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3月の水曜日「久しぶりの再会」

 先週の土日、娘の誕生日に合わせて、僕の母親、娘から見て『にいがたのばあば』が久しぶりにやってきた。去年の十月に半ば突然やってきて以来なので、約半年ぶりといったところだろうか。今回は娘の誕生日付近に、ということもあり事前に日程を調整することができた。といっても、僕ら夫婦共に仕事を抱えているので、土日といえど客人を迎えるのは楽ではない。母もそこらへんはわかっているので、僕らに余計な負担は掛けまいと、最初は前回同様、ホテルに宿泊するといっていて、それならそれで良いか、と僕は呑気に思っていたのだけれど、妻の方が前回の来訪の時に思うことがあったのか、今回はウチに泊まってもらいなさい、と言ってくれたので、そうしてもらうことにした。

 娘の方も今回は人見知りを発揮することもなく、どちらかといえばお客さんが来てくれることが嬉しいのか、終始はしゃいでいて、とても楽しそうだった。心置きなく娘と触れ合う母の姿を見て、僕の方も親孝行ができたような気がして、とても嬉しかった。

 金曜の夜にウチに来てもらい、翌日は朝から江ノ島水族館へ。前日にもらったプレゼントであるキッズカメラを携えていった。天気はあいにくの雨で少し寒かったけれど、イルカショーなどを見たあと、少し遅めの昼食を終えて帰路につこうとすると、娘が眠さからか少し不機嫌になる。その日の朝、片瀬江ノ島についたくらいのときに、妻が「天気が良ければ、島の方にもいったりしても良かったんですけどね〜」などと言っていたのを憶えていたのか、帰り際になって、「しまにいきたい〜! しまいく〜!」と癇癪を起こし始めた。

 風も少し強く雨も降っていて、どう考えても江ノ島に行くにはバッドコンディションで、加えて妻も若干体調が優れなかったこともあり、どう考えてもこんな日に島に行くなんてあり得なかったのだけれど、あまりに娘が島に行くことに躊躇するので、すったもんだの上、行くことに決めた。妻からは顰蹙を買いそうになり、母は客人なので口は出さず動向を見守っているのか何も言わなかったけれど、僕もなんだか意地になってしまっていた。というのも、僕も僕で娘の感情に思うことがあった。

 結論から言うと、意を決して娘を抱きかかえたあと、傘をさしながら島に向かう途中というか、あの一本道(橋)の手前、交差点の下の地下通路を抜けて島の遠景と水平線が見えたあたりで、気が済んだのか、娘が「あっちいく。もどる。えきいく」と言い出し、ことなきを得た。僕が肩の上に頭を載せた娘に「寝ても良いよ」と声をかけると、そのままぐっすりと眠ってしまった。大人三人、安堵して帰りの電車に乗る。結局、娘は家に着くまで眠っていたので、ずっと抱きかかえていた僕は肩がバキバキになってしまった。

 でも、と思う。

 娘のわがままをきいてあげるたびに、自分の傷も少しだけ癒えていく感覚になることがある。それは自分が子供のころに叶えられなかった些細な願いで、傷といってもかすり傷のような大したものではない。 甘やかしすぎるのもどうかと思うけれど、我慢ならすでに他でたくさん強いてたりもする。

 翌日も天気が良くなかったので、遅い朝に起きて午前中は軽く朝食をみんなで摂り、プリキュアを一緒に観るなどした。その後の仮面ライダー、キングオージャーも主に僕が見ていた。妻が、「子供そっちのけで、この人、毎週これ見てるんですよね」と軽く言うと、母も「この子ね、昔から戦隊モノとか仮面ライダーとか好きで、小さい時もずっと同じビデオを何回も観たりしていてね……」などと言うので、「いや、戦隊モノはあったけど、仮面ライダーはやってなかった。僕が子供のころは東映メタルヒーローシリーズといって、機動刑事ジバンとか特警ウィンスペクターとかやっていて、ウィンスペクターの司令官は宮内洋でV3だけど、そうじゃなくて……、あ、でも……」などと反論(?)したけれど、最後は誰も聞いていなかった。

 それからみんなで東京駅に向かい、そこで買い物をしたり昼食を摂ったりした。キッテではアニバーサリーイベントをやっていて、ピアニストの清塚さんが出ていた。キリンシティならぬアサヒスーパードライタウンみたいな店があったので、そこで軽くお茶というかビールを飲み、夕方の新幹線で母は帰った。娘はちょうど電池が切れたかのように眠ってしまっていたので、家についてから、ラインで動画メッセージを送った。特に何か指示したわけではなかったけれど、「きょうは、とってもたのしかったよ。またきてね!」と大きな声で言っていた。

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