神戸の神出(かんで)病院で性的虐待が横行していた件
▼読んでいて、反吐(へど)が出る記事、吐き気に襲われる記事というものがある。それは何種類かあって、ひとつめに、その記事自体が誰かを差別しているもの。ふたつめに、記事で告発されている内容が、あまりにひどいもの。
今回は、ふたつめのほうだ。
内容は、優生思想のあからさまな暴発である。
▼2021年3月28日付の毎日新聞に、精神科病院で行われていた性的虐待についての記事が載っていた。
▼1面肩の見出し。
〈入院の息子に虐待なぜ/神戸の精神科病院 説明なく母、不信感〉
▼3面トップの見出し。
〈「弱い立場」家族は沈黙/神戸・精神科病院 性的虐待/「他の預け先ない」/行政やっと動きだす〉
▼これは、神戸の神出(かんで)病院という精神科病院での事件だが、毎日新聞が報道を続けている。
上記の見出しを見れば、大意がつかめる。
4月26日配信の続報では、〈入院患者への虐待事件があった神戸市西区の精神科病院「神出病院」で、職員の半数近くが虐待を認識し、全病棟での違法な隔離が10年以上前から常態化していた疑いが市のアンケートで判明した。〉と報じている。
具体的にどんな虐待があったのか。
〈虐待事件は18~19年、重度の精神疾患がある患者の入院病棟で起きた。20~40代の男性看護師ら6人が患者の下着を脱がせてジャムを塗り、「ちゃんとなめろよ」と言って別の患者になめさせ、男性患者同士にキスもさせた。逆さまにした柵付きベッドをかぶせて閉じ込め、トイレで裸の患者の顔にホースで水をかけた。6人は撮影して無料通信アプリ「LINE(ライン)」で共有していた。〉
▼虐待していた看護師らの裁判での証言。
「看護師長らが率先して虐待していたので、そういう人が出世するんだと感じた」「(自分がする前に他の職員の虐待行為を)上司に相談したが、その上司も虐待に加わっていたので、大した話にならなかった」「上司が患者をからかって怒らせていた。患者をおちょくって一人前という空気があった」
▼神出病院の対応は、被害者にとっては乏しいもので、病院のウェブサイトに〈事件を見過ごした管理体制についての調査や検証、再発を防止する抜本的な改善策は記されていない。神出病院は神戸市内の精神科病院で最大規模の465床〉。
ということで、行政も重い腰を上げた。
▼担当記者である反橋希美、韓光勲、春増翔太の各氏の地道な取材力が実を結んだ特集記事だった。
▼三密を避けるコロナ下の社会で、かえってこれまでよりも密室に閉じ込められている人々がいる。
▼個人の努力だけではどうしようもない問題を社会問題と呼ぶ場合があるが、それまで見えていない社会問題を問題視するためには、一か所で起こっている問題を深く正確に記述する努力を、幾つも繰り返すしかない。その繰り返しから、各所を横断する問題が見えてくる場合がある。
その意味で、新聞の調査報道は極めて貴重な社会の宝である。
この毎日新聞の報道は、優生思想が、組織の事勿(ことなか)れ主義と結びつくと、どういう地獄を生むのかを示した、好例である。
(2021年5月6日)