僕はおまえが、すきゾ!(4)
次の日の日曜日、僕はデイケアセンターにいた。幾つか並んだ丸テーブルの上には、女主治医の趣味なのか、多肉植物が置かれていた。
高い天井は広いデイケアルームを更に広く思わせた。窓からは明るい陽射しが立ち込めていた。
僕は苛々した気持ちを、それが優作への嫉妬なのか、昨日のあの女への嫉妬なのかも分からないまま、それを誰にも言えず、デイケアルームに置いてある本棚の「名探偵コナン」のコミックスを読んでいた。
昨日はワイルド・スピードの最新作をAmazonプライムで優作と観る筈だったのに……。あの女のせいで、楽しい夜もパアだ。
優作も優作だ。僕との約束を反故にしてまで一緒にあんな恋愛映画を観る価値があの女にはあったのか?僕との友情よりも、大切なものがあの女にはあったのか?
そう考えながら、10分前から同じページばかり見ている僕に、女性看護士が声を掛けて来た。
「ワイルド・スピードの最新作、観たんでしょ?どうだった?」
看護士の彼女は齢は20代後半ぐらいだろうか、それでもあどけない笑顔は、まだ高校生と言っても、通るような顔つきだった。
今となっては、あんなへっぽこ優作よりも彼女の方が僕の唯一無二の味方になってくれるように思えた。
「観てないよ、そんな映画」
どうしてー、と彼女は大げさに驚いた顔をして、僕に問いかけた。
「ワイルド・スピード、先週あんなに楽しみにしてたじゃない」
と言って、彼女は僕の座るテーブルの前の椅子に座った。
優しいな、彼女。僕はボンヤリそんな事を考えていた。
「あの、僕ぐらいの年齢の男で、恋人がいないのって、おかしいんでしょうか?」
ボソリと僕は呟いた。
「何何―、恋の悩み?武田さん、好きな女の子出来たの?」
屈託の無い彼女の笑顔が眩しかった。