インド、デマによる殺人

(ソーシャルメディアあれこれ その2)

▼イアン・ブレマー氏は今年の8月22日付朝日新聞でも、「素っ頓狂な話と思われるかもしれませんが、大国の中で民主主義が比較的うまく機能しているのが日本です」と語っている。「人口減少に伴い労働者層の状況が良くなっている。欧米で起きているような移民の大量流入がない。戦争をしていない。ソーシャルメディアの普及度が他国と比較して低い。かくしてポピュリズムへの耐性を備えている」と。

▼ほんとかよ、と思う人もいるかもしれないが、筆者は下記のニュースを知って、「ニッポンは比較的マシなんだな」と思った。2018年6月29日付産経新聞から。※は筆者の注。

インドで相次ぐ「偽情報殺人」 携帯アプリで偽情報拡散 誘拐犯と誤認されリンチ/【ニューデリー=森浩】インドで携帯電話の通信アプリを通じ、「誘拐事件が発生した」という偽の情報が拡散し、犯人と勘違いされた人が暴行を受け、死亡する事件が相次いでいる。地元メディアによると、この数カ月間で計20人以上が死亡。警察はソーシャルメディア上の情報には安易に飛びつかないよう呼びかけているが、噂を信じ込む群衆による事件は絶えない。

 「大勢の子供たちが誘拐される計画がある」。西部グジャラート州で26日、こんな趣旨の偽情報が通信アプリ「ワッツアップ」で一気に拡散した。
 この情報を受け、憤慨した市民が、メッセージ上で「犯人」と指摘された背格好や雰囲気に近い人を探し出し、殴る蹴るの暴行を加えた。加害者となったのは100人以上。棒で殴られた女性1人が死亡した。(※5月31日のAFPによると、事件はテランガナ(Telangana)州で起きた。殺されたのはトランスジェンダーの52歳の女性。逮捕されたのは35人。同じ噂を根拠に、同州とアンドラプラデシュ(Andhra Pradesh)州、タミルナド(Tamil Nadu)州で自警団が4人を殺している)

 北東部アッサム州でも今月上旬、「子供を誘拐した男たちがいる」「部外者が犯人である」という偽の情報が広がった。たまたま道を尋ねただけの男性2人が「見慣れない連中だ」という理由から誘拐犯と誤認され、リンチを受けて死亡した。2人は、部外者ではなく「同じアッサム人だ」と誤解であることを主張したが暴行は止まらなかったといい、痛ましい事件に抗議集会も開催された。

 5月には南部タミルナド州で、子供にお菓子をあげた男性が誘拐犯と間違えられ、殺害されている。(※AFPが5月末に報じた、ハイデラバードから160キロほど離れたニザマバード(Nizamabad)地区の事件のことか? ニザマバードで児童誘拐犯という言い掛かりを付けられ、殴り殺された男性は42歳だった)

 偽情報はインド各地で複数確認されており、5月以降急増した。真実性を確保するため、「被害者の写真」として、無関係の子供の画像が添えられていることもある。子供向け防犯啓発ビデオの動画が、「誘拐事件の瞬間」として拡散したこともあった。

 事件は農村部を中心に起きており、偽情報が住民の警戒心と正義感を過剰にあおっている格好だ。〉

▼なんということだろう。悲運、惨劇、という言葉でも、これらの出来事を表現できない。日本では【まだ】、ソーシャルメディアで広がったデマによる、このような集団殺人は起きていない。しかし、日本はかつて関東大震災の時に、在日朝鮮人の人々を大量虐殺した人々の国である。

▼NHKの土曜ドラマで10月に放映された「フェイクニュース」は、脚本のテンポが軽快で、よく練られていた。ラスト近く、「移民」の受け入れをめぐって賛成派、反対派のデモ集団がぶつかるシークエンスでは、主人公たちの呆然とする表情がよかった。

このドラマは、一匹の青虫から、あまりにもこれまでの常識からかけ離れた事態に至るのだが、今は【まだ】現実では起きていないが、ソーシャルメディアを介して近未来に起きるかもしれない、と想像させる力があった。(つづく)

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