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「夜の案内者」生命であるための死4

 境界壁に近づくにつれ、倒壊したビルや通路の破片が増えていく。通路のガラスは割れても危険がないように細かく砕けるようにできているようだ。踏みつけても靴に刺さることがなかった。
 町の外に出る赤い扉が見えた。そのさらに先に、ひしゃげた境界壁が見える。壁の前に大蛇の死骸が積み上がっていた。
「ちょっとだけここで待ってて。様子を見てくる」
 アサはバックパックを肩から下ろし、入っていた包帯を自分の両手に巻く。
「私も一緒に行きますよ」
「すぐ戻るから!」
 アサはネズミを置いて走り出した。ネズミはそれほど俊敏ではない。身体が傷ついてもネズミは痛みを感じないだろう。しかし、アサは「生き物として」ネズミへの配慮したつもりだった。
 倒壊したビルの山を越えて、境界壁のすぐ近くまで来た。真っ二つに千切れた蛇の腹から、飲み込まれたリスの残骸がこぼれ落ち、アサの足元に転がってくる。メカリスの姿はみんな一緒だ。アサは上半身だけになったリスに近寄る。身体から火花が出ている。それに、信号を出しているようだ。口は動いていないが、音が聞こえている。「エンジンの回転数を上げ、熱を発生させながら、ヘビ内部に特攻せよ。繰り返す、ヘビ内部に特攻せよ。我々は生きている。繰り返す、ヘビ内部に特攻せよ。我々は生きている」
 アサはメカリスに触れようとするが、身体が燃え始めるほど熱くなっていて、触ることもできない。生きている栗鼠はいるだろうか。周りを見渡すと、動かなくなった栗鼠たちが分類され、集められていた。山のように積み上げられているのは壊れて動かなくなったメカリスたちだ。死んだ栗鼠の遺体はどこかへ運ばれていく。アサはメカリスを運んでいた栗鼠に声をかけた。
「この子たち、どうなるの?」
「機械は貴重な資源だからな、回収して再利用だよ。死んだ者たちは近くで焼いて、骨を墓地になっているビルに埋葬する」
 アサはメカリスたちの部品も一緒に埋葬できないか聞こうとして口を閉ざす。空に鐘の音が鳴った。冷たい風が吹いて、アサは身震いする。日が落ち始めている。アサは桃色に染まり始めた空を見上げた。

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小説投稿サイト「エブリスタ」で連載中の「夜の案内者」の転載投稿です。
物語のつづきはエブリスタで先に見られます。

▼夜の案内者(エブリスタ)
https://estar.jp/novels/25491597/viewer?page=1

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