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「夜の案内者」青い娯楽5

 二人は部屋の外に運ばれていく。部屋から出る時に若者が「彼女をまだ愛し続けられそうだ」とつぶやくのをアサは聞いた。アサとネズミは別の出口から出て行くように促され、部屋を出る。
照明の落ちた薄暗い通路を歩くと、ガラス張りの部屋の横をいくつか通り過ぎた。どの部屋も空だが、五つ目の部屋を見て息を呑む。
部屋に詰め込まれていたのは、青い人たちだった。
「これ・・・」
「すでに亡くなっているようですね」
先ほどの女性と違い、みんな皮膚もつややかで皺ひとつない。おそらく、自ら死を選んだ人たちだろう。完全に健康管理されていながら、老衰で亡くなることは、この町ではほぼないのだ。
大きな音がして部屋の上部が開き、クレーンで押されるように青い人たちが部屋に落ちてきた。部屋がいっぱいになると、部屋ごとどこかに移動し、また空の部屋が配置された。この通路からは死んだ青い人たちの姿がガラスに押し付けられ、その顔が生々しく見えるようになっている。
「わざわざガラス張りにしなくてもいいのに。私はすごく悲しいです」
「もしかしたら、施設の人たちにとっての娯楽なのかもしれないね」
 人間の歴史の中で、残虐な処刑を公開で行われていたことがある。それは民衆への圧力であると共に、娯楽でもあったのだ。『死』が娯楽なのだと言っていた。この施設で働く人たちは、日常的に死を体験することによって、ささやかな生きがいを見出しているのだ。量産された町の人たちよりも、彼らにはわずかだが表情がある。
「私は嫌です。こういうのは」
珍しくネズミが強い口調で言う。アサはなるべく部屋の中を見ないようにして通路を先へ急ぐ、通路の突き当りの扉から、再び町に出た時、鐘の音が空に響き始めた。
「あっ、ちょっと待って、これやばいかも」
「どうしたのです?」
「乗車券、返してもらってないの、すぐに戻って返してもらわないと」
 アサは出てきた通路を引き返し、元の白い部屋まで走る。マスクの青い人たちが出て行った扉を開け、大声で「今すぐ乗車券返して!」と叫んだ。部屋の中では八人の青い人が働いていて、そのうち三人がアサを見る。
部屋の端のベッドに先ほどの二人が寝ている。アサは異変に気づいて若者に走り寄った。口に手を当てるが、若者はすでに息をしていない。
「ちょっと、どういうこと?殺したってこと?」
「処分です」
 アサは近くにいた青い人に詰め寄る。青い人たちは服装が同じだが、皮膚の赤斑点模様がわずかに違う。アサが声をかけたのは、先ほど二人を連れて行った青い人だった。
「さっき、彼女の細胞を移植して、彼の中で育てるって言ってなかったっけ?」
「手間なので」
 アサは握りしめた拳で青い人を殴りつけた。青い人は床に倒れ、衝撃でマスクが飛ぶ。しかし、無表情のまますぐに身体を起こし、殴られた頬を撫でながら手を伸ばしてマスクを拾い上げた。
アサは青い人を見下ろすように立ち、「わたしの乗車券、今すぐ返してくれる?」と言った。
アサに追いついたネズミが部屋に入ってきて、倒れた青い人とアサを見る。
「誰でもいいからわたしの乗車券を早く持ってきて」
 アサは部屋にいる青い人全員に目を向けながら大声で言う。数人から視線を受けた青い人が、奥の扉から部屋の外に出て、小さな白い箱を持って戻ってきた。アサの前まで来て箱を開けると、中には黒い乗車券が詰まっていた。
「どれでも好きなものをお持ちください」
「コピー持って来いなんて言ってないけど?本物を今すぐ返しなさい」
 アサは乗車券の入った箱を手で払う。床には乗車券が散らばり落ちる。青い人がもう一度奥の部屋に行くと、今度は白い皿に乗った乗車券を持った別の青い人が現れた。赤い斑点模様に見覚えがある。アサが目を覚ました時に最初に会った人だろう。
「こちらをどうぞ。それとそちらの扉から直接外に出られますので」
 青い人は右手を指さす。近くにいた青い人が扉を開ける。
アサは無言で乗車券を受け取ってネズミに声をかける。
「行こう」
 ネズミ青い人の一人に話しかけ、室内に置いてあった液体の瓶を一つ受け取ってからアサの後につづく。
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小説投稿サイト「エブリスタ」で連載中の「夜の案内者」の転載投稿です。
物語のつづきはエブリスタで先に見られます。

▼夜の案内者(エブリスタ)
https://estar.jp/novels/25491597/viewer?page=1

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