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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第22話

第22話 シャムスの軍隊長と地方庁長

ーー前回ーー

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"ガチャ"
シャムス軍 軍隊長の部屋。
そこには訪問者が1人。

「・・・全く。部下に仕事を押しつけて、今回はどこに行っていたんだい?」
夕貴ゆうきは部屋に入り、その訪問者を見るやいなや溜息ためいきをついた。

「あはは・・・押し付けてるわけじゃないんだけどな、夕くん。」
そこにいたのは、シャムス地方庁長のいたるだった。相変わらず痩せこけ、顔色も良くない。
眼鏡のサイズもあってないのか、痩せこけた顔から落ちそうだった。

”ガシッ”
夕貴はいたるの目の前まで行くと、いたるの両頬を両手で掴み、いたるの身体に異常がないか確認し始めた。
「いててて。相変わらず力強いね、夕くん。いてっ。」

一通り確認し終えると、夕貴はいたるの両頬から手を離し自席に座った。
"ドスンッ"
「全く・・・会うたびに痩せこけて・・・。あんたの今の姿を見たら、ハナ・・も悲しむわよ。」
「・・・あはは・・ゴフォ・・・そ・・うかもね・・・。」

眉をひそめ、どことなく悲しい笑みを浮かべるいたる
夕貴は机にある写真立てに視線を移すと、いたるも合わせて視線を向けた。そこには、車椅子に座るピンク髪のやせ細った女性が笑顔で写っていた。
「・・・で。今回は何か手がかり・・・・は掴めたのかい?」

夕貴の問いに、いたるは不甲斐ないという表情を浮かべ頭を横に振った。夕貴は、そんないたるを心配そうに見つめた。
いたる・・・。心配なのは分かるわ。でも、あんたが身体壊しちゃ、コハル・・・が見つかっても悲しませるだけよ。」

夕貴が諭すようにいたるに言うも、いたるは不甲斐なさそうに頭をかくだけだった。
夕貴は立ち上がるといたるの近くまで行き、痩せこけたいたるの手を優しく握った。
「コハルはシャムス軍あたしらも必死で探してる。あんたが話したいって言ってた坂上コウモリの隊長にも連絡とって、隊員を1人連れてきてもらうことになったから・・・。まだ見つかってなくて申し訳ないが、必ず見つけ出すから。私のあんたへの心配もわかってくれ。じゃないと、天国にいるハナに顔向けできないわ。」

夕貴が必死にいたるに言い聞かせると、いたるは握られた手を弱く握り返した。
「・・・ありがとう。夕くん。いつも・・・ごめん。本当に・・・。」
「なんで謝るんだい?馬鹿な遠慮はやめな。」
「あはは。それでも・・・感謝は伝えるよ。ゴフォっ・・・ゴフッ。でも・・・だめなんだ。」

咳き込みながら、いたるは、何か訴えるように夕貴の手を強く握る。
「じっとしてたら、自分が自分じゃなくなりそうなんだ。コハルは・・・あの子はハナが残してくれた大切な大切な宝なんだ。」

唇を噛み締め、骨が浮き上がる手を爪を立てて自身の顔を掴むいたる
「今この瞬間も・・・怖い思いをどこかでしてるんじゃないかって、そう思うと俺の身体が張り裂けそうなんだ。一刻も早く連れ戻せるならなんでもやりたい。」
いたる・・・」
「コハルは・・・俺の・・・俺の心臓と言ってもおかしくない。あの子が消えてから、心臓ここをえぐり取られ、真っ暗闇の中で息ができないような・・・。そんな気分だよ・・・。」

いたるは、自身の胸を強く掴んだ。
悲痛の表情をするいたるに夕貴はため息をつき、やせ細ったいたるの身体を優しく抱きしめた。

”ぎゅっ”
「全く・・・あんたって子は・・・。理性から外れたことは嫌いだった子が、人の親になるとこんなに変わるとはね。」
「・・・ごめん、夕くん。」

夕貴は、いたるの骨の目立つ背中を優しくさすった。
「あたしに会いに来たってことは、またどっか行くのかい?本部の奴らはどうするんだい。あたしが言うのも何だけど、あんたの部下、そろそろ発狂しはじめるんじゃない?」
「ははっ。そうかも。ただ・・・、ちょっと行っておきたい場所・・・・・・・・・・・・・があるんだ。2、3日で帰るから、その後はちゃんと地方庁ここの仕事も本腰入れるよ。」
「・・・わかったわ。ちなみに、あたしも明日から首都ここを離れるから。」
「え?どこか行くの?」
「太陽の泉にね。」
「!、夕くんが直接いくの?」
「まぁね。うちの隊員馬鹿ども送っても、結局消えるから。あたしが行った方が早い。」

夕貴の言葉に驚きを隠せずにいるいたるは、何やら考えこんでいた。
「?どうしたんだい?」

いたるの考え込む様子に夕貴が不思議に思うと、少し慌てた様子でいたるは耳を触った。
「い・・・いや、俺も夕くんも首都ここを離れて大丈夫かと心配に思っただけだよ。」
「・・・。まぁ、休戦中だし大丈夫でしょ。唯一、面倒ごとがあるとすれば本部のやつらだけど、かがりがうまく対処するわ。あの子は私よりもそういうの上手いから。」
「夕くんは、拳でどうにかしようとするもんね。」
「ぁあ??」
「なんでもない。」

そんな他愛もない話に、ふと笑い始める二人。
「はははっ。低レベルな会話だね。ははっ。」
「あっははははっ!うっさいわね!子供ガキの頃の会話なんか、もっと低レベルだったわよ。ふふっ。」

夕貴の言葉に笑ういたるの様子を、何か考えながらじっと見つめる夕貴だった。



ーー次回ーー

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