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自称イケメンがTinder女子にぼったくられた話

はじめに

こんにちは!"自称"イケメンことEKです。
先ずは、このnoteに興味を持っていただきありがとうございます。

今回、私の処女作となるnoteを執筆いたしました。
本作は、婚活を始める以前、カジュアルにTinderを楽しんでいた頃の体験談となります。本編は読み物としてお楽しみいただくため物語調としておりますが、記憶の限り完全ノンフィクションとなります。少々長くなりますが、余暇の息抜きにでもお楽しみください。

それでは、どうぞ。

本編


俺は、高揚していた。

気が重かった打ち合わせが流会となり、時は17時、華の金曜日だ。今をときめく20代後半、コロナ禍の自粛ムードも一変した今、飲みに行かない選択肢はない。そのためなら、残りの仕事は土日に持ち越しても構わないだろう。

昂る気持ちを抑えつつ席を立ち、喫煙所の隅っこを確保する。まかり間違っても”あの作業”を見られるわけにはいかない。スマホを取り出し開くのは当然、”あのアプリ”。ピンク色の背景に、白い炎を模したアイコン。

そう、Tinderだ。

同棲していた彼女と破局し数ヶ月、俺はもっぱらTin活に勤しんでいた。チープな出会いとセックスで寂しさを埋めていたのだ。試しに始めたTinderは”俺の市場”だった。自慢のルックスと盛れた宣材写真を駆使することで、簡素なプロフィールでも1日100件を超えるLikeを獲得していた。

加熱式タバコをふかしながら、プロフィールの冒頭に [本日、都内で楽しく飲める人を募集しています!] と追記する。後は、同じく当日の飲み相手を募集している人を探し、右スワイプしてしばらく待つ。これだけだ。

自席に戻り30分程すると、早速Likeが集まってきた。俺はオフィスを離れ、近辺のカフェに移動する。これで同僚に例の作業を見られる心配はない。

Likeをくれた人に、手当たり次第 [本日ですが、大丈夫でしたでしょうか!?] なんてメッセージを送ると、反応が早い人からメッセージが返ってくる。希望の時間・場所などの条件を擦り合わせていくと、条件が合致する人が3人まで絞れた。

その中でも1人の女性に強く惹かれた。肩ほどまでの黒髪、顔は派手とまではいかないが独特でアンニュイな雰囲気。いかにもお洒落な、スラッとした印象の女性。どことなく小松菜奈さんを感じさせる。

『好みのタイプだ。この人と飲みに行こう』

そう決めて、他の人には先約が入ってしまった謝罪を伝える。この女性はTin子(仮称)というそうだ。Tin子はどうやら新宿を所望している。現在地から新宿までは電車で20分程。Tin子に到着予定時間を伝え、カフェを発つ。

『新宿だったら3丁目辺りかな、どこのお店にしようか』なんてことを考えながら、メッセージを続ける。どうやらTin子は、東口で集合したいようだ。『あのあたりは苦手なんだよなあ』なんて思っていたら、あっという間に新宿に到着した。

渋々東口交番前に向かい、俺の服装を伝えて5分ほどスマホを眺めていると

??「EKさんですか?」

女性から声をかけられた。

『!?!?』

顔を上げるとそこには、金髪のロング、ギャル風の派手目なメイク。身長は150cm程の小柄で、黒を基調とした露出が多めな服装の女性が立っていた。

警戒レベル:1

EK「Tin子さんですか…?」

恐るおそる訊ねる。

Tin子「そうです!」

Tin子の印象の違いに少々面食らったが、そこは流石の俺だ。即座にいつものペースを取り戻し、自慢のコミュ力を発揮する。

EK「髪色いいですね!明るくしたんですか?写真と印象が違ったので驚きました!」
Tin子「写真どんなのでしたっけ。覚えてないんですよね…」
EK「肩ぐらいまでの黒髪の写真じゃなかったっけ。結構前の写真でしたか?」
Tin子「あー、多分そうですね!結構髪型変えるから自分でも分からなくなっちゃうんですよね!」

この時俺は確かに『ん??』と思ったが、この頃は様々なTinder女子とやり取りをしていたため、マッチした女性のプロフィールはほとんど覚えていなかった。愚かにも俺は『髪型・メイクが大きく変われば印象も別物になるか』と納得した。そして何よりも、Tin子はかなりの美女だった。

警戒レベル:2

EK「ごめん。お店を予約する時間がなかったから適当に決めようと思うんだけど、金曜日だしいくつか良さげなお店に電話してみようかな。Tin子ちゃんは何か希望ある?」
Tin子「んー、行ってみたいお店があるんだよね!カップラーメンBarって言うんだけど…」
EK「カプラーメンBar!?なにそれ、カップラーメンが出てくるバー?」
Tin子「そうみたい!ここなんだけど…」

そう言ってInstagramの画面を見せるTin子。どうやらカップラーメンをコンセプトにしたバーのようだ。食べログなどの媒体ではないので情報量が少ない。若干の警戒心を覚えたものの、好奇心が勝った。

EK「面白そうだね、行ってみようか!場所は分かる?」
Tin子「大体わかるから案内するね!」

Tin子に着いて歩く道中、色々なことを話した。Tin子は24歳で、美容師をしており職場が近いこと。Tinderは彼氏探しではなく、気軽に飲める人を探していること。目的が一緒だねと盛り上がった。そんな話をしているうちに、Tin子はどんどん歌舞伎町の奥まで足を進める。それにつれて、じわじわと高まる警戒心。

Tin子「多分、ここかな…?」
EK「……マジ...…?」

立ち止まった先には、ホストクラブやキャバクラが入る雑居ビル。

EK「こんなビルにバーがあるの!?」

思わず内心が声に出る。

Tin子「そうみたい。ここの4階らしいけど、やっているか見てみようか!」

道中じわじわと増していった俺の警戒センサーが、ついに警鐘を鳴らした。

警戒レベル:8

雑居ビルの4階には、やはりホストクラブが入っていた。そんなやたらギラギラとした店々の端に、ひっそりとネオンが光るバーがあった。先ずはギラギラとしたお店ではないことにほっと胸を撫で下ろし、店内に入ってみる。

中には男性の店員が2人いた。どちらも年齢は俺と同じか、少し歳下くらいの20代中盤。1人はホストっぽい雰囲気で、細身で色白の、もやしを連想させる男性。もう一方は坊主頭に剃り込みで、身長は低めだがかなり鍛えられた体格の男性。

店内は『どう見てもキャバクラの居抜きだろ』と思わせるような雰囲気で、カウンター席が5席と、6人程座れそうなソファー席が2つ、ダーツ台が1台の小ぢんまりとした様子だった。店員以外のゲストはいなかった。

EK「ここって、カップラーメンBarで合ってますか?」
剃り込み「あーーー……カップラーメンっていうか、普通のバーっす(笑)」

『なんだ今の間は…?』

EK「あれ、業態変えたんですか?」
剃り込み「まあ…そんな感じっすね!」

Tin子に確認してみる俺。

EK「カップラーメンやってないらしいけど、どうする?」
Tin子「残念だけど、移動も面倒だしここにしよ!」

剃り込みの対応に少々疑問があったが『おかしな点があった時点で会計すればいいし、まあいいか』なんて思い、入店する。

ソファー席に案内され、もやしがおしぼりとメニュー表を運んできた。どうやら店員の上下関係は剃り込みが上らしい。システムの説明を始めるもやし。単品と飲み放題があり、飲み放題は1時間5,000円でショットドリンク以外の全メニューが対象、自動延長制とのことだ。

『飲み放題があるバーは珍しいな。』なんて思ったが、単品は1杯1,000円強と普通のバーと大差ない価格。『これならぼったくりみたいな金額にはならないか』と安心した。

大酒飲みの俺としては飲み放題でも良いことをTin子に伝えると、Tin子もよく飲む方だとのことだったので、飲み放題にした。念の為メニュー表をよく見ると、サービス料は20%とあった。

『半グレ崩れのこいつらにオーセンティックバーみたいなサービスが提供できるとは到底思えないんだが。高すぎだろ…!』

そう思った。

警戒レベル:3

メニュー表の価格に安心していると、俺の生ビールとTin子のウーロンハイが運ばれてきた。乾杯をし、しばらく雑談を楽しむ。Tin子の友人の話や、美容師はお金がなくて生活が苦しい話。俺が格闘技のプロ資格を取得した自慢話などをした。

しばらくするとTin子が切り出した。

Tin子「何かゲームとかしようよ!」
EK「ゲーム?飲みゲーとか?てかそういうのってサシ飲みでやるもん?(笑)」
Tin子「カードゲームとかだよ!よくバーに置いてあるじゃん!」

そんな印象は全くなかった。『彼女はバーを何と勘違いしているのだろうか?』そう思ったが、独特な文化が形成されている歌舞伎町、界隈の人からしたら普通なのかもしれない。無理やりそう納得させ、ここはTin子に合わせることにした。

EK「すみません、カードゲーム?とかって置いてたりするんですか?」
もやし「えーと。トランプしかないですね。」

『トランプあるのかよ』

もやしにトランプを持ってきてもらう。

EK「ゲームって何にする?2人だと、ブラックジャックとかハイ&ローかな?」
Tin子「どっちもやろ!何か罰ゲーム決めようよ」
EK「まあそうだね。負けた方が飲むって感じかな?」
Tin子「じゃあ、負けたらショットね!」

『罰ゲームでショットなんて、2人でやるもんじゃないだろ…』

かなりの違和感があったが、多少のことでは潰れない自負があった俺は、Tin子の提案を渋々受け入れた。

警戒レベル:5

先ずはブラックジャックをすることになり、先に5回負けた方が罰ゲームでショットドリンクを飲むルールとなった。

ゲームを開始した直後、新しいゲストが入店してきた。シュッとしたサラリーマンと、やたら派手な女性の2人組。女性はTin子よりも遥かに夜職味の強い『ドレスか?』といった服装で、少々無理な整形をしたような顔立ちだった。2人は隣のソファー席に座り、我々と同じくメニューの説明を受けていた。

そんなことに気を取られていたら、Tin子とのブラックジャックは負けがこみ、あっという間に俺の5回目の敗北となった。

Tin子「EKくんの負けね!何のショットにする?」

メニュー表を持ちながら聞くTin子。

EK「何があるの?飲めないお酒はないから何でも良いよ!」

メニュー表を見せてもらおうとする俺。

Tin子「じゃあコカボムにしようか!」

コカボム。コカの葉を原料としたアルコール度数30%程のコカレロリキュールを、レッドブルで割ったカクテル。アルコール度数が比較的少ないのと、緑と黄色のコントラストが可愛いことで女子人気の高いショットドリンクだ。

EK「コカボムで良いよ〜」

Tin子「店員さーん!コカボム5個で!」

EK「5個!?!?」

耳を疑った。

『5個!?5負けで1杯じゃないの!?サシ飲みで頼む量じゃねーだろ、イカれてんのか!?』

そう思った。

警戒レベル:10

EK「え、5個…?」
Tin子「5負けしたら5個じゃないの!?」
EK「いや鬼か(笑)普段どんな飲み会してるのさ(笑)」
Tin子「え…飲めないんだったら私が飲むけど…」

そんなこと、上がり切った俺のプライドが許す訳がなかった。

EK「いや、いいよ5個で」

コカボムを待つ間、ハイ&ローを始めるTin子。

『これは流石におかしい。何かが絶対におかしい。ハイ&ローを済ませたら爆速で飲んでお会計しよう』

そう心に決めた。しかし、早く退店したい気持ちを裏切るかのように、コカボムが来るのがやたらに遅い。

隣の席の2人組は、帰るようだった。

『もう!?』

彼らが入店してまだ30分程だったが、テーブルを見るとショットグラスが4,5個あった。

『そういうことか』

妙な納得感があった。ここでようやく、もやしの声が聞こえる。

もやし「お待たせしました。コカボムで〜す」

コカボムをゆっくりと運んでくるもやし。


今度は目を疑った。


コカボムは”5段”きた。



ピラミッド型に積み上げられたコカボムは、合計15杯あった。
しかも緑がかなり薄い。原価率の高いコカレロを節約しているのが丸分かりだった。ほとんどがレッドブルなのでアルコールは少ないが、シンプルに水分量が厳しい。

EK「え、何これ……5杯じゃなかったっけ……?」
Tin子「え…5個って言ったら5段でしょ...?」

『何で店員と謎の共通認識が生まれてんだよ!』

コカボムタワーをスマホで撮るTin子。それを見て思い出す。いつだったか、収入源が謎のセフレがInstagramでコカボムタワーを上げていたことを。

『なるほどね』

店とグルになって客に飲ませ、セコい小銭稼ぎをしているのだと確信した。
と言ってもいくらショットグラスを15杯頼もうが、せいぜい会計は2人で3万円がいいところだろう。サクラ女性のフィーが50%だとしても、リスクを取り過ぎなビジネスだ。賢いとは到底言えない。

警戒レベル:∞

EK「いや、流石に水分量的に無理だわこれ…」
Tin子「私も半分飲むよ〜」
EK「てかごめん。次の予定があってそろそろ帰らなきゃ」
Tin子「え、そうなの?そしたら今のハイ&ローの分の罰ゲームしたら出よう!」

涙ぐましい努力に、そのぐらいの分は払おうと思った。とにかく早く店を出たかった。

EK「いいよ。だけど”段”じゃなくて”杯”ね!?」
Tin子「わかった!今私が3負けでEKくんが4負けだから、7杯ね!」

『お前も飲むんかい。』

メニュー表を持ちながら何のショットにするか悩むTin子。

EK「もう何でもいいよ。何があるの?」
Tin子「えーと、コカボムと、クライナーと…
EK「クライナーにしよう!」

クライナー。可愛い小瓶に入ったウォッカベースのカクテルで、様々なフレーバーがある。アルコール度数は15%程と優しく、そして何よりも”小瓶なので積み上げられない”。

もやしにクライナー7杯とお会計を頼む。きっちりと”杯”であることを念押しして。

その間コカボムを飲んでいると、今度は直ぐにクライナーが運ばれてきた。何故かあの可愛い小瓶ではなく、ショットグラスに入っている。しかも高さ1cm程の極小量。原価削減のためわざわざ瓶から注いだのだろうか?だが7”杯”であれば、もう何でも良い。

速攻でクライナーを飲み干していると、伝票を持って近づいてくるもやしの姿。

お会計


もやし「お会計、こんなんになっちゃってます…」


EK「この俺が!?」


伝票を見た俺は、思わず心の声が出ていた。

伝票には、12万円強の金額。これは紛れもないぼったくりだ。


漫画や映画の世界では、いつもぼったくられるのは冴えないおじさんだった。現実でも、ぼったくりに合うやつなんて頭の悪いいかにもダメそうなおじさんだと思っていた。まさか俺のようなイケメンが被害に遭うなんて夢にも思わなかった。自分で言うのも何だが、俺はそこそこ賢い方だ。好奇心は強いが、リスクヘッジは常に考えている。そんなプライドが、音を立てて崩れ落ちていくようだった。悔しくて、情けなくて。目の前が真っ白になった。

EK「ちょっと待ってください……」

必死に冷静さを取り戻しながら、絞り出すように伝える。明細を見ると、原因は直ぐに分かった。ショットドリンクの価格だ。その他は想像通りだが、ショットドリンクだけ1杯4,000円弱の価格設定がされている。Tin子がメニュー表を持ち、自らショットを選んでいた理由を理解した。メニュー表を見られたくなかったのだ。

EK「ちょっとお手洗いに行ってきます…」

そう伝えトイレに入り、先ずは顔を洗う。

『冷静にならなくては』

スマホを取り出し、打開策のヒントを調べる。結論としては、メニュー表に記載されている内容は基本的に購買契約が成立していると見做されるため、法的に逃れることは難しいとのことだった。ただし警察を呼んで粘り続ければ、店側が折れて払わなくて済む。と言った体験談も多く見られた。

しかし、プライドの高い俺はそこで思う。

『警察を呼んで粘り続け、恥を晒してまでの金額か!?』

華の金曜日、まだ21時前だ。今スッパリ払ってしまえば、まだ金曜日を楽しむことができる。だが、12万円は決して安い金額ではない。そんなことを考えながら決め切れずにいると、ドアのノックともやしの声。

もやし「大丈夫ですかー?」

『うるせえ!!!』

ショックの次は、じわじわと怒りが湧いてきた。

俺は腹を括った。

『よし、値切ろう!』

交渉


EK「消費者保護法の観点から、品質に対する価格設定は適切なんですかねえ…?」

そこからの俺は、いかにももっともらしい言葉を並べつつ、薄っぺらい理論武装で交渉していく。その度に剃り込みへ相談に行くもやし。12万円だった金額は、11万、10万…と徐々に減っていき、それに比例するかのようにもやしの表情に怒りが浮かんでくる。

Tin子はやりとりの最中、財布すら出さずに気まずそうな様子。

『何だこいつは!?』

まあ、どうせお願いしたところで出さないだろう。生活が苦しい話は、このための布石だったのだ。回収することは困難だ。

現在の価格は9万円弱、もやしの表情はかなり険しい。

もやし「これ以上は無理です」

ぶっきらぼうに言い放つもやし。

『ここら辺が限界か…』

EK「わかりました。そしたら最後のもう一声、端数切ってもらって8万円なら払います!」

無言で剃り込みへ相談にいくもやし。

もやし「わかりました。特別に8万円にします
EK「ありがとうございます!カードで!」

『何で俺はお礼してるんだ??』

奥から剃り込みの声。

剃り込み「すみませーん!今、カードの機械壊れてて現金しかダメなんですよー」

『は??キャッシュレスが主流になりつつあるこのご時世、誰が8万もの現金を持ち歩くんだ??』

EK「いや、流石に8万も現金持ってないっすよ」
剃り込み「そしたら近くにファミマがあるんで、ATMでおろしてもらうしかないっすねー」

『怠すぎる』

恐らく、カード請求の支払い拒否により回収できなくなる可能性があるからだろう。

EK「わかりました。おろしてくるんで免許証とか置いとけばいいですか?」
剃り込み「いや、こいつ(もやし)がついて行くんで、荷物全部持ってもらって大丈夫ですよ。こいつにその場でお支払いください」

『逃げられないためか』

もう何でも良いから早く店を出たい。退店の準備をしてると、目の端でTin子を捉えた。先に準備が終わり出口付近にいたTin子が、剃り込みと何やらコソコソ話している。

『やはりグルか』

退店準備を終わらせてもやしと店を出ようとすると、

剃り込み「僕も一緒に行きますね!」

エレベーターにギリギリで乗り込んでくる剃り込み。

『いや、誰が店番すんの?? 』

その時ふと思い出す。Tin子が何やらコソコソと話していたことを。

『俺の格闘技経験の話を伝えたのか!?』

そんなつもりは微塵もないが、確かにもやしであれば秒殺して逃げられる。剃り込みは胸周りと腕がかなり太い。パワーで押されたら勝てないだろう。

『そんな情報まで伝えるなんて、共犯の鏡だな、Tin子』

エレベーターの中で剃り込みが話しかけてくる。

剃り込み「バーとか言ったことないんですか?(笑)」

『な訳ねーだろ○すぞ』

EK「いや全然そんなことないですよ〜。今回は勉強になりました(笑)」

なんて返しながら、大の男2人に囲まれ歩く俺。

『Tin子、お前はなんか喋れ』

ファミマに着き、ATMで現金をおろす。外では剃り込みともやしが睨みつけている。

『闇金ウシジマくんにこんなシーンなかったっけ?』

先程までフル回転させていた脳の緊張が解けたのか、再び悔しさと情けなさが込み上げてきて、ちょっと涙が出た。

EK「どうも勉強になりました!」

そう伝え8万円を渡す。確認が終わるのを待たずに踵を返す俺。

剃り込み「あ、ちょっと!一緒に帰らないんですか?」

『は?』

剃り込み「女の子と一緒に帰ってあげてくださいよー。」

『そいつはお前らの仲間だろうが!!! 』

仕方がなくTin子と帰路につきながら、妙案を思いつく俺。

『どんなビジネスモデルかTin子から聞き出せないか!?』

完全に好奇心だった。

EK「もう現金で払っちゃったから戻ってこないし何も言及しないからさ、どんな仕組みになってるか教えてくれない?フィーってどのくらいなの?」
Tin子「え、何のこと…?いつも職場の上司が払ってくれてたから、バーがあんなに高いとは思わなかった…」

『うるせえ!!!』

今日一番にイラついた。『表参道の美容室の売れっ子オーナーとかならまだしも、毎回10万円以上を奢れる人間がどれだけいるよ』なんてことを思いながら、Tin子から聞き出すことは諦め、早々に解散することにシフトする。

EK「じゃあ、またね!」

解散の挨拶もそこそこに、足速に喫煙所に向かう。

5分くらいだろうか。加熱式タバコの電源を入れたのに、一度も吸わずに加熱時間が終わっていた。完全に放心状態だった。

だが、流石俺のポジティブさだ。2本目の加熱時間が終わる頃には『誰かに話して面白いネタにしないと』と思えていた。

『そういえば、同業界の友人が笹塚に住んでいたな。久しぶりに、仕事の話も含めて語りたい』

早速電話をかける。

EK「もしもし?今暇してたりしない?今日めっちゃ面白い出来事あってさ、話したいんだけど新宿来れない?」

・・・

EK「え?女の子が欲しいって?そしたらTinderで2:2の飲み相手募集してる子見つけようよ!」


〜fin〜

おわりに

最後までお付き合いいただきありがとうございました!

後日談となりますが、この後友人と別のTinder女子と2:2で飲み、結局総額12万円を超えるお金を使ってしまいました...…
翌朝目覚め、隣で眠るほとんど知らない女性を見て前日の出来事を思い出した時、形容し難い強烈な虚無感に襲われました。『2度とチープな出会いに手を染めない』そう決意しました。

乱文乱筆で恐れ多いですが、面白いと思っていただけたら、noteのスキやTwitter(@Overlord1ove)のフォローをしてもらえると今後の執筆活動の励みになります!もちろん、ご感想やご指摘も大歓迎です!

それではまた、次回作でお会いしましょう。
ありがとうございました!

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