#3 フィリピンの運転手さんたち(3)
前回に引き続き、フィリピンのマニラで出会った面白い運転手さんたちを紹介したい。
三人目も夜に乗ったタクシーの運転手さん。
この運転手さんはあまりお喋りが好きではないのか、自分からはあまり話しかけてこなかった。でも私から話しかけると色々と話してくれた。
英語はどうやってできるようになったのかと私が聞くと、英語は学校で習うもので、学校に行っていた人は英語が話せるけど、学校に行ったことが無い人は英語は話せないんだよと教えてくれた。そんな他愛ない話をしていた。
今の仕事が好きかと私が聞くと、まあ、好きというわけでもないけど悪い仕事よりはまだマシだよ、と運転手さん。
悪い仕事とは例えばどういうものかと私が聞くと、人を殺したりとか物を盗んだりとか、という答えが返ってきた。
なるほど…殺人や盗みは仕事のうちに入るのか。
少なくともこの運転手さんにとっては生活の糧を得る手段として殺人とか窃盗も選択肢のうちに入るのだな。
それまでの固定観念が崩壊する感覚があった。面白い。
最後は、宿泊先のホテルから乗ったタクシーの運転手さん。
タクシーを呼んで欲しいとお願いすると、ホテルのスタッフがタクシーを拾ってくれた。行先も伝えてあるから大丈夫ですよと言われ、安心してタクシーに乗り込んだ。
二人目に紹介した運転手さんのタクシーに乗った次の日だったが、このタクシーは外から見た感じも内装もなんの問題もなさそうだった。しばらくぼけーっとして外の景色を眺めていた。
何か確認しようとしたのだったか、運転手さんに英語で話しかけると、ペラペラペラと知らない言語で返事が返ってきた。あれ???今の言い方じゃ伝わらなかったかなと思い、別の言葉で言い換えてゆっくり話してみた。でも通じていない。向こうからもペラペラペラと何か言ってくるが、全く理解できない。その後も何度かトライしてみたが、どうやらこの運転手さんは、全く英語が通じないようだということが判明。軽くショックだった。
それまで乗ったタクシーの運転手さんとはみんな英語で会話できたし、観光地周辺にいる人なら当然英語が出来るだろうと高をくくっていた。
というか、フィリピンに来る前は、フィリピンの人はほとんどが英語が話せて日常的に使っているものだと思っていたのだが、そうではなかった。街を歩いていると聞こえてくるのはタガログ語ばかりだった。それでも、お店の人やタクシーの運転手に英語で話しかけると英語で答えてくれるので不自由はしなかった。
しかし、ここへ来て、まさかの英語ゼロの運転手、そしてタガログ語ゼロの私。タガログ語をちょっとでも勉強しておけばよかった、せめて翻訳アプリを用意しておくんだったと後で後悔。
幸いなことに行先はさっきホテルの人が伝えてくれているはずなので目的地にはなんとかつくだろう。それでもちょっとドキドキ。
さあ、もうすぐ目的地だ。運転手さんがペラペラペラと何か話しかけてきたが何を言っているのか全く分からない。
目的地に着いた。ここで降りたいと主張せねば。とっさに出たのは「ここで降ります!」という日本語だった。それでは伝わらなかったようで止まってくれなかったが、めげずに「ここ!」「ここ!」と強めに主張。そこで車を停めてもらうことに成功。料金を支払い、タクシーを降りた。
言葉が全く通じない相手を目の前にすると、人間とっさに母語が出るのだなあ。
私がマニラ滞在中に乗ったタクシーの運転手さんの中で英語が全くできなかったのはこの運転手さんだけだったので、もしかすると超レアな人だったのかもしれない。