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クリエイティブの源泉

ファブラボという施設を山口県山口市で運営しています。ちょうど8年前の2015年6月に、ファブラボ山口βをオープンしました。

ファブラボ(英: Fab Lab、fabrication laboratory)は、 「ほぼあらゆるもの("almost anything")」をつくることを目標とした、3Dプリンタやカッティングマシンなど多様な工作機械を備えたワークショップ。世界中に存在し、市民が自由に利用できる事が特徴。「ほぼあらゆるもの」の中には、大量生産・規模の経済といった市場原理に制約され、いままでつくり出されなかったものが含まれる。ファブラボは、個人が、自らの必要性や欲求に応じて、そうした「もの」を自分(たち)自身で作り出せるようになるような社会をビジョンとして掲げており、それを「ものづくり革命 (Industrial (Re)volution:第2次産業革命)」とも呼んでいる。「ファブ」には、「Fabrication」(ものづくり)と「Fabulous」(楽しい・愉快な)の2つの単語がかけられている。

ファブラボ(Wikipedia)

ファブラボは、マサチューセッツ工科大学(MIT)で行われていた研究の、アウトリーチ活動としてスタートしました。Center for Bits and Atoms(CBA)の所長でもあるニール・ガーシェンフェルド教授と、メル・キング元MIT非常勤教授が、ボストンの貧困区とインドの小さな集落にラボを設置したのが始まりと言われています。

そこから、世界中のコミュニティによる草の根的な活動によってネットワークが拡大。2023年6月現在で125ヶ国・2,500以上のファブラボがあり、ファブラボ山口もそのひとつです。

つくる人をつくる仕事

ファブラボ山口では、ファブラボのビジョンに則って、「自分たちに必要なものを自ら考え、自らの手でつくる、ものづくり人材の育成」という方針を掲げています。

ファブラボを運営して4年が経過したころ、活動を総括する発表の場をいただきました。そこで改めてファブラボを通して学んだことを整理したところ、「デジタルファブリケーションを通した創造体験は、チャレンジのハードルを下げる。」といった結論に行きつきました。

テクノロジーの進化によって、チャレンジのハードルが下がるという現象は、2000年代以降に爆発的に加速したという印象があります。デジタル化とオンライン化がクリエイションと流通のハードルを下げ、誰もがデジタルクリエイターになれる時代を作り上げたのです。

ファブラボの説明をするときに、よくYouTuberを喩えとして挙げます。かつてスタジオと高額機材と放送免許を持たなければ、映像を全国に届けるのは難しかった時代がありました。それが今やスマートフォンとネット回線さえあれば、誰もが全世界に向けて映像を配信できるようになりました。

ものづくりの現場でも同様のことが起きていて、2010年代にデジタルファブリケーションとネットコミュニティを駆使したメイカームーブメントが話題になり、現在も世界中でメイカーズコミュニティの発展は続いています。

つくる人にとって頼もしい施設

2011年に奈良県で参加した「自分の仕事を考える3日間」というイベントで、編集者/ディレクターであり美大の講師でもある伊藤ガビンさんが、以下のように話していました。

美大生の卒業制作をずっと見てきて、集大成としていい作品をつくる人がどんな人かというと単に作業量が多い人です。これは100%そう。そういうものとしか思えない。感性の良し悪しじゃあない。感性が本人に具わっているものを指すのなら、「いっぱい作業できる性格」と言う方が近いんじゃないか。

わたしのはたらき~自分の仕事を考える3日間Ⅲ(西村佳哲 with 奈良県立図書情報館)

「作業量が多い人がいい作品をつくる」という考え方に、私も共感します。仕事で様々なクリエイターの方とご一緒するとき、またデジタルハリウッドという学校で受講生さんの課題を拝見するとき、たくさんつくる人のほうが良いアウトプットができる傾向にあります。

手が動く人たちにとっては、ファブラボのような施設は頼もしい存在です。つくりたいものが明確にある場合、作業負担を軽減したり高度な加工を施したりするのに、デジタルファブリケーションはとても強力な味方です。

つくらない人はつくる人になるか?

しかしその一方で、いくらものづくりのハードルが下がったからといって、誰もがつくる人になるわけではないという実感もあります。

つくる人とつくらない人には0と1の差があります。数字にすれば僅差ですが、この差は本当に大きい。あたかも、つくらない人は生まれながらにしてつくらない人なのでは?と思えるぐらい、つくる人とつくらない人には明確な違いがあるように思えるのです。

人は何をきっかけにつくる人になるのか?ファブラボを始めてからというもの、そのことがずっと気になっていて、自分なりの答えを探しています。

ひとつの仮説としては、気軽につくってみるという機会を提供することで、ものづくりの面白さを知る人が増えるのではないか?というものです。これはワークショップやイベントなどを通して取り組んでいます。

もうひとつ、つくる人やつくる人の作品に触れる機会を提供するという案を考えています。これについてはまだ実績がないので、これから半年ぐらいかけてやり方を検討していきます。

クリエイティブの源泉を掘りあてる

未来学者アルビン・トフラーが1980年に発表した著書『第三の波』の中に、生産者 (producer) と消費者 (consumer) とを組み合わせた「生産消費者 (prosumer) 」という概念が記されています。

トフラーは著書のなかで、生産と消費という二つの機能がはっきりと分断したのは、18世紀に始まった産業革命以後のことであると延べています。このあたりで、つくる人とつくらない人の分断が発生したのかもしれません。

第三の波の社会では、人々の多様化(非マス化)、製品のカスタマイズ性の向上、テクノロジーの発展などにより、分離した生産者と消費者が再び融合する傾向を示し、新しい形で生産消費者が復活すると説いています。

古い本は、ときに預言書のような役割をしてくれます。私たちが生きているこの時代に、まさに第三の波が押し寄せていると思えてなりません。80年代以前から続く巨大な変革の波です。

ものづくりに限らず、デジタルクリエイティブのハードルは年々下がっています。ジェネレーティブAIによって、その波は更に加速することでしょう。それでもなお、つくらない人はつくらない人であり続けるのでしょうか?

つくらない人とつくる人の端境に居る人は、きっかけさえあれば境界線をまたいでつくる人になるかもしれないし、眠っていたクリエイティビティが目覚めるかもしれません。その瞬間に立ち会ってみたいです。

ファブラボ山口は10年目に向かって、これまで以上に創造力を刺激する施設を目指していきます。お楽しみに。

第三の波の時代のコミュニケーション・メディアの力を借りて、われわれは自分の内部にある、純粋に個性的なものに具体的な形を与えるだけでなく、自分自身の自我像の生産者、というより生産=消費者になろうとしているのだ。

第三の波(アルビン・トフラー)

では。

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