クリスチャン・ボルタンスキーから感じる「不在」が「在る」ということ
上海の美術館、PSA(Power Station of Art)で2018年にクリスチャン・ボルタンスキーの大規模展覧会が行われていました。
入口から服の山とそれを持ち上げるクレーンとかあったりして、規模感がすごい。
ものすごくよくまとまった紹介記事があったので、ちょっと長いのですが引用させていただきます。
彼の主要な関心事は、記憶・追悼と時間である。自身の人生、そして無名もしくは身元不明の人々の人生の出来事に題材を求め、自伝的要素や歴史への言及を有した制作に取り組み、真実とフィクションを組み合わせて過去の「再構築」を図っている。彼は記憶を喚起する力が強い私的要素と、特定の個人との関係性を持たない要素である写真、新聞、アーカイヴ、洋服などを用いつつ、形式と感情に支配されたインスタレーションを制作することで、個人と集団の運命が交錯する道をなぞっている。記憶と、その必然的帰結である記憶の薄れや完全な忘却に対する強迫的な恐れは、伝説や神話を作り出す能力と共に、彼の作品世界の核心的テーマとなっている。
引用元の記事はこちら ↓
ものすごく雑にまとめるなら、「写真」とか「服」とか使って記憶を再構築し追悼としてるよ、ってことでしょうか。
PSAの展示は全体的に照明を落とした展示室内に、電球を使って写真にフォーカスするような作品や、上着がつり下がっている部屋などのインスタレーションが展示されていました。
展示全体を通して、ものすごく「不在」を感じたんですよね。
その人がすでに存在しない感じ。会場が暗いので、視覚情報が非常に制限されているんです。
写真に添えられたライトによって、視点がかなりフォーカスされ、人が存在した痕跡が浮き彫りになっているような気がします。
ライトの配置が非常に効果的。これはインスタレーション作家として記憶に留めておきたいです。ライトの「色」「数」「配置」によって、肌感覚で作品を感じることができるんですね。空間に作品を語らせるっていう感じです。
こういう光の使い方をしていると、そこを通過する人が生きた作品みたいに見えます。吊るされた上着と、生きて動き去っていく人たちの対比によって、今度は留まっている上着に「存在感」を感じるし、去っていった人々の「不在」を感じます。
改めて日常を思い起こすと、誰かや何かの不在を感じることって、亡くなった直後が過ぎてしまうとなかなかなくて。
仏壇とかあって毎日お祈りしていると感じるかと思いきや、私はあまり感じないんですよね。なんというか、逆に習慣化してしまう感じです。
そもそも、お墓を見かけても「不在だ、、!」とはあんまり思いません。
しかし、この展示でまったく知らない人たちの写真や誰が使ったかもわからない服を並べられると、なんかその人たちの存在が在り、今はない(不在)のだ、ということを感じます。
そういう意味でも、この展覧会は「不在」の感覚を強く喚起させる素晴らしい展覧会でした。
物語とかを思い出してもらうと分かりやすいのですが、小説とかマンガとかを読んでいて、お気に入りのキャラクターが死んでしまうとすごく悲しいじゃないですか。
もともと存在しないはずのキャラクターなのに、物語上で死ぬととても悲しい。あれも不在の喚起だと思うのですが、物語の場合には不在を感じさせるのにそれなりに時間がかかります。
ボルタンスキーは作品見てすぐ不在を感じる。それは、これまで私たちが共通に感じている喪失の悲しみと祈り(追悼)という行為に作品がつながって、人の感情部分を直に揺さぶってくるからだなぁと。
物語の場面ぜんぶが喪失、みたいな物語はないですし、物語の場合は一度自分の脳内で物語を再構築して取り込む必要があるので、ダイレクトではないんですよね。
光によって物質がフォーカスされていると、その物体に対する畏敬みたいなのも感じさせます。つまり、服を着る人という存在への追悼ではなく、不要とされた物体への追悼です。
これが物の死、のようにも思えてしまいます。
いろんなものを使っていますが、基本的には光と写真、記憶のような一貫したテーマ性があるのも分かりやすいですね。
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