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「夜の案内者」赤の期限

 ネズミは食堂車で一人、新聞を読んでいた。隔離された研究施設で長尾驢(カンガルー)が増殖、鼬鼠(イタチ)が食い殺される、という記事が一面に出ている。ネズミは新聞をすべて読み終わると、研究施設の記事が載っているページだけ抜き取って丸めてゴミ箱に捨て、残りを棚に戻した。
 ネズミは、かつてアサが手にかけた実験動物だった。犬の町で臓器の入っていない空っぽの身体を見せた時に、アサが自分の正体に気づいたことも分かった。ネズミは黒いコートのポケットから赤い乗車券を出す。この赤い乗車券の有効期限は日が沈むまで。すでに日はてっぺんまで上っている。もう少ししたら落ち始めるだろう。夜までにこの世界を出られなければ、もう列車に乗ることはできない。
ネズミは研究所で見た『探求者』の姿を思い出す。あの人間は自分の探していた物を見つけられたのだろうか。『案内者』は元の世界に戻ったのか。
『探求者』は連れてくることはできる。しかし出口は、『案内者』であるアサにしか見つけられない。日が落ちるまでに出口が見つけられなければ、自分は確実にこの世界に留まることになるのだろう。
 ネズミが食堂車から隣の車両に戻ると、アサは通路に紙を広げて絵を描いていた。黒いインクを水と一緒に大きな紙の上に垂らし、両手で広げるようにして描いている。紙の下には食堂車のゴミ袋が重ねられていた。
「列車は汚してないよ?」
アサは顔を上げて答える。素晴らしい知識があるのに、彼女はどうして医者を辞めたのだろう。ネズミは「私は気にしないですよ」と言いながら席に戻った。

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小説投稿サイト「エブリスタ」で連載中の「夜の案内者」の転載投稿です。
物語のつづきはエブリスタで先に見られます。

▼夜の案内者(エブリスタ)
https://estar.jp/novels/25491597/viewer?page=1

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