静寂を書く。中上健次に就いて。

中上健次の小説の読みにくさの理由は沈黙を描写で表現しているからである。

『地の果て至上の時』の秋幸は寡黙である。
浜村龍造とサシで向かい合うと剣呑な空気の張り詰めるなかふたりは腹の探り合いのために言葉を発する。

お互いに殺すことも殺されることも想定内である。
必ずしも秋幸の殺意が先攻しているわけではない。

過去形ではなく現在形が多用される文末は読み手に焦燥感を与える。急かされる切迫感とふたりの五分と五分の睨み合いが読み手に妥協点を与えない。

突然の結末は読み手を宙吊りにしたままやってきて、去ってゆく。

路地の消滅は中上健次から書くことの根拠を奪わない。饒舌なのは言葉そのものであり話者ではない。