第11回 商業デビューへの道~その二~
さて、引き続き『バニィ×ナックル‼』改稿の話である。
担当編集より「バニーガールはオッサン趣味なので電撃文庫のターゲット層には受けが悪い」的なことを言われ、設定を根本から見直すこととなった。
(ちなみに、その約一年半後に『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』が電撃文庫から刊行されて、「バニーガールネタ通ってるぅぅぅ!」と悔しさのあまり心の中で血涙を流したのであるが、そこは実績のある先輩作家と新人との違いということで、致し方なし)
「このストーリー的には、コスプレ要素は欠かせないんですよね……」
格闘美少女達が、ありえない格好をして戦う。それを主人公に見られることによる恥じらいとか、ギャップとか、そこに重きを置いているので、何かしらコスプレはさせたい。だけど、バニーガール以上のインパクトあるコスチュームが思いつかない。
舞台は石川県である。石川県には、いくつか有名な温泉街がある。ヒロインの一人は、その内の山中温泉にある旅館の娘である、という設定だ。
そこから連想して、我ながら苦しいな、と思いつつも、
「湯女(ゆな)はどうでしょうか? みんなミニスカートのような露出度の高い浴衣を着ていて、タイトルは『ゆなナックル』とか」
「うーん。まず、湯女というのがアウトですね」
やはり駄目か、と思った。湯女は性的サービスも連想させてしまうので、電撃文庫の読者層を考えるとNGなのである。そもそも、絵面が地味である。
担当編集と頭を突き合わせて、考え込んだ。
そして、一つの案が出てきた。
「魔法少女……とかはどうでしょう?」
魔法少女のコスプレをしたヒロイン達が戦うのである。見た目としては華やかなものになるだろう。
ただ、それでもピンとこないものはあった。
なぜ魔法少女のコスプレなのか? その必然性はどこから来るのか? 電撃文庫の読者層からしてみれば、魔法少女なんてもはや食傷気味ではないのか?
喉元まで出かかる、「やはりバニーガールでは駄目ですか?」という言葉。
だけど、怖くて切り出せなかった。
まだ一冊も本を出していない新人未満の自分が、我を通そうとしてしまったら、相手の不興を買ってしまい、せっかくのプロデビューの話も消えてしまうのではないか、という不安があった。
そんな葛藤を抱いていた自分だが、担当編集が魔法少女案にOKを出したので、もうそれで進めていくしかなかった。
決まったら決まったで、やる気に満ちあふれてきた。
「魔法少女をベースにして、プロットを書き直してきます!」
※ ※ ※
まず基本設定の見直しから入っていった。
ヒロイン達が働く場所は、当初はバニークラブだった。このバニークラブからして見直さないといけない。
「魔法少女のコスプレをした女の子達が給仕をする、コスプレバー、かあ……」
それ以外に良案は出てこないが、どうにも無理やり感は否めない。だけど、ここは勢いで押し切るほかはない、と思った。
他にも見直すポイントとして、敵キャラの数があった。『バニィ×ナックル‼』時点では、敵は三人も登場していた。しかし、実際に原稿を読み返してみると、二人はいてもいなくても問題ない。なので、ここは一人だけに絞っておこう、と考えた。
そういった基本設定を見直した後は、ストーリーの見直しに取りかかった。
『バニィ×ナックル‼』は、武道をたしなむ女の子達がバニーガールの格好をして戦う、という設定が目立っているので、ストーリーはむしろシンプルなくらいでちょうど良かった。
しかし、女の子達の格好が「魔法少女」となると、どうにもインパクトに欠けてしまう。そのため、ストーリーのほうを凝った内容にする必要がある、と感じていた。(今から考えれば、映画『キックアス』のようななりきりヒーロー物系の話にすればよかったのかもしれないが、後の祭りである)
そこで、悪い発想が出てしまった。
ストーリーに、「武道団体の腐敗」を絡めてみよう、と考えてしまったのである。
その案自体は決して悪くなかったとは、今でも思っている。ただ、魔法少女コスプレの女の子達が戦う、という設定と組み合わせると、あまりにも歪なものとなってしまう。なってしまうのだが、設定のパンチの弱さを、悪い言い方ではあるが誤魔化すためには、それぐらい重厚なストーリーが必要だと考えてしまった。
プロットは問題なく通った。プロットだけだと、担当編集は違和感を抱かなかったのだろう。
しかし、いざ書き直した原稿を提出すると、コレジャナイ感が強い、的な感想が返ってきてしまった。
魔法少女コスプレの女の子達が暴れ回るには、色々と話が重く、暗すぎたのだ。なんと言っても、作中で主人公は腕の骨を折られてしまうのである。いくらなんでもやり過ぎだったとは、自分でも反省している。
その後、二度ほど書き直しをした末に、担当編集からこうお願いされた。
「一度、当初書いた『バニィ×ナックル‼』のストーリー展開に戻してもらえませんか?」
そうするしかないな、と自分でも思い始めていたタイミングでのことだった。
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