「正当性」と「正統性」の違いとは?言葉の違いを観察して思考力を鍛える
「正当性」と「正統性」は違う
「正当性」と「正統性」。
この二つの言葉の違いが気になったことってありませんか。
この二つはとても似た言葉ですが、実は違う概念です。
正当性とは、だれかの主張や行動が正しいか否かという点での性質です。
一方で、正統性は周りの人が納得してくれる、正しい手続きを踏んでいるか否かという性質のことであり、意味するところが異なります。
今回は、この「正当性」と「正統性」の違いについて考察してみたいと思います。
正しさは人によって異なる
「正しさ」とは、人によって異なる不確かな性質です。
自分の価値観や考え方と対立する主張は、たとえ他に賛成する人が大勢いたとしても、自分にとっては「正しい」とは感じられません。
ゆえに、そうした意見は自分にとっては「正当性がない」主張なのです。
ですが、倫理的に反する言動については、ほぼ意見の分かれることのなく、正当性がないと言えます。
人を殺してはいけないという主張は倫理的に正しく、殺人犯が「腹が立ったから殺した」と主張すればそれは正当性のない主張ということになります。
少し前にあった相模原障碍者施設殺傷事件では、容疑者の独特の思想は決して正当性がないと言えます。
手続きの正しさに人は従う
一方で、正統性については手続きが重要であり、プロセスが不正なく行われているか、が論点となります。
相手の主張が正しいか正しくないかは関係なく、正しいプロセスの下に導かれた主張や決定であれば正統性があり、皆が従うことになります。
選挙において支持政党とは異なる政党が与党となった場合、たしかにその政党は自分の意見を反映してくれる「正当な」政党ではないうかもしれません。
しかし、不正なく正しい手続きの下選挙が行われて決定された以上、その結果を国民は受け入れ、当選した政党に従うのが一般的です。
正統性が認められているために皆が従うわけであり、プロセスが正しいことを理由にその正当に権力を与えているわけです。
正統性が認められるには
それでは正統性が認められるためにはどんな要因が必要なのでしょうか。
まずは、前述した不正がなく正しい手続きが行われていることが重要であり、誰か個人の利益のために手続きが操作されてはいけません。
不正とはいえなくても、見落としや過失によって正しい手続きがなされていないことが分かれば、再度やり直したり、再審査したりすることが求められます。
また、その手続きが監視され、正しく行われていることが保証されている必要もあります。
政治やビジネスでは正統性が重要
企業活動でいえば、外部取締役や監査法人がこの役割を担っていると考えられます。
政治でいえば、メディアがその役割を担っているとも言えます。
政治家の汚職等を厳しく追究するのは正しい政治の手続きがなされるためにも重要です。
また、国民に政治的な議論や公開情報を広く知らせることで、正しく政治的プロセスが踏まれていることを知らせる役割も担っています。
監査法人は、企業の財務状況の報告書を審査してその内容をチェックしており、企業の報告の監督をしているわけです。
正当性と正統性の乖離
しかし、正統性が保証されていても、皆が従わない場合もあります。
政治でいえば、不信任決議がされるようなケースが該当します。
これは正統な与党への信頼が失われてしまった状況と解釈できます。
この信頼は与党の取り組みへの評価によって決まり、与党の政治によって国の状況に進歩や改善が見受けられるか否かによって判断されます。
また、不祥事や問題発言といった事件も大きくこの信頼を損なうことになり、周囲からの信頼を得られるているかが重要と言えます。
正統さが暴走を生むこともある
これまでみてきたように、正当性と正統性は異なる性質であることが分かります。
正当性がない場合でも正統性が一部の人々に認められて場合があり、とても危険な状況になることがあります。
ナチスのアウシュビッツでのユダヤ人迫害に関してはまさにこの具体例として挙げられます。
ヒトラーは第一次世界大戦の賠償金に苦しむ国民に、不満のはけ口を提供したとも言えます。
ヒトラーは選挙によって権力を握ったため正統な指導者ともいえますが、少なくとも現代的な価値観でいえば絶対に正当な考えとは言えないと思います。
正統性が認識されると、正当でないことも人々は正当化してしまう恐れがあり、権力の暴走が起きてしまうわけです。
したがって、正統性があるとしても、それを監視して疑問を投げかけ続ける姿勢が必要不可欠なわけですね。
まとめ
今回は似て非なる概念である、「正当性」と「正統性」について考察してみました。
よく似ている言葉を比べてみてその違いを考えると、新しい気付きが生まれます。
こうした小さな積み重ねが気づきのアンテナの感度をよくしてくれます。
身のまわりのちょっとした違いや異変を観察し、その背景を考えてみるといいかもしれません。