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コロナ検査は、未だ見えない「出口戦略」=経済再開に不可欠な件

▼ゴールデンウィークが明ける前後から、新型コロナウイルス対策の「出口」、という言葉がマスメディアに噴出している。今号は、その「出口戦略」、つまり経済再開についての話。

▼2020年5月5日付の各紙は、緊急事態宣言の延長を受けての報道だった。毎日新聞と日本経済新聞に、強い政権批判の記事が載った。

まず、毎日から。

〈新型コロナ 医療に安全保障の視点を〉(編集編成局長・砂間裕之)

これは骨太の話だった。

〈どこで対応を間違ったのだろう。比較的うまく抑え込んだ台湾や韓国、ドイツと何が違うのか。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が続くなか、ずっと考えてきた。緊急事態宣言は今月末まで延長されたが、PCR検査数は相変わらず低迷し、医療物資も足りない。迷走と混乱の原因は政府の新型感染症に対する甘い認識であろう。そこで提案したい。政府には、医療を安全保障の一つと位置づけ、ウイルスを封じ込める医療体制の再構築に取り組んでほしい。

▼砂間氏は、薬の自給率の問題を挙げる。要するに、日本の薬が中国の原料に依存している問題。

〈新型コロナ治療の切り札として期待される抗インフルエンザ薬「アビガン」が、中国原料に依存していることが判明。政府は、4月30日に成立した補正予算の緊急経済対策で、医薬品の国内製造を誘導する補助制度を急きょ作り、「穴」を繕(つくろ)った。〉

▼この医薬品の自給問題とともに、ほとんど報道されていない保健所の問題も挙げた。

〈医薬品以上に深刻なのは、保健所の機能不全だ。保健所は、約30年前のピーク時に比べ全国で半数近く減り、過重な負担を強いられている。〉

▼筆者は、「いま言っても仕方ないこと」はなるべく書かないようにしている。新型コロナウイルスに関しても、「いま言っても仕方ないこと」が幾つかある。この保健所の半減の話は、その一つだ。

だが、すでに先月末にNHKも報道していたので、合わせて紹介しておく。

瀬戸際の保健所 いま何が起きているのか〉2020年4月28日 23時07分

全国の保健所は平成4年には852か所ありましたが、平成の大合併などの行政改革によって統廃合され、ことし4月には469か所とほぼ半減しました。

例えば、東京23区では、平成9年度に世田谷区や大田区でそれぞれ4か所あった保健所が1か所に。大阪市も平成12年度に市内24区の各保健所が統合されて1か所になりました。また、横浜市でも平成19年度に市内18区の各保健所を、名古屋市も2年前に市内16区の各保健所を、それぞれ1か所に統合しています。

専門家によりますと、統廃合が進んだことで、今回のような感染症の分野と精神保健などの分野を兼任する職員が多くなり、十分な人手を確保できていないということです。〉

▼これは、日本が「出口戦略」を立てられない状況に陥った遠因であり、極めて大きな問題なのだが、「いま言っても仕方ないこと」なので、しばらくこれを措(お)く。

今は、「今できることをする」しかないからだ。

▼毎日の記事で砂間氏は、日本政府の対応について〈経済対策を含めた後手後手の対応からは危機管理の意識はまったく感じられなかった。〉と断じる。お行儀のいい全国紙で、ここまで政権を全否定する論調は珍しい。

▼次に、日経の記事。「コロナ検査と出口戦略」の関係について。

〈PCR検査「目詰まり」/首相、体制不備認める/進まぬ感染把握、出口の壁〉

▼言うまでもないが、この見出しの〈首相、体制不備認める〉という一言が大事だ。日本のPCR検査が不十分だということを、初めて安倍総理が認めた、ということだ。

〈新型コロナウイルスに関する政府の専門家会議は4日、国内のPCR検査数が国際的に少なく、新しい感染症の流行に対応する検査体制が整わなかったとする分析結果を公表した。

安倍晋三首相も同日の記者会見で、伸びない検査件数について「目詰まり」と表現した。

議論が進み始めた経済再開の可能性は感染者数の適切な把握なしでは見込めない。検査を巡る対応の鈍さは出口戦略を描けない最大の要因になっている。

▼日経の記事はこの後、先ほどの毎日記事と同じく、お行儀のいい全国紙としては激しい批判が出てくる。記事の結論部分、

〈新型コロナ対策は一刻を争う時間との闘いだ。政策の判断や実行が遅れれば国民の生命を危険にさらし、経済再開も遠のく。これまでの1カ月は政治や行政、専門家会議が時間を浪費し、迅速に対応しなかった怠慢(たいまん)の期間だったともいえる。さらなる負担を国民に強いる次の延長期間が始まる今、スピード感を持った対応が求められている。〉

▼この1カ月、政治も、行政も、専門家会議も、失敗はあったのだが、日経記事は、彼らが〈時間を浪費〉し、〈怠慢の期間〉を過ごしていたと一刀両断している。

それだけ日経の取材陣が「経済の危機」を感じている証拠といえる。

▼実際、「コロナ検査」の成否は、「感染症対策」と「経済対策」と、両方が成功するか失敗するかの結節点になっている。

コロナ検査が増えれば、両方が進む。

コロナ検査が増えなければ、両方とも崩壊する。

▼この記事の2日前の5月3日付でも、日経は「コロナ検査と出口戦略」についての記事を載せていた。

〈検査目標 日本は独の14分の1/世界で拡充、米は1カ月で倍増/経済活動再開に不可欠〉

という見出しの記事だ。

〈人口比でも日本の検査目標は見劣りする。人口1人あたりの目標件数はドイツが日本の14倍、英仏が9倍、米国は5倍だ。他国は経済再開と検査拡充をセットにして出口戦略を立てており、日本の出遅れは否(いな)めない。(中略)米ハーバード大は米国民全員が毎月2000万件の検査体制を提言する。一度陰性になっても安全と言えないためだ。〉

▼検査の充実と、経済再開とは、セットになっており、切り離せない。つまり、感染者の数がわからなければ、経済再開のめどは立てられない。

だから現に今、日本政府は出口戦略を発表できずにいる。せめて、安倍総理本人が、残念ながら出口戦略を立てられない状況が続いています、と正直にコメントしたほうがいいと思う。

▼肝心のPCR検査については、毎日の5月6日付1面トップで、

〈政府、陽性率把握できず/全国集計基準なし/PCR検査〉

というショッキングな見出しが載った。

〈新型コロナウイルスの感染の有無を確認するPCR検査(遺伝子検査)について、政府が新規の検査人数に対する陽性者の割合(陽性率)を正確に把握できずにいる。検体を採取する機関が多数ある上に、その検査結果が判明する日にちもバラバラになりがちで、陽性率の算出に不可欠な「分母」(新規検査人数)と「分子」(陽性者)を全国的に把握する仕組みが存在しない。厚生労働省が求める報告に、12に及ぶ都県が応じていない実情もある。〉

▼これでは、1週間後のこともわからない。

2020年5月5日付の朝日新聞には、アメリカの場合の、目が飛び出そうな提言が載っていた。

〈ハーバード大のチームは4月20日の報告書で、今のままでは経済活動を再開しても、感染が再び拡大した場合に制限も再発動する必要があると指摘。代わりに検査や接触者追跡、隔離などを大幅に拡大することで、感染を抑えられると提言した。

 実現には、無症状者も検査対象とし、米国の場合は1日20万~30万件の検査を6月初めまでに500万件に増やす必要があるという。提言では「2年間で500億~3000億ドルの費用がかかるが、外出制限による月間1000億~3500億ドルの損失に比べれば小さい」と主張した。

▼まったく理に適(かな)った数字だが、ひるがえって日本を見た時、文字通り、いよいよ出口が見えない。

これから、都道府県の間の争いから、家族の間の争いまで、無数の「分断」が生まれる。分断を広げないため、という視点で、ニュースを読んでいきたい。

(2020年5月8日)

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