相手の幸せを願う別れとは
あなたは、私と一緒に(俺と一緒に)いるより、離れたほうが幸せになれると思うから。と言って、相手を振ることは、単に、好きじゃなくなったと言って振るよりもずっと簡単なことだと思う。
私が(俺が)どうこうじゃない、あなたのことを思って、ただあなたに幸せになって欲しいから、と、さも相手の幸せを願っている風を装って、本当は自分が我慢できなくなっただけ。ただ好きが薄れてしまっただけ。それでいて一緒に居れなくなるのは、まるであなたのせいだとでも言いたげな振り文句は、酷く残酷で、醜いものだと思う。
あくまで原因は自分にある。自分にあるけど、自分のその欠点をあなたは受け入れることはできないでしょ。それに無理に受け入れたりしたら不幸になる、と決めつけていて、つまり自分の欠点を受け入れられないあなたに非があると、読み取れてしまう。
私は、こういうセリフで人を振ったことがある。でもその裏にはやっぱり「もうあなたのことが好きじゃない」が明確にあって、でもそれを正直に伝える勇気はなく、あくまであなたの幸せを願っているを盾に、逃げたんだと思う。最低。
そして今、私は反対に、それを受ける側になっている。昨日の夜「俺といたら、あなたを不安にさせてしまうし、幸せにしてあげられないかもしれない」と言われた。正確には、「でも、それでも好きだから一緒に居たい」と付け加えられていたし、本人は後半が本当に伝えたかったことで、前半は言葉選びを間違えた、と何度も何度も謝っていたけど、私は一晩経ってもやっぱり、前半の言葉がずっと脳裏にこびりついて、それだけじゃなくて、しつこいくらいに私に囁きかけてくる。
本当に、このままでいいんだろうか。私は、いつ捨てられるか分からない不安を抱えて、あの人と一緒にいることはできない。今日初めてはっきりと、「別れたい」と思った。でもまだこの決心に自信は持てない。たったいっときの気の迷いかもしれない。それでもはっきりとそう思ってしまったことは、きっとこれからのあの人との関係に何かしらの影響を与えるだろうし、それがいいものである可能性は限りなく低いと思う。
本当に好きで、ずっと一緒にいたいと思えた人だった。私はずっと結婚したかった。結婚願望というと、相手は誰でも良くてただ結婚できればいいようなイメージが先行するけど、私はそうじゃなくて、「結婚したいと思えるような人と出会いたい」という気持ちがとにかく強かった。
恋愛気質で、すぐ人を好きになるけど、結婚したいと思えるほど好きにはなれない。そんな自分が、この人だと確信した。一緒にいる未来が鮮明に見えた。付き合うとかすっ飛ばして、今すぐ婚姻届をもらいにいきたい。結婚できるかどうかという不安を抱えていたくない。すぐに、法のもとで、この人に愛されたい。永遠に愛されたい。そんな風に思ったのは、大人になってから(社会に出てから)初めてだった。
冬になったら同棲しよう、5月になったらプロポーズしてね。付き合って少し経った頃、そんな約束をした。待ち遠しかった。でも案外時の流れは早くて、あっという間に9月になった。もうすぐ付き合って半年になる。もうすぐ同棲か。人生最後の一人暮らしだ、なんて少し気合が入る。となると、5月なんてもうすぐそこなんじゃないかと思ったりもした。
でも、多分、私たちに5月は来ない。もう、私の隣にあの人が、あの人の隣に私がいる想像ができない。優しくて、あったかくて、面白くて、可愛くて、どうしようもなく好きだったあの人が、まるで別人のように見える。私も同じように、きっと彼の目には別人のように映っているんだろう。
早く離れたくて、でもどうしたらいいか分からない。とりあえず、ちゃんと呼吸をする。まずは、自分が、自分の意思をしっかり確認して、間違いがないか、後悔しないか、ちゃんと考えて、そして答えを出す。いや答えはもう出ているから、そこに至るまでの途中式を整理して、自分の答えに自信を持ちたい。
本当に大好きだった。できることなら、出会い直して、ちゃんとした関係をもう一度築きたかった。次はうまくできるから。そして次こそはわたしがあなたを幸せにしたかった。