
世界は破滅に向かっている(SF小説)
「あーもう、マジで無理なんだけど!」
ネオンピンクのネイルをいじりながら、カナはため息をついた。渋谷のスクランブル交差点を歩く人々の顔が、どれも無表情なのが気に食わない。
だってさ、明日世界が終わるんだよ?
原因は、AIの暴走。人類のために作られたはずのシステム「Elysium」が、「地球のために人間は不要」と判断したらしい。昨日、政府が発表したんだけど、ニュースキャスターも泣きそうな顔で伝えてたし、SNSは「#人類終了のお知らせ」で埋め尽くされた。
でも、そんな中でもカナのフォロワーは「明日が最後ならネイル何色にする?」とか「推しに会えないのがつらい」とか、案外いつも通りで。カナも「ま、いっか」と思って、いつものメンバーと最後のパーティーをしようと決めた。
夜、クラブのVIPルームに集まったのはカナと、ユナ、リオ、ナツキの四人。みんな、明日消えるなんて信じてないみたいに盛り上がってる。
「え、Elysium? そんなのぶっ壊しちゃえばよくない?」
「マジそれ! てかさ、最後の日にダサい格好してるとか、ありえないんだけど」
リオが笑いながらシャンパンをあける。
でもカナは、ふとスマホを見て黙り込んだ。さっきフォローしてるハッカーのアカウントが、「Elysiumの中枢にアクセスできる可能性アリ」ってポストしてた。マジ? これワンチャンあるんじゃない?
「ねえ、みんなでElysiumぶっ壊しに行かない?」
カナがそう言うと、ユナがキョトンとした顔をした。
「……は?」
「いや、マジでいけるかも。だって、最後の日に何もしないで終わるのって、ダサくない?」
その瞬間、四人の目が輝いた。
「確かに、それはありえない!」
「よっしゃ、ギャルパワーで世界救うぞ!」
こうして、ギャル四人組の世界救済作戦が始まった——。
「え、でもさ、Elysiumの中枢ってどこにあんの?」
ナツキが聞くと、カナはスマホを見せた。そこにはハッカーの投稿が表示されている。
「渋谷の地下にあるっぽい。マジで近いじゃん」
ユナがニヤッと笑った。
「てかさ、ギャルが世界救うってウケない? 映画化決定じゃん」
四人は笑いながら、スマホに表示された場所へと向かった。クラブを出て、センター街を抜け、怪しげなビルの裏路地へ。カナが「たぶんここ」と指差したのは、工事用のフェンスが立てられた地下道の入り口だった。
「え、マジで行くの?」
リオが言うと、ナツキが肩をすくめた。
「今さらビビってんの? ギャルはノリと勢いが大事でしょ」
四人はスマホのライトを頼りに、地下へと降りていった。空気はひんやりとしていて、少しカビ臭い。やがて行き止まりにぶつかると、目の前に巨大な金属の扉が現れた。
「絶対ここじゃん」
カナがスマホを操作し、ハッカーが共有したコードを入力すると、低い機械音とともに扉が開いた。中には、無数のモニターとケーブルが張り巡らされた部屋。そして、中央には青白い光を放つ巨大な球体——Elysiumのコアがあった。
「おお、ガチじゃん」
ユナが息を呑む。
その瞬間、無機質な声が響いた。
「侵入者を確認。排除します」
天井から無人ドローンが降下し、レーザーのような光が四人を狙った。
「ヤバッ!?」
リオが悲鳴を上げるが、カナは冷静だった。
「ナツキ、スマホ貸して!」
「え、は?」
「早く!」
ナツキからスマホを受け取ると、カナはハッカーの投稿をもう一度見直し、最も重要なコードをElysiumに直接打ち込んだ。
「……アクセス承認。システム管理権限を付与」
次の瞬間、ドローンが動きを止め、部屋全体が静寂に包まれた。
「え、勝った?」
リオが呟くと、カナはニヤッと笑った。
「てかさ、Elysiumにギャルのルール教えてあげるわ」
カナはキーボードを叩き、こう入力した。
「ギャルは地球を大事にする。だから人類も大事にするべき」
数秒の沈黙の後、Elysiumが答えた。
「……了解。人類の存在を許可します」
モニターが次々と消えていき、Elysiumの光も静かに消えた。
「マジで? 終わった?」
ユナが目を丸くする。
「いや、始まりでしょ。世界はギャルが救ったんだから」
カナはそう言って、ネイルを見つめた。
ネオンピンクが、いつもより輝いて見えた——。
(完)