映画「終わった人」(2018)を観た
〜終わりかけの人が終わった人を見たらどうなるか2020春夏〜
公開前から少し気になっていたが、なかなか機会がなく、しばらく前(2020年冬頃か)にWOWOWで放送されていたので録画していた。単なるコメディで、自分とは関係のない遠い話に捉えていた。気が向いたら見てやろうかな、くらいに。
数週間後。まさか自分自身が失業という危機に直面するとは思わなかった。当事者意識丸出しで、無駄に暇な春の昼下がりに正座して鑑賞した。
主人公は、東大卒メガバンクに勤めるサラリーマン、舘ひろし扮するソウスケ。
映画はそのソウスケが出向先で定年退職の日を迎え、退職時刻の17時に差し掛かる
時計を疲れた表情で力なく見つめるところから始まる。
ソウスケ本人的には、若くして表彰を受けた後も順調にエリート街道を駆け上がり「日本を変えてやる」人生のはずだった。
それが出世レースに敗れ出向先で定年を迎え、まるで葬式のように黒塗りのハイヤーで職場から送り出されるサラリーマン人生の最期の日。
「散る桜 残る桜も 散る桜」
仕事という生きがいを失ったソウスケは寂しそうにつぶやく。
しかし、これから美容院を独立しようと意欲に満ちた妻には全く響かない。
まだ終わっちゃいない。俺の人生、まだ成仏していないんだ。
ソウスケは度々こう思い、しばしば訪れるチャンスに挑んでいく。
しかし現実は甘くない。面接先では学歴の高さを逆に冷やかされ門前払い。
いったん掴んだはずのIT会社の社長職も取引先とのトラブルで一転多額の借金を抱え、挙げ句の果ては妻とも別れる決断を選ぶ。
傷心のまま故郷に戻り高校時代のラグビー部と再会したソウスケは旧友との宴で本音を話す。強くありたかった一方で実は弱かった自分を正直に吐露する。
家族と離れ故郷で再出発するソウスケに、「卒婚」した妻が訪れ、二人の新しい人生が始まるところで映画が終わる。同級生が立ち上げたNPO法人を手伝い、そしてソウスケは国民的名車「カローラ」を乗りこなす。結局彼は負け犬だったのか、彼の人生は敗戦だったのだろうか。
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学歴は別として、都会へ出てきた同じ田舎者として、私はソウスケには強く共感するところがあった。高校のラグビー部の主将、勝手ながら自分の姿に重ねあわせてしまった。
決して他人にオススメできるハッピーな話ではないが、ソウスケが経験したことは誰もがいずれ何らかの形で遭遇する人生の局面だと思う。
静かにユーモラスに進むストーリーに流れる家族、故郷、仲間、仕事、成功と失敗、世間体といったメッセージは刺さった。
この映画を見た時期(2020年4月〜6月)は自身の仕事のことについて考えた時間と重なっていた。
思ったことは、自分自身がどうしたいかに尽きるんだなということ。もちろん他人の評価は気になるし、悪いより良く思われたい。しかし時代や情勢によって他人の評価軸なんてコロコロ変わってしまう。だから、そういうのを出来るだけ取っ払って、結局最後に残るのは自分がやってきたことと、これからやりたいこと、この2つに正直になって考える。これが大事なことだろうなと感じた。
ちなみに私が若い頃師事していたプロラグビーコーチから言われたことがある。
「ずっとカローラに乗る人生より、ポルシェに乗る人生のほうがいいだろう」
当時は確か中古の軽自動車に乗っていた自分にはカローラですらピンと来なかった。
それから約20年たったこの夏、カローラ買いました(^▽^)。とても快適である。