年末年始に読む本 『樹木たちの知られざる生活』

▼年末年始は時間の流れが変わるから、いつもと違う時間の流れを感じることのできる本を読む。旅の多い時期でもあるから、できれば文庫や新書サイズがいい。

筆者のオススメはペーター・ヴォールレーベン氏の傑作エッセイ『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声』だ。(ハヤカワ文庫、長谷川圭訳。原著は2015年)

▼どの頁をめくっても驚きが満ちている。たとえば、あるブナ林で、〈信じられないことに、そこにある木はどれもまるで申し合わせたかのように同じ量の光合成をしていた。〉(28頁)。木によって、環境が千差万別であるにもかかわらず、だ。

秘密は「菌」だという。〈豊かなものは貧しいものに分け与え、貧しいものはそれを遠慮なくちょうだいする。ここでも、菌類の巨大なネットワークが活躍し、出力調整機能のような役割を果たしている。あるいはまた、立場の弱いものも社会に参加できるようにする社会福祉システム、といえるかもしれない。〉(29頁)

ブナの木が密集しすぎると、生長によくないからといって、専門家たちは切り倒すことがあるという。しかし、〈リューベリックの専門家が、密集しているブナ林のほうが生産性が高いことに気づいた。資源(主に木材)量の年間増加率が、密集林のほうが明らかに高いのだ。つまり、密集しているほうが木が健康に育つ。養分や水分をよりうまく分配できるからか、どの木もしっかりと生長してくれる。〉(同)

隣の「邪魔者」を取り除くと、〈連携を失った森にはたくさんの“敗者”が立ち並ぶことになる〉(30頁)というのだ。

“社会の真の価値は、そのなかのもっとも弱いメンバーをいかに守るかによって決まる”という、職人たちが好んで口にする言葉は、樹木が思いついたのかもしれない。森の木々はそのことを理解し、無条件に互いを助け合っている。〉(31-32頁)

▼「共生」と「併存」との間で知恵を絞るべき明年を迎えるにあたって、いま読むにふさわしい一冊だ。

(2018年12月30日)

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