人工培養された脳は「誰」なのか~先端技術やバイオアートについて学ぶ
腕の細胞を採取して8か月後、腕の細胞は小さな脳に育ちました。腕から生まれた自分の脳。それは自分と言えるのか。
最先端のバイオ技術が紹介された一冊を読んでみましたよ。多くのアーティストがバイオ技術を用いた試みを行っているようで、それもとても勉強になりました。
興味深かったことを覚書メモしました。
血液で自分の顔をつくったアーティスト、マーク・クイン
自分の血液を5か月に渡ってちょっぴりずつ抜いて自分の顔をつくっています。おもしろいなーって思うのですが、「アート」って言っちゃうとある程度の奇行が「素晴らしい」の評価に変わるので、奇行癖がある人はアーティストって名乗るといいよねって思いました。(精神衛生的にいい)
細胞について
生理学者エルンスト・フォン・ブリュッケが1861年に「基本生物」と称したのが細胞。ドイツの動物学者テオドール・シュワンは「それぞれの細胞は、一定の限度内で「個体」であり、独立した「統一体」だ」と言っている。
細胞はもともと分裂によって増殖したがっている(41ページ)
遺伝子の影響力
ひとつの形質だけに影響する遺伝子はほとんどなく、たいていの遺伝子はたくさんの形質に影響を与えている。行動の特徴をつくる遺伝子、みたいなものはないんじゃないかと考えられている。
そもそも遺伝子をどう定義すればいいかもよく分かっていない。用語を作り出すのは、それを使って考えるのが有効だから。
言葉があると考えやすいですが、用語によって定義されることで、見えづらくなる複雑な物事もあると思うのです。
キメラとは
ひとつの生物のなかでふたつ以上の「生物学的個体」の細胞が存続し、生物学的機能を実行している状態のこと。
生物学的個体というのの定義はなんなんだという感じがするんですが、二卵性双生児だと胎児期に子宮内で融合することがあるようです。妊娠している時、母親の細胞が子どもに混ざり、子どもの細胞が母に混ざるということが正常に起こっているというのはおもしろかったです。これはマイクロキメリズムって呼ばれるよう。
男の子を妊娠すると、母親がY染色体細胞をもち、長い間その細胞が母の中で生きつづけるっていうこともあるようです。見た目は一人の人間でありながら、内臓が別の人間のものが組み合わさっている、みたいな考え方はとても興味深かったです。臓器移植とかは、定義的にはキメラなんですかね?
マウス細胞でつくられたジャケット
2008年にニューヨークMoMAで、マウスの組織から作った革ジャケットを展示したそうです。マウスの胚性幹細胞由来の細胞を、衣服の形になるような足場上で育てたよう。(そんなことできるんだね)
細胞が足場から分離し始めちゃったので、培養を中断したようですが、その時に展示企画したパオラ・アントネッリは、「培養細胞を殺さないといけないのか、、」と思ったそうです。
細胞でできたジャケットを殺すのが辛いという感覚がとても興味深いですよね。科学者とアートってとても相性がよく、科学者からたくさんのアーティストが出ているんですが(落合陽一さんもそうですよね)、この作品をつくったのはバイオアーティストのオロン・キャッツとイオナット・ズール。西オーストラリア大学のシンビオティカ研究室に所属されてるそうです。ほかの作品としては「ブタの翼」も。
テクノロジーがそのまま商品になったらどうなるのか、革製品をつくるために犠牲になる動物はいなくなるかもしれないが、別の犠牲を生んでいるんじゃないか。技術によって新しい犠牲や倫理が隠されてしまっていないか。そういう問いかけをはらんでいます。
未来の医療は臓器の入れ替えになる
腕の細胞から脳がつくられるように、iPS細胞の研究によって、具合が悪くなった自分の臓器を「新品」に変えることができるようになるかもしれません。
具合悪いなと思ったら病院に行き、皮膚の細胞を採ってもらう。肝臓が悪くなっていたら、育てられた自分の肝臓を移植してもらう、みたいな感じです。
仏教の問いかけで、2人の鬼の話を聞いたことがありました。赤鬼が生きている人を殺して食べようとしてたところ、青鬼がすでに死んだ人を連れてきて、「殺すのはやめてすでに死んでるこの人を一緒に食べよう」と勧めます。しかし、赤鬼はフレッシュなやつがいいと言って、生きている人の腕をもぎ取って食べます。青鬼は気の毒に思って、死んだ人の腕を生きた人にくっつけてやる。赤鬼は今度は生きてる人の足をとって食べる→青鬼が死んだ人の足をくっつけてやる。これを繰り返して赤鬼は結局、生きてた人の身体を全部食べてしまったけど、青鬼によって、身体はぜんぶ死んでる人の物に入れ替わってました。残された人は誰なんだっていうやつです。哲学っぽいよね。
自分で自分の臓器を補充交換できるようになったとして、脳もそうなったら、永遠に生きつづけられそうですよね。寿命も自由に選べそうです。
2014年には損傷した顔面骨を3Dバイオプリントされたチタン部品で補う手術を受けた患者さんがいました。
2019年のニュースによれば、皮膚も3Dプリントできるみたいですね。すごいね。
通常存在しない臓器までできる
馬鹿ラット(馬と鹿とラット)は胆のうを持たない動物です。ネズミっぽい見た目でもマウスには胆のうがあります。マウス―ラットのキメラをつくった時、マウス胚にラットの多能性幹細胞を入れると、ラットの多能性幹細胞から胆のうができるんだそうです。もともとラットが持ってないはずの臓器なのに、マウス胚から「胆のうつくってよ」の信号を受け取って、胆のうをつくるんですね。これはとても興味深い。もしかすると、翼の生えた人間を自分の細胞からつくることができるかもしれないですよね。鳥の胚に自分の多能性幹細胞を入れて翼まで育て、その翼を自分に移植するっていう感じです。
商品のように育てたい子どもを選ぶ未来
すっかりSFなんですが、知能指数や外見、性格などが成分表によって表示されている「赤ちゃん」が、ネットでポチリと買えるようになる時代がくるかもしれません。育った時の画像つきで。
これをデザイナーベイビーと呼ぶようですが、遺伝子編集ではなく、胚の選別によっても行うことができるようです。
自分の脳細胞を培養するっていうのは、もしやれるなら自分はやってみたいです。つくった脳細胞と会話できるならしてみたい。「作らないで欲しかった、、」って言われるかもしれないですが、それは子どもをつくることと同じなのかもしれないと思ったりします。
先端技術とバイオアートを紹介する一冊。全部ちゃんと理解しようとするのはしんどい感じだったので、おもしろい部分だけ抜き出してみましたよ。
気になる方はぜひ!