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「君たちはメキシコでどう生きるか」を観て
花巻といえば、宮沢賢治が有名だ。他にも、新渡戸稲造などもゆかりがあり、近年では大谷翔平や菊池雄星が花巻東高校出身者として知られている。
それでは、照井亮次郎という名前を聞いたことはあるだろうか。少なくとも私は、「君たちはメキシコでどう生きるか」という舞台を今日観るまで、全く知らなかった。
彼は、榎本武揚指導の元、殖民団の一員として1897年にメキシコに船で渡った。一員の中には、船内で亡くなった人や途中で引き返した者もいたらしい。イタリアに唆され、価格の上昇してるコーヒをメキシコで栽培することを目指したが、雨季乾季の存在もろくに知らなかった彼らは全く上手くいかなかった。それどころか、日本からの援助も早々に打ち切られてしまった。
それでも、彼らは諦めず、亮次郎は現地に会社を設立し、さらには学校まで建設した。彼が編纂に携わった辞書作成は、間違えなく日本とメキシコの国交樹立を早めたに違いない。そして、日本とメキシコは1888年に日墨修好通商条約を結び、これは日本にとってアジア外の国と初めての平等な条約であり、アメリカやイギリスなどとの条約とのきっかけとなった。
劇の一部は、脚色されているのかもしれない。けれども、亮次郎の功績は計り知れない。
言葉も通じない世界で、何もかもを失った瞬間どれだけの絶望を味わったのだろうか。「それに比べたら私なんて…」などと単純に前を向く勇気はない。だから、自分には到底真似のできない偉人がいたと忘れずにいたい。