フェイクニュースは「ソーシャルポルノ」と呼ばれる件

▼なんとかポルノ、という新語が幾つかあるが、「ソーシャル・ポルノ」という言葉を知った。2018年11月20日付朝日新聞に載った、東京大学准教授の鳥海不二夫氏のコメントが面白かった。

〈日本では、ソーシャルメディアで広がったフェイクニュースを、ネットの小さなニュースメディアが取り上げることでさらに広がる。両者の間で連鎖反応が起きている。閲覧する人がいるから、ニュースメディアは取り上げる。だから、非常に経済的な理由で行われている。

 私たちのデータによると、閲覧した情報がフェイクニュースなのか真のニュースなのか、見る人にとってその違いは実は意味をなさず、正否に興味がない人も多い。自分にとって都合が良くて、見たいニュースを喜んで見る。私たちはそういったニュースを「ソーシャル・ポルノ」と呼んでいる。ポルノを楽しむように社会的なニュースを楽しみ、消費している。怒りなどの気持ちを解放してくれるものであれば何でもいい。だから「世界からポルノを消し去ろう」ということは難問だと思う。

▼今年の6月、「2018年度人工知能学会全国大会」で、「ソーシャルポルノ仮説の提案とその観測に向けて」という発表をおこなったそうだ。

https://confit.atlas.jp/guide/event/jsai2018/subject/2C2-01/detail?lang=ja

〈榊 剛史1、鳥海 不二夫2 (1. 株式会社ホットリンク、2. 東京大学)/キーワード:ソーシャルメディア分析、情報拡散/フェイクニュースや炎上,エコチェンバー現象など,近年は個人による情報発信における負の側面が注目されている.我々は,それらの現象を引き起こす原因の一つとして,ソーシャルポルノという仮説を提案する.ソーシャルポルノとは,「特定のコミュニティに属するユーザが、脊髄反射的に拡散・共有してしまいたくなる情報」を意味する.
本論文では,ソーシャルポルノの観測を行う前段階として,ユーザ反応時間という尺度を定義し,いくつかのツイートについて,ユーザ反応時間分布の違いを考察した.結果として,特定のコミュニティのユーザが拡散する投稿とランダム抽出した投稿には,ユーザ反応時間の分布に違いが生じる可能性が示唆された.〉

▼情報の発信者側の分析だけでなく、受信者側の分析も進めば、インターネット社会の生理学が深められるだろう。この発表論文のくわしいPDFによると、

https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jsai2018/2C2-01/public/pdf?type=in

ソーシャルポルノ(Social Porn)とは、この論文では〈「社会欲求(Social needs)を充足する目的で消費・拡散されるコンテンツ〉と定義されている。アメリカの心理学者マズローの理論をもとに考えたようだ。

〈ここでの「porn」は「Inspiration porn」や「Patriot Porn」と同様の用法であり,また「ソーシャルポルノ」自体はそれらを包含する概念である.〉〈「目にした瞬間に拡散したくなるような情報」を「ポルノ」と見なす〉〈通常の性的な意味での「ポルノ」と同様に人々の欲求に立脚するものであるため,ソーシャルポルノにも多様な趣味・志向があると考えられる〉

フェイクニュースにせよ,炎上にせよ,エコー・チェンバー現象にせよ、ある個人の持つ意見や感情を強化する内容のコンテンツが配信された時に,その個人の「社会欲求」が刺激されてしまうため,真贋や情報の適切性,社会的な反響を考慮せずに脊髄反射的にその情報を拡散(再配信)してしまうと考えられる

▼新しい厄介な事態には、新しい言葉が必要になる。世の中から「ポルノ」を消し去ることはできないし、消し去ろうとすれば無理が生じる。指先から発せられる「脊髄反射」と、人間の「理性」との関係が、うまく結べるのか、どしどし研究を進めてほしい。

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