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トカマク型実験装置、いよいよ稼働

日本を含む多くの国は、温室効果ガスの実質的な排出をゼロにするカーボンニュートラルを、2050年に実現するという目標を掲げている。核融合発電は温室効果ガスが出ず、実用化すれば大きな力になると考えられる。核融合発電は、核融合のエネルギーで発電する技術。重水素(ジュウテリウム)と三重水素(トリチウム)の気体を加熱して、超高温のプラズマ状態で衝突させると、核融合が起きヘリウムと中性子が生まれる。この反応で出るエネルギーを利用して水蒸気をつくりタービンを回して発電する。核融合では、コイル(電磁石)でドーナツ形の磁場をつくり、その中でプラズマを宙に浮かせて閉じ込める。磁場をつくる方式には、「トカマク型」と「ヘリカル型」の2つがある。トカマク型は、輪のような形をしたコイルを並べて磁場をつくる方式。ヘリカル型はらせん形のコイルで磁場をつくる方式で、長時間運転に向いているが形状が複雑で建設の難度が高い。

核融合発電に使える超高温プラズマ技術を確立するために、国際熱核融合実験炉(ITER、イーター)計画が進められている。この共同研究構想が生まれたのは1980年代。当初2020年に予定されていた実験開始時期は2025年に延期され、50億ユーロ(約7000億円)と見積もられた総工費は2022年現在、200億ユーロ(約2兆8000億円)に跳ね上がっている。フランス南部で建設中の外径約30メートルのトカマク型の大型実験炉は、2025年末に運転を始め、その成果に基づき各国で実際に発電する原型炉をつくることになっている。

量子科学技術研究開発機構のプラズマ実験装置「JT-60SA」(茨城県那珂市)は、ITERと同じトカマク型で外径は12メートル。2022年度中にプラズマを発生させて調整に入る予定で、さまざまなデータを取りITERに役立てる。核融合反応で重要なのは、十分なエネルギーを取り出すことで、反応を保つには常にプラズマを加熱する必要がある。粒子ビームをプラズマに打ち込んだり、電子レンジのように高周波を当てたりして温度を保つ。加熱に必要なエネルギーの何倍のエネルギーが核融合反応で得られるかを「Q値」で表す。Q値が1なら、加熱に使うのと同量のエネルギーが出力される。実用炉でのQ値は30〜50を想定し、ITERでは5〜10のQ値と400秒間のプラズマの維持を目指しているが、JT-60SAでは、ITER級のプラズマを100秒間維持することを目標としている。また、ITERよりも高温・高密度のプラズマをつくる実験も行う。

核融合科学研究所(岐阜県土岐市)には世界最大級のヘリカル型実験炉「LHD」がある。LHDはプラズマ内部の状態を精密に測る能力で世界トップを誇る。超高温プラズマの長時間の維持など大きな成果を上げてきたが、10年間の実験計画が2022年度で一段落する。2023年度からは、プラズマの性質そのものの理解を深める学術的な研究を、他の科学分野の活動と連携して進めることを予定している。核融合発電を実用化するためには、JT-60SAとITERのような技術開発と、プラズマそのものの学問的な研究の両輪が必要だと考えられている。

材料科学の進歩を背景に別の可能性を探ろうとする企業も出てきた。アメリカのカリフォルニア州に拠点を置く核融合エネルギー企業のTAE Technologiesが建設を計画している水素とホウ素を使用する核融合炉は、ジュウテリウム・トリチウム(D-T)核融合に代わるクリーンで実用的な施設になるという。TAEは、消費量を上回る電力を核融合で生み出す「エネルギー純増」の2025年までの達成を目指す。ホウ素は海水から抽出できるうえ、D-T核融合と違って装置を被ばくさせずに済む利点がある。

※ 見出し画像にはPixabayのフリー素材を利用しています。

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