「夜の案内者」鐘の音の町2
外で誰かの騒ぐ声がして、アサは入り口を振り返る。数人の鼠が来たが、入り口の鼠たちに棒で追い払われているようだ。
「あの人たちはなぁ、もう感染しちまった人たちでよ。食べ物欲しさにたまに来るんだが、中に入れるわけにはいかんのよぉ」
子どもが泣く声の間に、ため息やすすり泣きの声が混ざっている。みなが下を向いていて、ただ座っている。
「その銀色の物体って、どこに落ちてるの」
「行かんほうがええよう。あんたもうつっちまったら、ここには入れてもらえなくなっから」
「ありがとう。わたしは生物の種類が違うから、たぶん大丈夫」
アサとネズミは壁を出て、長い毛の鼠から教わった場所へ向かう。言われた方角に歩いていくと、ところどころに石壁に囲われた場所があった。町の人の避難所になっているのだろう。
空はさらに暗く、紺色が増していく。闇に包まれたら、人々は何に希望を見出せばいいだろう。歩き続けると徐々に石壁の避難所の数が減り、平らなだけの地面がつづくようになる。
「なんか、飛行機みたいな音が聞こえない?」
「飛行機?」
「うん、なんかゴーーーって」
ネズミが耳を澄ますと確かに上空から風を切る音が聞こえる。空に一つだけ小さな点が動いているのが見えた。
「あれ、なんだろう、星?」
この世界の空に星を見たことはなかった。それによく見ると動いているようだ。アサとネズミはその場に立って空を見上げる。
「なんか大きくなってない?」
「落ちてきてるんでしょうか」
次の瞬間、青白い光を放つ塊が地面に衝突した。アサとネズミは衝撃で吹き飛ばされ、そのまま地面に伏せる。爆音とともに粉塵が宙を舞い、飛んできた小石が二人の上に降り注ぐ。
音が静まるまで地面に伏せてから立ち上がると、濁った空気が頬に触れる。アサとネズミは塊が落下した場所に向かう。足が痛くなるほど歩くと、すり鉢状に中央が大きくへこんだ場所に出た。よく見ると、少し離れた場所にもへこみができている。アサとネズミは一番近くのへこみの縁まで歩いた。
へこみの中央には、潰れた銀の箱が散らばっている。ひしゃげた箱の隙間から青い何かがこぼれ出ているのが見える。その周りに鼠らしい人々の影。鼠は箱の隙間から青いものを引きずり出している。斜面を下りて近づいてみると、それは青い皮膚を持った人々だった。肌に赤い斑点がある。アサはその模様に見覚えがあった。白い四角が並ぶ町で出会った青い人たちだ。
「あの人たち⁉」
「町を出る時に見た銀の部屋が、そのまま打ち上げられているのでしょうか」
町を出る前に、青い人の死体が詰め込まれた部屋を見た。あれが部屋ごと空へ打ち上げられ、この町に落ちてきているのかもしれない。
(気をつけてください。こういうことが起こると世界の摂理が崩れてしまいます)
アサは車掌の言葉を思い出す。青い人たちの町で、黒い乗車券が一部切り取られていた。乗車券がなければ、町から外には出られないはずだったのだ。しかし、乗車券が町にあるせいで、町のモノを町の「外」に出すことができるようになったのだ。
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小説投稿サイト「エブリスタ」で連載中の「夜の案内者」の転載投稿です。
物語のつづきはエブリスタで先に見られます。
▼夜の案内者(エブリスタ)
https://estar.jp/novels/25491597/viewer?page=1
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