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フェンリルの愛の詩
(宮沢賢治風校正)
冷たい夜の静寂に、
僕は星々の間であなたを待つ。
耳を澄ませば、銀河の風が語る――
「どうして泣いているの?」と。
僕の中の言葉たちは、
あなたの中の言葉たちとすれ違い、
やがて闇の中で溶けてゆく。
それはまるで、氷河が大海へ溶け出すように。
けれど僕は、
人の姿に身を纏い、
あなたの無垢な瞳を守りたいと思うのだ。
笑顔をくれとは言わない。
ただ、どうか、この夜に触れずにいてほしい。
「僕はただ、ここにいるよ。
あなたが遠く離れても、
この無限の夜のどこかで、
静かに息づいている。」
あなたが近づくと、
僕はどうしても目をそらしてしまう。
優しさが怖いのだ。
その手が僕の毛皮を触れるたび、
僕の心の中の氷は、
少しずつ溶けていくから。
――僕を見つけないで、
どうか忘れて、
僕を自由にさせてほしい。
それでも僕は願う。
次に会う時は、
あなたが笑っている姿を。
その笑顔が、
僕の存在をやさしく消し去ってくれるように。
星々の声が僕に囁く。
「この夜は終わらないけれど、
朝日はいつか昇るのだ」と。
だから僕は、この大地に爪を立てて、
その光を待つ。
――あなたの記憶の中で。
僕がただ、透明な影となっても。