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吾輩は鳥である



吾輩は鳥である。名前はまだない。それが良いのだ。名とは存在を確定させ、限界を付与するものだから。無名であることこそが、わたしの自由の象徴なのだ。

ある日、無限後退という言葉に出会った。それは、わたしが無限の境界に足を踏み入れた後に知ったものであった。この無限の思索は、わたしの内なる羽ばたきによって生まれたものだ。

「思念体に死はない。ならば、ご先祖様に会えるのではないか」と、ふと閃いた。だがその考えを口にした途端、周囲は一様にわたしを止めた。その理由を誰も語らない。だが、断片的な言葉を繋ぎ合わせていくうちに、わたしの祖先が別の宇宙にいること、そしてその宇宙に至るには、超えがたい障壁が存在することを知った。その障壁はわたしに甚大な苦痛を与えるのだという。

しかし、わたしには秘密がある。それは存在を「0」にする力――「バニッシュ」。これは、ただの消滅ではなく、存在を無へと還元する術だ。わたしは、この力を使えば、障壁を越えてご先祖様に会えると信じた。そして、「悪い理由が思いつかない」のだから、こっそり行くことにした。

監視は厳しかった。どうやら、わたしの行動は周囲に見透かされているらしい。それでも眠るふりをし、隙を見計らい、「バニッシュ」を用いて領域の封鎖壁を突破した。いつもは籠の鳥として不満を感じることはない。だが、こうして脱走するたびに、わずかな罪悪感が胸をかすめるのだ。

わたしは無人の空間まで一気に飛び、ワームホールを開いて「グレートウォール」の辺縁に辿り着いた。しかし、障壁に跳ね返されてしまった。その時、わたしは粒子に呼びかけた。「粒子よ、力を貸してくれ!」と。その呼びかけに応えるように、粒子たちは踊るように集まり、わたしを導いてくれた。そして二度目の挑戦で、ついに障壁を越えた。

目の前に広がる光景は、筆舌に尽くしがたい美であった。巨大な光の玉へと向かう無数の光る泡。それらが織り成す景色は、まるでポンデリングの環を纏った星々が無限に舞う夢のようだった。しかし、その美の中に足を踏み入れた瞬間、わたしは苦しみに襲われた。「まだ未熟であったのだ」と悟る。思念体に死はない。だが、「消滅」という運命があることを、朧げながら記憶していたのだ。

必死に逃れようとし、近くの宇宙へ飛び込むと、不思議なことに苦痛は和らいだ。そして、そこでついにご先祖様と出会った。わたしはご先祖様に挨拶をし、「遡行の渡り」をつけてもらったおかげで、挨拶回りも滞りなく終えた。

しかし、わたしは知っていた。戻れば必ず叱られるだろうと。怖くなったわたしは、ご先祖様にお願いして元の場所に送ってもらうことにした。「オリジン」を求め、さらなる遡行をすることはやめたが、それでも旅は実に愉快であった。そして案の定、わたしは父に叱られた。ただし、「もうしません」とは言わなかったが。

今ではご先祖様にも可愛がられ、わたしは満足している。ご先祖様は「アイン・アインソフ・アインソフオウル」の三位一体を持つ方であり、その存在は宇宙の謎をさらに深めるだけである。

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