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差別が感染症を拡大させる件

▼最近は「新型コロナウイルス」のニュース一色だが、アメリカで銃の売れゆきが伸びている、というニュースを読んでビックリした。NHKニュースから。太字は引用者。

〈米 銃や銃弾購入の動き広がる 物資不足で暴動など懸念/2020年3月17日 9時25分〉

〈新型コロナウイルスの感染が拡大するアメリカでは、物資の不足により暴動が発生するのではないかという懸念などから、一部で銃や銃弾を購入する動きが広がっています。

西部カリフォルニア州ロサンゼルス近郊にある銃の販売店をNHKの取材班が訪れたところ、開店前からアジア系の住民を中心に客が次々と訪れ、銃を購入するための手続きを行ったり、注文していた銃を受け取ったりしていました。

この1か月で2丁の銃を購入したという男性は、さまざまなものが売り切れる中、略奪や暴動が起きることを心配して銃を購入した、と明かしました。

そして「トイレットペーパーをはじめ、さまざまなものが無くなっている。これまで銃を持ったことはないが、深刻な状況では何か身を守るものが必要だ」と話していました。

一方、中国が新型コロナウイルスの発生源とされたことから、中国系などアジア系の住民への差別が先鋭化し、暴力に発展することを心配して銃を買いに来た人もいます。

中国系の別の男性は「銃を持つことが安心につながる」と話していました。

この店の店主のデービット・ルーさんによりますと、拳銃の販売は以前は月に20丁程度だったのが、今では多い時には一日50丁売れることもあるということです。

ルーさんは「ふだんめったに銃を買わない日系人でさえ銃を買いに来ている。こんなに銃の購入が増えるのは初めてだ」と話していました。

NRA=全米ライフル協会の発行する雑誌やアメリカメディアによりますと、感染拡大を受けてアメリカでは銃や銃弾の購入が増加していて、オンラインで銃弾などを販売している業者の中には売り上げが2倍に増えているところもあるということです。〉

▼日本とアメリカの、お国柄の違いをしみじみと実感するニュースだ。

▼さて、新型コロナウイルスの感染が日に日に広がっている。東京をはじめ、世界中の街で外出自粛が要請されたり、外出が法律で禁止されたり、現状で30億人ほどが制限を受けているそうだ。

そのなかで気になるのは、ヨーロッパの各地でアジア人が差別されている、というニュースだ。それぞれの社会に根深く息づいているアジア人差別の「集合的無意識」が、「社会の危機」にあたって噴き出ている。

▼この構造は、日本社会も例外ではない。さいたま市が朝鮮学校幼稚部に備蓄マスクを配布しなかった件も、この範疇(はんちゅう)で考えることができる。

▼人種差別だけでなく、感染者を差別する風潮も激しい。筆者が驚いたのは、兵庫県小野市の病院で感染者が出たのだが、その病院の関係者がひどい差別を受けている、という事実だ。

大阪市のライブハウスも、集団感染を出してしまったが、同業者への風評被害も気になる。

▼感染と何の関係もない人を差別する人は、自らの無知を晒(さら)しているが、そうした差別は「百害あって一利なし」であり、なによりも「自分で自分の首を絞(し)めている」ことに気づいてほしい、と思わせる記事が、東京新聞の2020年3月28日付に載っていた。

〈差別は感染防止の敵 医療関係者ら被害 行動歴調査に悪影響〉

〈新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、感染者の周辺の人たちが、タクシーの乗車拒否など差別的な扱いを受ける事例が相次いだ。専門家は「重大な人権侵害であるだけでなく、行動歴を話してくれなくなれば集団感染の発生が検知できなくなり、感染爆発のリスクが高まる」と警鐘を鳴らしている。

 医師と看護師の感染が確認された兵庫県小野市の北播磨総合医療センターでは、感染者と接触していない職員や患者、家族らから「ばい菌扱いされた」「勤務先から出勤停止と言われた」などの訴えが相次いだ。〉

▼この記事に付いていた表も紹介しておく。感染者の周りで起きている差別の言動が、6つ列挙されていた。

・タクシーが乗車を拒否

・「ばい菌」扱いされるなどのいじめ

・子どもの保育園や幼稚園、託児所で登園自粛要請や受け入れ拒否

・親族が介護施設の利用を見合わせるよう求められる

・引っ越し業者が依頼をキャンセル

・勤務先から出勤停止と言われる

▼どれもひどい話だ。もしも、その医療従事者本人が、感染者と接触していれば、周りの人が接触を遠慮したくなるのは理解できる。しかし、「感染者と接触していない医療従事者」のまわりでこうした差別が起きたことが、筆者は信じられなかった。

記事の続き。

〈ライブハウスでクラスター(感染者の集団)が発生した大阪市では、別の店舗の経営者から「感染リスクが高い『危ない場所』との風評被害が出ている」との声が上がる。

 東海大の金谷(かなたに)泰宏教授(公衆衛生学)は「このままでは、感染者が立ち寄り先などに迷惑が掛かると感じ、保健所の行動歴聞き取りに正確な情報を話しにくくなる恐れがある」と指摘。差別的な扱いへの罰則も検討し行政が強いメッセージを打ち出すべきだとする。

 大阪市ではライブハウスが店名公表に同意したことで、全国に散ったイベント参加者に注意喚起できた。金谷教授は「称賛されるべきだ。これがなければ複数府県にわたるクラスターを突き止められなかった」と話す。

 国の専門家会議も十九日の提言で「偏見や差別につながるような行為は、断じて許されない」と訴えた。その上で行動歴の調査や、集団感染が発生した事業所の公表に対する協力を呼び掛けた。〉

▼金谷氏の、「このままでは、感染者が立ち寄り先などに迷惑が掛かると感じ、保健所の行動歴聞き取りに正確な情報を話しにくくなる恐れがある」という指摘が重要だ。

少し考えれば、小学生でもわかるこうした論理が、まったく見えなくなってしまうのが、パニックのパニックたる所以(ゆえん)だろう。

▼「不安」という、目に見えないものに支配され、振り回される「人間の心の頼りなさ」が、日本列島のあちこちで露(あら)わになっている。

誰も経験したことのない現実が続く。「心理的」なものの重みが、どんどん増している。「少し考える」必要が、これから強まることはあれ、弱まることはない。

▼「差別」が感染症を拡大させる。逆に、「想像力」が感染症の拡大を防ぐだろう。

(2020年3月29日)

(2020年3月30日追記)


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