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朝日新聞の「かんぽの不正」報道がキレキレの件
▼朝日新聞の「けいざい+」は、経済の問題を何回かに分けて連載する読み応えのあるコーナーで、3回連載の「かんぽの不正」はキレキレだった。(柴田秀並、新宅あゆみ記者)
▼2019年7月27日付の「下」によると、郵便局の悪質な局員たちは、だまして契約をとりやすい「一人暮らしの高齢者」のことを
「ゆるキャラ」「半ぼけ」「甘い客」
などと呼んでいたそうだ。
▼7月25日付の「上」では、6月24日付のスクープに至る経緯を紹介。6月24日には日本郵政(親会社)の社長がしらばっくれていたのに(かんぽから、そう言えと言われたそうだ)、続報が出て、7月20日にはかんぽの社長と日本郵便の社長が日本郵政の社長の説明を否定した。
▼7月26日付の「中」には、まず、目標を達成して、都内のダイニングバーでシャンパンタワーで祝杯をあげた様子が描写される。それは、「保険販売を担う郵便局員らを、かんぱ側がねぎらうお祝いパーティー」だ。
記事によると、シャンパンパーティーの日程を先に決めて、その日までにノルマを達成させたらしい。
▼後半は、心ある窓口局員の、読んでいて胸が痛くなる経験が載っていた。記事の構成として最も衝撃的だったのは、この「中」だった。
契約をたくさんとってくる局員は「優績者」で、「神」扱いだったそうだ。適宜改行。
〈優績者の怒りを買ったことがきっかけで、退職に追い込まれた窓口局員もいる。この局員のもとにある日、80歳ほどの高齢女性が訪れ、保険契約を無効にする「クーリングオフ」を頼みに来た。
局内で有数の優績者が獲得した契約だった。
「優績者が取ってきた契約を無効にしたら、ものすごく叱責される。怖くて窓口担当者にはできない」と元局員は振り返る。
しかも、この女性が加入した保険は、契約をとった人の手当がよいタイプの終身保険だった。「私は解約させてあげられない」と繰り返し伝えた。
それでも、女性に泣きながら頼まれ、良心が痛んだ。
「内緒ですけど、クーリングオフは、はがきでもできます」。思わず、そうささやいた。
その後、優績者が突然怒鳴り込んできた。「おぼえておけよ」「どうなるか知らんぞ」。優績者は高齢女性を問い詰め、「(クーリングオフについて)窓口の子から聞いた」と聞いたようだ。
元局員は激しい言葉に心が折れ、退職に踏み切った。「お客様のことを何も考えていなかった。思い出しただけで胸が痛む」という。〉
▼この優績者は人間失格であることがよくわかる記事だ。
▼「郵便局」と聞けば、正確に郵便物を届けてくれるし、窓口は丁寧だし、筆者にとってはいい印象しかなかった。民営化した後の現在も、いい印象のほうが強い。
「システム」が変われば、いとも簡単に腐り果てる人間たちがいることを、「かんぽ生命」問題は教えてくれる。
ちなみに前回は、毎日新聞の社説から、この「かんぽ生命」問題の概要を知った。興味のある人は読んでください。
▼もちろん、システムが変わっても、腐る人もいれば、腐らない人もいるだろう。
その違いは、何なのだろうか。
「人生は、夢だらけ」という宣伝文句の陰に、「人生は、罠(わな)だらけ」という実態が隠されていようとは、恫喝されてお金を奪い取られた人々は、思いも寄らなかっただろう。
そして、そうした被害者のこともまた、「自己責任」の一言で切り捨ててしまう世の中だ。
「論理なき結果論」におさめてしまう言論が、爆発的に増えている。もっとも、マスメディアの中にはそうした言論はまだほとんど見られないが、それ以外の領域で圧倒的に増えている。
こうして報道される「事実」も、読む人の「思想」によって、「意味」や「価値」が変わる。
いい記事を見つけて、人生を豊かにする「読み」を深めていきたいものだ。
(2019年7月28日)