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【ネタバレ注意】『マッドマックス:フュリオサ』を見た

 怒りのデスロード(この邦題は結構気に入っている)で喰らってから今日まで、時折フュリオサが故郷の顛末を知ったときの慟哭を思い出しては心の温度を高めていた。そんな折、フューリー・ロードの時よりも遥かにひっそりと(私の周囲ではね)上映が始まっていたフュリオサをついに見た。
 怒りのデスロードは円盤を買ったので、劇場で数度見た後も時たま見返していたのだが、ここ数年はすっかり触れる機会が無かったのでジョージ・ミラー監督の演出が持つパワー、すなわち"力"をすっかり忘れており、久し振りにスクリーンから放たれるエネルギーをモロに喰らってきた。
 以下、忘れないうちにネタバレを含む感想を書き留めておく。



1.映像演出

 今作も前作も私が印象的だと感じるのはもはや古典的な演出であるズームの使い方、その画角だった。特に変わったことはない、注目したいものに寄っているだけなのだが、マッドマックスのズームはどちらかというとズーム・インではなくズーム・アウトが巧い。視界が開けていって初めてズームしていたことと、被写体に注目"させられていた"ことに気が付く。
 そこへ更に画面外から追手が飛び込んでくる。次はこんな追手がこっちの方角から迫ってきているんだよと分かりやすく迫力を伴って教えてくれる新設設計だ。怒りのデスロードもフュリオサも、ざっくり要約してしまうと「次々と現れる追っ手を退いて荒野を走る」これだけだ。それなのに我々は飽きずに登場人物たちと2時間走り切れるからすごい。濃縮されたジャンプ漫画みたいだ。

2.キャラクター演出

①人物について

 「あ!この人怒りのデスロードで見たことある!」間違いなくテンションが上がる。しかし新キャラも負けていない。これがすごい。特にディメンタスは怒りのデスロードには確かにいなかったキャラクターながら、狂気と正気、大物と小物、相反する属性が連立された最も人間らしいともいえる人物で、ほんとに新キャラか??と疑ってかかりたくなるくらい魅力的だった。
 主人公のフュリオサももちろん負けていない。役者の演技は言わずもがな、覚悟のキマりっぷりとその魅せ方が私の想像を超えてきて心地よかった。フュリオサの過去を描く際、どこに力を入れるか?と想像するとつい義手に思考を奪われてしまう。私はてっきり何か運命的な決断をするときに、葛藤の中で取捨選択をして腕を失うものだとばかり思っていた(特に作中屈指の良い人ジャックのために失うのかなって)。しかし蓋を開けてみればどうだ、腕がもげる瞬間もその時の声の演技すらなかった。気が付いたときには既に腕と体は離れた後だった。私は甘かった。フュリオサは幼い頃から命をかけた決断の連続だったのだ。食料調達も、脱走も、潜伏も、一所懸命なのだから、使い物にならなくなった腕をもぐなどわざわざ見せる必要すらない。感服した。

②機械(マシーン)について

 マッドマックスシリーズでは、奇抜な乗り物にもまるで生命が宿ったキャラクターのように見えてくることは自明である(THE・日本人的な感覚かも知れない)。ウォー・リグなんて前作で完全に惚れ込んでいるわけだが、今回も敵味方素晴らしいモンスター・マシンがひっきりなしに出てくるもんだから興奮が収まらなかった。
 一番感激したのはディメンタスから離反したオクトボスの配下がバイクからロープを握って飛び降り、ジェットスキーか!?と思わせてからパラシュートを開き空中戦を始めた瞬間である。怒りのデスロードの棒高跳びによる三次元アクションも面食らったが、ここにきて単車から打ち上げられる空挺部隊とは……何食ってたら思い付くんだ?最高にイカれてるよ!ありがとう!

3.狂気から生まれる合理性、力

 前述の通り、どいつもこいつも、何もかも狂っている。しかし、そんな狂気の中から浮かび上がる合理性が癖になるのがこのマッドマックスシリーズの面白いところだ。誰もがその場にあるリソースを使い切ろうとしている。奇抜な敵に驚く者は誰一人いない、ただ受け入れて対処する。第一印象は狂っているのに、その先のプロセスと結果は合理的だから見ているこっちが置いていかれそうになり、段々と感覚が狂っていく。

「なぜアンプを大量に積んだトラックで
 ヘヴィメタマーチを流しながら移動しないんだい?
 士気が落ちるじゃないか!」

 何を言っているんだ?どこからどう見てもおかしな主張だが、結果として本当に士気が向上して目的が達成できれば、これはまったく合理的な方法だったことになる。この映画は終始そんな風に結果論を見せつけてくる。そのせいかギャグではない、最善だったんだろうと納得できる。でもやっぱりイカれてて、だからちょっと愛嬌がある。この絶妙なバランス感覚が五感と魂を刺激してくるから病み付きになってしまう。どうしよう、また見たくなってきた!見てない人はぜひ見に行ってくれ!これは特に劇場で見る映画だよ!

 余談だが、諸君はパンフレットは購入しただろうか?さらっと内容に眼を通したが、そのウィットに富んだワードチョイスは映画の字幕を見ているようでたまらなかった。まだ購入していない方はぜひ手に入れて確認してみて欲しい。

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