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視力が悪くても身体障害とは言われない

FFXIVを独りで遊んでいた。

友人に誘われて始めたが、活動時間が合わず夏休みの大半を費やして独りである程度まで進めてしまった。FFシリーズはあまり馴染みがなく、ましてやMMORPGともなれば他人との繋がりがあって初めて本格的に楽しめるゲームだと思うので、当時の私はこのゲームの魅力に気付けずにいた。

飽きを感じ始めていたし、月額課金制なので遊ばないのであれば解約すべきだった。最後にMMOらしく他人との接点を持ってみようかと、街中で一緒に遊んでくれる人がいないか叫んだ。

初めは誰にも反応されなかったが、暫くすると遠くの方からtell(TwitterでいうところのDM)で返事があった。声の主を探してみると、小さくて綺麗な白い髪を腰ほどまで伸ばした女性がこちらを見ていた。どうやらその女性は交友関係が広いらしく、7人もの同行者をすぐに集めてくれた。

そのゲームには自動でパーティを揃える機能があり、普段はろくな会話もないまま不自由なくゲームを遊ぶことができていたが、その時初めて同行者全員を指名して集めたパーティで遊ぶことができた。

弾む会話、達成後の記念撮影。
MMORPGで得ることができる感動のすべてを体験したような気分だった。ゲームをやめる気持ちはどこかへ消えてしまった。

声をかけてくれた女性とはフレンド登録をして、以降の私の冒険にずっと付き合ってくれた。それからようやく私のMMO人生が始まった。ちょうどゲーム自体も傑作と言われる展開が始まり、遊びの要素も増え、美しい景色や音楽を堪能した。その女性の友人たちとの接点も増え、私のフレンドリストも徐々に埋まっていった。

ある日、その女性に連れられて雲海を飛びながら話をしていた。その頃の私はまだ空を飛ぶことができなかったので、彼女のチョコボの背中に乗せてもらっていた。行く先もわからぬまま、まだ見たことのない景色に目を奪われながら好きな音楽の話をしていた。流行りのバンド、好きな合唱曲、好きなゲームミュージック。チャットが止まることはなかった。この時のことは今でも鮮明に覚えている。

女性は自分の体に障害があることを打ち明けてくれた。生まれながらに声が出ず、突然寝てしまうこともあるらしい。

また、こんなことも教えてくれた。このゲームが初めて触れるゲームであること、音楽が好きなこと、職場には自分用の寝床があること、3度の飯よりサクラ大戦が好きであること、既婚者であり犬を飼っていること。

私も音楽が好きで、特に歌うことが大好きだったのでその女性のような境遇は想像することができず衝撃的だったが、何よりも衝撃的だったのは私よりもその女性の方がこのゲームの世界を充実させ、堪能していたことだった。自覚してはいなかったが、私の中には障害に対する偏見が巣くっていたのだろう。

私はこのことを正直に女性に伝えた。
すると、彼女はこんなことを話してくれた。

『時代が時代なら、視力が悪い人も健常者とは区別されいた。現代では眼鏡やコンタクトをして視力を補うことができるのでそういう扱いはされない。今、私が会話できているのもチャットだったり、VOICEROIDのような技術が発展しているから』

視力が悪かった私はとても共感することができた。いずれ身体的な優劣はなくなるのだろうと、私は強く思った。現にゲームの世界では、彼女は私に劣るどころか優れていることの方が多かった。

そういえば最近実体としての在り様に左右されないエンターテイメントが流行っていたような気がする……セカンドライフとして機能しそうだなと注目していた……なんだっけ…………そうだ、Vtuberだ。

まったく余計なお世話だったが、その女性の在り方から考え方、話し方はとても魅力的だったし、それが世の中に認知されないのがとても勿体なく感じてしまったので、つい声をかけた。

「メールさん、一緒にVtuberやってみましょうよ」

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