非正規労働は、女性が29万人減って、男性が2万人増えた件
▼前号で、コロナ・パンデミックの最大の被害者は女性だ、というグテレス国連事務総長のコメントを紹介した。
そのコメントどおりの、身も蓋(ふた)もない現実を、総務省がずいぶん前に公表している。2020年5月9日配信の毎日新聞から。
〈女性非正規29万人減少 「心身とも限界」「1日1食」 母子世帯や単身者が困窮〉
〈新型コロナウイルスの感染拡大の影響による雇用情勢の悪化で、特に女性の非正規労働者に深刻な影響が出ている。総務省が公表した3月の労働力調査では、前年同月比で男性の非正規労働者が2万人増だったのに対し、女性は29万人も減少した。無給のまま休業を余儀なくされる人も多く、労働組合や支援団体に「お金がなく暮らしていけない」という相談が相次いでいる。特に経済状況の苦しい母子世帯や単身者への打撃が大きく「一刻も早く支援を」との声が上がる。【中川聡子、矢澤秀範/くらし医療部】〉
▼記事は〈「女性の非正規労働者の減少が大きい。新型コロナの影響が表れている」。4月28日、総務省で開かれた記者会見で、担当者は厳しい表情で語った。〉と続く。
この記事のポイントは、コロナ・パンデミックによって、男の非正規労働者は増えたが(2万人増)、女の非正規労働者は29万人も減った、という事実だ。
▼同じデータをもとにした、別の角度の記事が、5月26日付毎日の夕刊に載っていた。減った女性の非正規労働者29万人のうち、大半の25万人が子育て世代に集中している、というのだ。
〈非正規女性29万人減/3月労働力調査 男性は2万人増/母子・単身「生きられない」/子育て世代 雇用不安定〉
〈新型コロナウイルスの感染拡大の影響による雇用情勢の悪化で、特に女性の非正規労働者に深刻な影響が出ている。総務省の3月の労働力調査では前年同月比で男性の非正規労働者が2万人増だったが、女性は29万人も減った。このうち25万人は子育て世代の35~44歳に集中しており、経済状況の苦しい母子世帯や単身女性への打撃が大きいとみられる。これまでに解雇・雇い止めされた労働者は今月に入り、男女合わせて1万人を超え、支援団体から「一刻も早く救済を」との声が上がる。【中川聡子、矢澤秀範】〉
▼非正規雇用が厳しい、といっても、繰り返しになるが、減った数の大半は【女性の】非正規だ、ということだ。これは衝撃的な数字だと思うのだが、たとえばテレビのワイドショーは、このニュースをめぐって何人の当事者に取材して、何分間取り上げて、何人の芸能人がどんなコメントしただろうか。興味深い。
▼非正規の女性がどれほど構造的に追い詰められているかを知るデータが、「世界」6月号に載っていた。
〈「小泉構造改革」以来、教育や福祉、男女平等政策など生存権にかかわる分野での公共サービス予算は削減され、2016年の総務省調査では、自治体の非正規公務員は4人に1人に増え、その4分の3が女性となった。これらは、2020年4月から、1年契約の「会計年度任用職員」として逆に固定化・合法化され、そこへコロナ危機がきた。〉(108頁、「生存のためのコロナ対策を! 現場からの提言 女性」竹信三恵子)
▼役所の人たちは、コロナ・パンデミックの影響で、とくに窓口で散々な目に遭っている。悪態をついたり乱暴狼藉を働く人のなかには、「所詮、お役人だろう。お役所仕事だろう。こっちは非正規なんだ」と思っている人もいるかもしれない。
しかし、現実は、公務員の4人に1人は非正規なのである。
役所での、度を越えたクレームは、「非正規が非正規を罵倒する」という構図になっている場合がある。
▼公共サービスの削減の問題は、ずっと進行していたのだが、コロナ・パンデミックによって、さらにひどくなった。これは、この30年で保健所の数が半減している話ともリンクするだろう。
▼保健所の話も、公共サービス削減の話も、NHKをはじめ、いくつかのメディアが取り上げているが、国の大方針が変わるような流れには、まったくなっていない。むしろ「経済」対策が国の根本で、個人の「生活」は二の次にならざるをえない「構造」が、これから、ますますあからさまになっていくだろう。
それは、本来、たとえば国民の健康に責任を持つ厚生労働大臣が就くべきコロナ対策の責任者が、「経済再生担当大臣」の西村康稔(やすとし)氏であることからも、すでに見えている。
▼ただし、筆者も、この文章の読者も、「そういう構造の中で社会的な生を生きている」から、気づきにくい。しかし、自分が当事者になるか、知り合いに当事者がいるか、「社会」そのものを相対化するような経験をすれば、簡単に気づく。
そこからが、本番だ。
(2020年6月3日)