東京は残念ながら医療崩壊しつつある件
▼海外から小誌を読んでいる人もいるようなので、東京の現在の報道をいくつか点描しておく。
▼まず、多くの日本人にとっておなじみの顔になった尾身茂氏のインタビュー。新型コロナウイルス感染症対策分科会長。2021年1月6日付の読売新聞から。鷹尾洋樹記者。適宜改行。
〈日本はリスクコミュニケーションが苦手です。
専門家は技術的なことを提案し、政治家が決定します。国と専門家の意見が食い違うこともあります。
その時、「どうして専門家の提案を採用しないのか」を国民に分かりやすく説明することが大事です。
政府の新型コロナ対応では、そこが国民に伝わりにくいという難しさがありました。〉
▼尾身氏はつねにソフトな言い方をするが、要するに首相官邸の力不足を今すぐカバーしなければならない、ということを言っている。
菅総理が今より少し正直に話すだけで、ずいぶんと社会の空気は変わると思う。
▼同日付の読売1面トップは、
〈入院長期化 ICU満床/救急も停止「現場もたない」〉
品川区の昭和大学病院が、1月2日から〈心筋梗塞や脳卒中の救急患者の受け入れを、ついに停止せざるを得なくなった〉話をルポしている。
マスメディアでは、まだ「東京が医療崩壊している」と明言する報道はないが、残念ながら、東京は医療崩壊しつつあると言わざるを得ない。
▼1月7日付の毎日新聞では、以下の見出しの記事が載っていた。
〈3000人超入院/東京の病床88%埋まる/増やせば通常医療圧迫〉
医療関係者の「限界が近づいている」「現場はぎりぎりだ」「都内の医療現場は想像以上に危機的状況にある。あらゆる手段で感染者を減らすことが必要だ」などの声を報じている。記者は竹内麻子、内田幸一、斎川瞳の3氏。
▼東京新聞の2021年1月6日付に、
〈感染させぬ「利他心」カギ/渡辺努・東大教授〉
という記事が載っていた。オンラインでは、よりくわしい見出しが載っていた。みくらべると、紙版の見出しはオンライン版から省略したことがわかる。
▼感染拡大を防ぐには、人の心を変えなければならないわけだが、とはいっても、心は無数に変化する不思議なものであり、渡辺氏は、常に移ろい続ける人間の心の、どの部分に焦点を当てるべきかに言及している。
いわく、これまでは「恐怖心」だった。これからは「利他心」である、と。
〈2回目緊急事態宣言 感染したくないより感染させない 「恐怖心」弱まり「利他心」がカギ 東大教授が指摘〉2021年1月6日 06時00分
〈新型コロナの流行が長期化し「コロナ慣れ」「自粛疲れ」も広がる中、2回目の緊急事態宣言に効果はあるのか。東京大の渡辺努教授(マクロ経済学)は「昨春、外出を抑制した感染への『恐怖心』は弱まっている。今回は、周囲にうつさないという『利他心』が鍵を握る」と話す。
◆前回の宣言時、外出減ったのは「恐怖心」
渡辺教授らはNTTドコモの協力を得て、全国の約7800万台のスマートフォンの位置情報を基に人の動きを分析した。昨年4月7日の緊急事態宣言後、東京都内では外出が約6割減り、新規感染者の減少につながったとみる。
ただ、緊急事態宣言による直接の効果よりも、渡辺教授は「増加する感染者数の情報などに接し、多くの国民は『自分もかかるかも』という恐怖心から外出を控えていた」とみる。
その恐怖心は昨夏の第2波以降、「弱まっている」とも。新規感染者数が増えても外出は減らないことから明らかだとし、特に、感染しても重症化しにくいと知った若者に顕著という。
◆意識変化促す対策を
「感染を怖がらないと若者が考えるのは合理的だ。今後は、恐怖心でなく、周囲に感染させないように心掛ける『利他心』に訴える必要がある。互いに守りあおうと訴えるメッセージを、政府は出すべきだ」
スマホの位置情報の分析では、女性と比べて男性の方が外出する割合が高いことも分かっている。性別や年代別の行動状況を示し、人々の意識の変化を促すことも考えるべきだという。(土屋晴康)〉
▼太字にしたところが具体的な分析と提言だ。そもそも、恐怖心に訴えるのは筋違いだと思うが、もはや恐怖心で人は動かない。
しかし、コロナを怖いと思わなくなったのだが、感染者は増え続けている。
だから、利他心に訴えかけるという提案は、とても重要だ。
▼以下は、まったく利他心とは関係のない話だが、医師の友人が、「これからしばらくは交通事故に注意しろ」と言っていた。なぜかというと、事故に遭って大けがをしても、場所によっては、手術を受けられない可能性があるからだ、という。
医療現場の感覚と、社会生活の感覚とが、かけ離れつつある。
医療崩壊しつつある、とは、こういうことなのだと感じる。
(2021年1月7日)