まで近づき、部屋番号を探します。各部屋のポストの表札を見渡すと、ポツリ、ポツリと住んでいるのは見受けられます。
そして目的の部屋番号のポストを見つけました。名前はなかったので、恐らく現在は空室なのでしょう。さすがに写真を撮るのは憚られたので、記憶にと留めておくことにしました。
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しかし私は余所者。住人にとってはウロウロと怪しい者。誰かを訪ねるフリ、も通じるのか…
そんなわけで長居もしていられないので、10分もしないうちに次へ進むことにします。
それにしても、長閑な団地だなあ、と。
天気も予想より良かったので、近隣住民のようなフリして生き生きと歩きます。
数分も歩くと病院です。
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こちらは移転後の建屋。
当時の住所で照らし合わせると、こちらのようです。
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祖父は、本当にいい意味で細かい人だったようで、育児日記には病室の番号まで書いてありました。
「そっかーここで生まれたのか」
木陰に休憩を兼ねて佇みながら、建物を眺めます。
さて、次は第一小学校のグラウンドです。
ここは、祖父が母の姉を連れていって遊んでいたようです。
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「お腹すいた…」
ポツリと呟いて駅方面に歩みを進めます。
この日は結構日が差していたので、日傘を持ってきてもよかったなぁ、と少し反省します。
歩いていると結構暑かったです。
最後は西友ストア。
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正直、半世紀の間に建て替えただろうし、懐かしい感じはないよなあ…ちょっと疲労もあってそんな思考に。
一息つくためにお手洗いを借りて、雑貨が気になったから買おうかなと見てみたり。(冷静になって買うのは止めました…)
さあ、これで目的の地は巡りました。
駅を出たときから分かっていましたが、
「ここ住みやすそうじゃない…?」
「別に茨城の田畑のど真ん中に戻らなくてもよかったんじゃない…?」
(そういえば、祖父が自動車免許取ったのも茨城に住むタイミングだったと思う)
いや、70年代の当時を知らないから何ともですけど!?
◆ 蛇足散歩 ◆
常盤平駅(西友)に戻った時、ちょうどお昼になる時間帯でした。
事前に調べていて、寄ってみたいところがありました。
「めちゃくちゃ美味しそうなパン屋!お昼はここだな!」
と決めていました。
店内に実際入ると、想像以上に広い!
そして想像以上のパンの種類!
夫ちゃんへのお土産にと何個かチョイスしてたのもあり、結構ウロウロとしてしまいました。
ここで腹ごしらえするのに購入したのは、焼きピザと、そら豆とベーコンのパン。
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外のテラス席で食べました。
天気に恵まれたのが本当に幸いでした。
風を感じて気分がめちゃくちゃ上がっていきます。
腹ごしらえもしたところで、実はパン屋に行く途中で目に付いていた看板がありました。
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パンを食べながらルートを検索すると、歩いて行ける距離だったので向かうことにしました。
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きれいにしてあって、ここも居心地がよさそうです。
「今日は常盤平を散策させていただきました」とお礼をしました。
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駅までのルートは少し変えて、今度は北口から駅に入ることにしました。
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これにて始まりの巡り、は終わりです。
松戸駅まで戻り、せっかくだし…と少し駅ビルを散策して、常磐線に乗り換えて帰りました。また鈍行でした。
今回のことが、祖父母と母の供養に繋がると信じています。