えんど・おぶ・ざ・十七歳 つまりは
私の十七歳は銀杏BOYZのライブから始まった。君と僕だけが知らない宇宙へ。コロナ禍で声出しがだめだったから、真空管の中で叫んでるみたいだった、ほんとうに宇宙にほっぽりだされたみたいだ。たましいは吐息の熱となってとぐろをまいて、光まみれの舞台上へ押し寄せる。終演のあと、隣の席に居たお姉さんとご飯を食べに行った。訥々と、そのとき好きだった人の話を、おもしろおかしく、話したのだった。
何処にもいけないからSeventeen それは夕闇の逆再生
はじめて彼氏ができて、そのひとの地元の海に、色んな音楽を聴きながら、もしくははなしながら、全く知らない土地の知らないバスの、埃がきらめくような端っこの席で、恋人繋ぎはほとんど、もう、三角絞めみたいなきつさで、ノックアウトされてしまう。そのひとに尾崎豊の十七歳の地図を教えたのは私だ。ふたりで尾崎のWikipediaをみながら「家族を残して死ぬのは父親として最低だけどミュージシャンとして憧れるな」みたいなこと、言っていた。その人は二十七歳で死にたいって、お正月、実家で家族団らんをしている最中に、私にDMしてきた。その人とは遠距離で年の差で、もう、連絡先もすべて消してしまったから、一生会うことはない。趣味が合うってだけで、そのひとの人生のまるごとを愛せてしまう、というのが、青年期特有の魔法だ。ほんとうはあの人のこと、何も知らなかった。
光化学スモッグで教室と世界の縫い目があいまいに、なっていく。
好きだった人に振られた日、そのまま直行で友達とカラオケに向かった。広々としたエレガントルームに通されて、銀杏BOYZの駆け抜けて性春を歌いながらピアスをあけた。結局わたしは春休み中に塞いでしまったけれど、いまだにしこりは残っている。すべての思い出は傷となって私の全身に刻まれている。絆創膏を貼ろうか、レーザー治療をしようか、なんだっていいんだけど、とりあえず今は剥き出しのままで生きてみる。
輸血袋に針刺す夕映え 書きこむ家庭環境調査票も赤〜く
他人譲りのカルチャーを杖にして、サイズの合わないシンデレラの靴を補正に出して、踊り場で煙草休憩に混じったりして、だましだまし大人の階段をのぼっている。やっと今、十三段のぼって、前を向くとそこは絞首台だった!
LIFE IS (君のおっぱいが)ENDLESS(どう考えても僕の地平線だ)
今日、あさ、好きだった人と交差点でばったり、会った。弔いだと思った。恋の、ではなく、十七歳の私の。遺言のような鋭い目つきで、世界中が真空になる、言葉がでなくなる。わたし、優等生だから、すべての会話を思い出せる、どこで私が間違ったのかどこで嫌われたのかも、ちゃんとわかる。でもこの恋は乙女ゲームじゃなかったから。「永遠の恋は失恋だ」私がその人に告白しようとひっそり計画を立てていた、冬が溶けはじめてべたつく季節のねむたい午後、地学の先生がそういった。地学の先生は、未だに高校生の頃の恋を思い出しては胸がきゅっとなってしまうんです、と添える。「永遠の恋は失恋だ」スライドに赤文字ででかでかと表示されたその文字列は、自殺する人が遺書を書くように、生きている人の、残す、言葉、だった。
そうあたしは元十七歳、思い出=膿んだ傷口を愛す、華は燃える、天使は矯正器具をつかって翼を折りたたむ、電車にのるとき邪魔だからだ「せやねん俺、アンドロメダ銀河から来てん」ヘッドフォンで世界をとじこめて、あなたをにらみつけるよ、世界中の何処からでも革命ははじまるよ(桜桃一つ咥えるだけで窒息しそうな少女のぽっかり空いた口)生理が始まっちゃってもう毎日が血の日曜日事件じゃん? 誕生日ってカウントダウン式の生前葬?木魚は16ビートで頼んますわ「俺の愛はプライスレスやねん、せやからあんた、日本長者番付載れるで。」ここはきらきらの掃き溜めだ、誕生日パーティの日のゴミ箱みたいな最高の人生。
君が食べ残した給食のショートケーキの苺を八重歯でかじる。掃除時間には、南沙織の十七才が爆音で流れて、先生たちがノスタルジーで吐血する。嘘とポルノと選民思想とサブカルで浮腫んだ教室の隅、教室が本だったら、CDのフィルムだったら、ぜったい、私からめくるだろう。私から世界はめくれあがるはずだよ。
十代は生きてりゃそれで革命家 恋人繋ぎで拳銃握れ
少年少女のコスプレをした十七歳の私が、くっそつまらん大人になった私を線路のむこうから睨め。