自分の頭で考える 2017.7.20
※日本将棋連盟の佐藤康光会長のインタビューが2017年7月3日付毎日新聞に載っていた。将棋で人間がコンピューターに勝てないようになってから数年が経つ。第一線のプロ棋士で、将棋ソフトの影響をまったく受けていない人はいないと思うが、研究への取り入れ方は人それぞれのようだ。佐藤氏は現役のA級在籍で、九段。トップ棋士の一人である。終盤の難しい局面についてのみ、将棋ソフトの分析を参考にするという。
〈コンピューターに聞いた手を指すのも嫌いというか、精神衛生上、良い状態にならない。人から聞いた手を指さなきゃいけないと思うだけで苦痛になる。終盤戦には絶対に同じ局面が現れないので、ソフトを研究に使うストレスがありません。〉
〈人から聞いた手を指さなきゃいけないと思うだけで苦痛になる。〉という一言は、プロ棋士である以上、言われてみれば当然なのだが、「型破り」な棋譜を今も残し続けている佐藤氏にしてこの言あり、との感が強い。「自分の頭で考える」ということを言い換えると、たとえばこういう表現になるのだろう。
※将棋において佐藤氏のレベルに至るのは、あらゆる定跡(じょうせき)をマスターしたうえでの話だが、マスターした定跡を応用し、使いこなすためには、程度の差こそあれ〈人から聞いた手を指さなきゃいけないと思うだけで苦痛になる〉という「個性」の力が必要だ。
先人の知恵の結晶である「定跡」と、今、盤上に向かう人々の「個性」とが溶け合うところに、新しい「表現」が生まれる。個性だけでは「型なし」になってしまうし、定跡だけではまさに「型どおり」、その世界に発展はない。14歳の藤井聡太四段という超弩級の新人が現れた将棋界では、プロとしての緊張感が否応なしに増している。これまで以上に「新しい定跡」が生まれ続けるだろう。今、将棋という群雄割拠の一業界から、定跡という土台の大切さと、まぶしい個性の輝きを感じることができる。