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雨乞い
バス☆ガイド
埼玉県の北部、静御前の墓所から西の方面にAという町がある。平成の大合併を経ても再編されない、駅のない寂しい場所である。
関東のからっ風をものともせず、年間の降水量と気温は隣り合って美しい放物線を描く。およそ飢饉とは無縁の町だ。
しかし意外なことに、この地には古くは鎌倉の時代から雨乞いの風習があるという。
町の外れに、奈良時代に創建された古社がある。雨乞いの儀式はここで行う。
神社境内の裏の森に、カラスを結わえて首吊りのような形にして吊るす。
その5日後に神社にある石碑の扉を開けて、頭と尻が両方とも頭部になっている虫がいればさらに5日後雨が降る。
町がAという名を冠して始まった明治20年、農家の女が試しに畑を荒らしたカラスを捕まえて森に吊るした。飢饉とはほど遠い町で、ただ貧しかった。まじないなどせずとも5月からは雨が降るだろう。野菜も米も常と同じように収穫でき、それでもなお貧しいだろう。
その10日後大雨が降った。女は神社へ向かった。
石碑の中に、頭にも尻にも触角のあるカミキリムシがいた。
慌てて裏の森に行くとぶら下がったカラスの真下の土が雨で削れ、microKORGの薄茶色の筐体が覗いていた。
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