「夜の案内者」死のない町13
鐘を鳴らしたいと言っていた鳥の一人がアサとネズミの近くに飛び跳ねてくる。
「これが、列車の出発の音なんですか?」
「うん」
「そうですか、羽毛が震えるみたいですよ。いい音だなぁ」
「町の鐘の音も、きっときれいだよ」
鳥はゆっくり目を細めて時計塔を見上げる。表情がよく分からないが、笑っているのかもしれない。
「行ってください。あとはぼくたちだけで大丈夫」
ためらったままのアサに、鳥はつづけて言う。
「どれだけ遠くに行っても、この鐘の音が聞こえたら、あなたはまたここに帰って来られる」
アサはうなずき、ネズミは列車に向かって走り出す。町を離れる前に、アサは時計塔に触れて声をかけた。
「元気になるといいね」
アサはネズミを追って走る。
列車の前まで来て町を振り返ると、空高く舞っている鳥の姿が見えた。もう隊列は組んでいない。二人を見送りに数人の鳥が列車の近くまで飛んできた。少し離れたところに、中心となって町をまとめていた鳥の姿があった。アサが軽く手を上げると、その鳥は首を上下に振り返した。
アサは車掌に乗車券を軽く見せると、列車に飛び乗った。ネズミが後につづく。車掌が列車の中に入って扉を閉めてから、車内に入ってきてアサに言う。
「またですか」
「まぁ、いいじゃない」
車掌は黒いローブに付けられた面を揺らしながら、食堂車に消える。列車は一度大きく前に揺れて、それから速度を上げ始めた。列車の最後尾の窓から、遠ざかっていく後部車両が見えた。遠ざかるということは、この列車は円環状に切れ目なく続いているわけではないということだ。
数人の鳥たちが列車に合わせて飛び、しばらくして旋回して町に戻っていく。線路によって海と砂の世界が隔てられた光景を、アサはいつまでも見ていた。
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小説投稿サイト「エブリスタ」で連載中の「夜の案内者」の転載投稿です。
物語のつづきはエブリスタで先に見られます。
▼夜の案内者(エブリスタ)
https://estar.jp/novels/25491597/viewer?page=1
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