「強みを活かすっていうのは強みを伝えることだよ」の話
「世界にはすごい人がいっぱいいて、この中で生き延びていくにはどうしたらいいのかなっていうのを、よく考えるんです」
私はキッチンから戻って来たばかりの老人に言う。彼は運んできたオリーブとチーズを乗せた木のトレーをテーブルに置いた。
「自分にもっと武器をつけたほうがいいのかもしれないって。たとえば、昔、物語をいっぱい書いてたんですよね。だから物語をもう少し頑張ったらアート活動の支えになるのかなって」
「人はね、行き詰ると新しいことに向かいがちなんだけど」
老人はソファに座って炭酸水を手に取った。
「新しいことを魅力的に思うのは、君がそれをよく知らないからだよ。やり始めたばかりのことは、うまくいかなくても自分自身に言い訳しやすいだろう? それに始めたばかりのことのほうがうまくなっているって実感しやすい。自分の成長を感じやすいんだ」
私は黙ったまま老人を見つめる。老人はデンマークに住むアートコレクターで、私は現地に住むアーティストの紹介で彼の家に遊びに来ていた。
「だけど、新しいことを始めるほうがハードルが高いってことをまずは知るべきじゃないかな」
老人に言われて私は答えに詰まる。
「今までにやってたことがうまくいかなくなるタイミングって、人生にはけっこうあると思うんだ。そういう時に最初に向き合うべきは、これまでに頑張ってきたことのほうなんじゃないかって自分は思ってるよ」
「向き合う…。そういう時の突破口ってどうやって見つけたらいいんでしょう?」
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