誰も助けてくれないなんて事は無い。
いのちの電話は僕のライフライン。
僕はいのちの電話に電話を掛ける、毎晩。
挨拶を交わし、僕は何を言う訳でもなく、黙る。
電話の相手も僕を優しく受容してくれて、黙って僕の話し出すのを待ってくれる。
話したい事など特になく、お互い受話器の向こうとこちらで黙り込む。
そのくせ、僕には話したい事で胸が一杯なのだ。
誰に聞いてもらいたい話でもないが、今日の晩御飯は野菜のゴロゴロ入ったクリームシチューだったよ、とか。
話したい事を話せないでいる僕、その意気使いを静かな沈黙で受容してくれている電話の向こうの誰か。
そんな緩やかな時間が流れる深夜2時。
受話器の向こうから声が聞こえた。
「今日の晩御飯は何でしたか?」
僕はその声に、その質問に思わず癒される。
「シチューでした」
電話の向こうで女性の声がする。
「美味しかった?」
彼女は必要以上の事は聞かない。
僕は上気して答える。
「母さんが熱を出して、僕が作ったんだ」
深夜2時。
優しい夜が更ける。