4月の土曜日「キレてんじゃない」
ついに海外テレビドラマ『ブレイキングバッド』を観終えた。全5シーズンで62話。後日談である映画版『エルカミーノ』も観た。スピンオフの『ベターコールソウル』は今のところ未視聴。約二ヶ月の視聴期間を終えて、今はひとまず余韻に浸っていたいという気持ち。
平凡な化学教師だったウォルター・ホワイトが癌になり余命宣告をされ、家族にお金を残すために、メタンフェタミンというドラッグ精製に手を出し、次第に足を踏み外していく……、というのが大まかなあらすじだ。完結から八年近く経ち、評価もある程度定まっていて、いまさら色々と述べることもないのだけれど、前評判としてある人曰く『この世のドラマの中で一番面白い』というような評価もあり、わりとハードルが高めの状態で見ることになった。
ざっくりとりした感想としては、その前評判の高さもあり、序盤は正直に言って、確かに面白いけれど、言うほどか? というのが正直なところだった。シーズン1は85点くらいといったところ。でも、それはそれで面白いのでシーズン2以降も見続けた。勝手に予想していた内容とはちょっと違うなぁ、というのもありシーズン4終盤までは89点くらいが精々といった感じだったけれど、シーズン5以降は軒並み95点平均で、最終話を見終え、しばしの余韻の中で、これまでのエピソードを振り返ってみると一気に1,000点になった。
平凡な高校教師と、あらすじなどにも書かれているけれど、厳密にいうとそうではなく、不本意ながら平凡になってしまった人、というのも良かった。本当は才能自体はあったのだけれど、運や環境や己のプライドなど様々なことが原因で、結果的に平凡な人間に収まってしまったという感じ。本人としても、それはそれで半ば諦めて受け入れてはいたけれど、突然の余命宣告を受け逡巡の末に、メタンフェタミンの精製に手を染めていく。そして本来持っていた化学の才能を十二分に活かし、誰も作り得なかった至高のドラッグを作ることに成功する。
そのウォルターが道を踏み外していく過程で、自分勝手なエゴで(家族を守るという大義名分はあるにはあるのだけれど)、数々の酷いこと(非倫理的だったり不道徳的だったり)をしてしまう。そのときは「なんて酷いことをするんだ」なんて思うのだけれど、少し振り返るとそれ以前のエピソードで、有体に言えば『キレてしまう』ような出来事があったりして、ウォルターが唐突に道を踏み外していると思いきや原因が一応ある、というようなドラマの作り方だった。それが決定的に描かれるのが、シーズン4の終わりごろくらい。そこからはもうキレっぱなしというか、決定的にタガが外れてしまったんだなぁ、という感じだったけれど、ラストを見終えて改めて振り返ってみると、シーズン1の第一話のあのシーンの時点で、大半はキレてしまっていたんだろうなぁ、としみじみと思った。ただ、ウォルターが最後の最後まで『こちら側』に踏みとどまれていたのは(かなりギリギリだけど)、そもそものきっかけがジェシーだっとはいえ、彼のおかげだった、というのもちょっと泣ける。まぁ、これはあくまで僕個人がドラマ全体をそう捉えた、ということなので合っているかどうかは判らないけれど。
ともあれ、ツッコミどころは僅かながらあるものの、ひさびさにストーリーや全体の流れ、音楽の使い方も含めた演出、そのどれもが良質なドラマに浸れて、とても楽しかった。おすすめです。