「緊急事態宣言」は5月6日で終わらなさそうな件(2) 「夜の街クラスター」
▼「緊急事態宣言」の範囲が全国に広がった。
〈新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」について、政府は16日夜に開いた対策本部で、東京など7つの都府県以外でも感染が広がっていることから、来月6日までの期間、対象地域を全国に拡大することを正式に決めました。16日夜、官報の号外に記載され、効力が生じました。〉(NHK、2020年4月17日)
▼5月6日までということだが、この1週間ちょっとの間、人との接触が8割減になっていないので、効果が出ないのではないか、と心配だ。
■緊急事態宣言は「医療崩壊」を防ぐため
▼この宣言の理由について、2020年4月8日付の日本経済新聞にわかりやすい解説が載っていた。藤井彰夫論説委員長の記事。
〈民主社会が試されている〉
〈なぜこの宣言が出されるに至ったのか。一言で言えば、イタリアなど欧米で起きている「医療崩壊」を防ぐためだ。〉
■普通に出社は「異常」
▼この医療崩壊を防ぐための努力が足りない、という現実を、意を尽くして知らせようとしているのが「8割おじさん」こと西浦博氏だ。
2020年4月16日付の毎日新聞も、前号で紹介した西浦氏のコメントを報道していた。
〈西浦教授は「積極的に接触を減らさないといけない段階で、普通に出社をしているのは異常なのかなと認識している」と危惧(きぐ)した。〉
出勤する人が減らないかぎり、医療崩壊は止まらない。
■医療崩壊の現在進行形
▼医療崩壊の現在進行形について、新聞でも、テレビでも、ここ数日、いやというほど報道している。
2つだけ紹介しておくと、まず4月10日付の読売新聞。
〈埼玉 病床確保追いつかず/軽症・無症状者 自宅療養に〉
〈埼玉県が、新型コロナウイルスの感染が確認された人のうち無症状や軽症の患者を自宅で療養させていることが分かった。感染拡大のスピードに病床の確保が追いついていないためだ。県などへの取材では、自宅療養中の患者は8日夕時点で78人、9日に感染が判明した患者を含めると約100人に上るとみられる。
埼玉県内で感染が確認された患者は300人に迫っているが、県が確保している病床は、感染症指定医療機関(12機関)の75床、一般医療機関の150床の計225床にとどまる。
県は1日、患者の急増に備えて「調整本部」を設立。重症者は優先的に指定医療機関に、軽症者は一般医療機関に入院させる方針を発表していたが、「医療機関との調整がつかず、結果的に入院できていない人がいる」(保健医療部)という。〉
▼つまり、治療方法をコントロールしているのではなく、「なし崩し」で自宅療養になってしまっているのが深刻だ。
■「紙の盾とおもちゃの銃で戦場に向かうようなものだ」
▼潮目(しおめ)は、いつだったのか。2020年4月12日付朝日新聞の〈崩壊迫る 命のとりで〉という記事から。
〈「搬送先がなかなか決まらずに運ばれてくる患者が明らかに増えた」。数多くの重症患者を受け入れる東京都内有数の救命救急センターの救急医は、こう語る。4月第2週に入って「ステージが変わった」と実感している。〉
▼医療崩壊は救急医療から始まるが、急患の受け入れ先を100件以上問い合わせて、見つからない、というケースが増えている。2020年4月11日付毎日新聞が報じていた、イタリア看護協会が紹介している現場の声、
「紙の盾とおもちゃの銃で戦場に向かうようなものだ」
という一言が、恐怖のありかを蒸留している。マスクにせよ、ガウンにせよ、医療従事者のための矛(ほこ)と盾(たて)が、圧倒的に不足している。
▼何もできない筆者はもどかしい。ただし、なぜ医療崩壊につながる集団感染が増えたのか、その原因は知りたい。幾つもの原因があるのだが、その中で、なかなか見つからなかった原因が、「夜の街クラスター」である。
■姿を現した「夜の街クラスター」
▼下記はNHKニュース。
〈首相 出勤者を最低7割減 “接客伴う飲食店利用自粛”全国に/2020年4月11日 18時34分〉
〈新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍総理大臣は、政府の対策本部で、全国で夜の繁華街の接客を伴う飲食店の利用を自粛するよう呼びかけました。また、「緊急事態宣言」の対象となっている7都府県のすべての事業者に対して、テレワークを原則とし、やむをえず必要な場合でも出勤者を最低7割減らす取り組みを改めて要請するよう関係閣僚に指示しました。〉
▼この、「夜の街に繰り出すな」という呼びかけと、「出勤者の7割減」とは、直結している。2020年4月14日付の朝日新聞がくわしく報じていた。
〈出勤減要請 「夜の街」対策/官邸幹部「仕事後 出入りさせず」〉
〈新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐためとして安倍晋三首相が「出勤者7割減」を要請する指示を出したことを受け、国土交通省などは各業界団体を通じて、要請の文書を送った。
経済産業省が13日夜に出した文書では、11日の政府対策本部での首相発言を踏まえ、社会機能の維持に必要な職種を除き、在宅勤務の対応に「最大限のご協力」を要請。(中略)
ある官邸幹部は、今回の「出勤者7割減」の要請は、各地でクラスター(感染者集団)が発生したいわゆる「夜の街」対策の一環だと説明する。「大事なのは、仕事後に接客を伴う飲食店のような『3密』(密閉、密集、密接)の店に出入りさせないことだ」と話した。
別の政府関係者は「首相が強調したかったのは『中小・小規模事業者を含む』という部分だ」という。大企業と比べ、在宅勤務が進んでいないためだ。〉
▼この「夜の街クラスター」の実態について、一番はっきり語っていたのは、専門家会議の一人、東北大学大学院教授の今村剛朗氏である。2020年4月11日のNHKスペシャル「新型コロナウイルス最前線の攻防」から。
■社会的地位、お金持ち、高級ラウンジ
▼感染ルートをたどれない感染者を「孤発例(こはつれい)」というが、専門家会議のクラスター対策班は、孤発例の3割が、接客の伴う夜間営業の飲食店ではないか、と推定した。
しかし、保健所の聞き取りが難航している。
今村剛朗氏いわく、
「現場の保健師さんたちはすごく細かく情報をとってるんですけれども、特にそういう夜のお店に行く方々って、社会的地位もあって、お金持ちで、お店のほうも、特に高級ラウンジとかに関して言うと、大事なお客さんを守らなきゃいけないという意識がよけい強い。だから、そもそも語ってくれない。どこに行ったとか、誰と食事したとか、語っていただけないので、情報が集まりにくい。実際にどこで何が起きているのかっていうのをすごく絞りにくいっていうことになってくるんですよ」
▼「夜の街クラスター」の多くは、客の秘密を絶対にしゃべらない「高級ラウンジ」の人たちと、その「高級ラウンジ」に通う「社会的地位のあるお金持ち」のことだろう。
この人たちが、保健所に協力しないのだろう。
■ウイルスはあなたを特別扱いしない
2020年4月15日付の日経に、〈保健所激務 連日深夜まで/経路調査1日50人 「言いたくない」の壁〉といういい記事が載っていた。
「ああ、何か気持ちが悪いと思ったら、昼も夜も食べてなかったのか……」とつぶやく40代女性の保健師。
〈感染者への聞き取り調査は困難を極める。「言いたくない。相手に迷惑がかかるだろ」と行動歴を明かしたがらない人もいる。立ち寄り先の店や企業が休業に追い込まれることや、知人が好奇の目にさらされるのを危惧するためだ。
「まず、(接触した)ご本人に今の状況を正直に伝えてあげましょう」と粘り強く説得する。(後略)〉
▼第2次世界大戦以後、最大の危機に瀕(ひん)していても、「言いたくない」理由がある、というのが人間というものだろう。
▼きょうは金曜日。なかなか浮かび上がらない「夜の街クラスター」が、最も発生しやすい曜日だ。社会的地位のあるお金持ちの皆さんには、ぜひとも「ご本人に今の状況を正直に伝えてあげましょう」と言われるような夜遊びは控えてほしい。
東京は幸い、雨の天気予報だ。
お酒を飲んで、いい気になって、周りから特別扱いされるのは、緊急事態宣言が収まってからでも十分だ。
ウイルスは、あなたを特別扱いしない。
ウイルスは、あなたの大切な人を特別扱いしない。
(2020年4月17日)