第六回芥川賞受賞作『糞尿譚』火野葦平著を読んでみた。
第六回芥川賞は昭和十二年下半期に当たります。
西暦では1937年。発表は翌年の一月になります。
日中戦争勃発の直後で火野葦平は伍長として陣中にいたのです。
受賞後に『麦と兵隊』『土と兵隊』『花と兵隊』の「兵隊三部作」で300万部(異説あり)のベストセラー作家になるのですが『糞尿譚』には兵隊も戦争も登場しません。
私はこのあと、あらすじと感想を書くつもりですが、感想は当たり前ですが主観です。
(あらすじ)
主人公の彦太郎は糞尿汲み取り業を営んでいます。
零細ですが、数名の社員を雇っていますし、人力で対応するライバル業者に対してトラックを使用するなど経営努力は怠らず、市の指定を受けるなど日々経営努力を重ねます。
しかし、赤字経営の為に僅かな資産を売却するなど自転車操業の苦境が続いています。
彦太郎は糞尿汲み取り業は今後、市営に移管する情勢にあるので、その際に事業を売却することでいっきに赤字を解消して大金を得ることを皮算用しています。そのためには、役所や市議の政争を利用するなど「裏ワザ」を使うことに躊躇はありません。ただ、事業を成功させることのみに専心しています。
そんな彦太郎ですが周囲の人々からは無能呼ばわりをされています。彦太郎はそんな人たちにいつか成功して見返してやると歯を食いしばり耐えています。
そこに市から委託されている委託料があまりにも低いとの嘆願が政争を利用することで進展します。それまで彦太郎の単独行動では梃子でも動かなかった市の行政は「有力な知恵袋」のたった一回の申立書提出によって緊急の予算措置がとられることになります。
そして糞尿汲み取り業のような万人に必須の設備は市の責任に於いて整備されるべきだという方向に市の意見が収斂されていきます。
遂に彦太郎念願の売却が現実になる時がきたのです。ところが彦太郎はここで致命的な失敗をしてしまう。
仲介役となった「知恵袋」に実印を渡してしまうのです。ろくに契約内容の説明を求めずに。
それまで、切れ者ではないが実直である彦太郎が無能扱いされることが疑問だったのですが、きっと過去にも調子に乗って損害を被ってきたことがあったのだろうと想定できます。
けっきょく彦太郎には二束三文の金額しか入ってきません。酒浸りの彦太郎ですがそれでも日常の仕事をしないわけにもいかず、トラックの荷台に搭載した糞尿を仮捨場に運び入れようとします。
ところが商売仇が仮捨場を占拠して妨害してきます。そして、押し問答の末に彦太郎は感情を爆発させます。運搬してきた糞尿を巻き散らかす強硬手段にでます。敵も味方も逃げ惑うなか、「貴様ら」と叫びながら。(あらすじ終わり)
感想
火野葦平といえば兵隊シリーズの作家として知られています。戦後、文学者としての戦争責任を追及されるなどして公職追放されてもいます。
そして1960年に亡くなっています。
当初は心臓発作と発表されていましたが13回忌の時に親族から自殺だったと真相があかされます。