空に浮遊する匙
河山山助は階段で足を踏み外した。
十段ほどの高さから踊り場に横たわるまでに奇妙な動きで落下したのだろう。右大腿骨と肋骨二本に加え右側頭部に裂傷を負った。
仰天した教師はすぐさま救急車を呼び山助は即座に救急搬送された。
重症ではあったが命に別条はなく、搬送先の病院での手術とリハビリによって三ヶ月ほどで運動機能は事故前の状態に回復した。
しかし、頭部の裂傷の傷口はきれいに再生されたが頭の機能に不具合が生じた。
山助は自分が拳ほどの「石」だと言い出したのだ。
最初はくだらない冗談だと相手にしなかった友人たちも山助の言動に「石」らしさを幻視するようになる。
山助によると、階段で足を踏み外す寸前に誰かの投げた石が後頭部に当たってその痛みによって体のバランスを崩したと言うのだ。
そして転落した山助は消滅し山助は、後頭部に命中したその「石」に成ったと言うのだ。
シュールな法螺話としてはで多少面白いが目の前にいるのはまぎれもない山助である。
頭がおかしくなったにしても相当ひねくれた狂い方で素直ではない。
理路がおかしいのだ。