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FIPにおける「完治」と「寛解」の違い

画像:pixabay fernandozhiminaicela


1.完治と寛解の違い

FIPではしばしば「完治」という言葉とは別に、
同じような意味として「寛解」という言葉が使用されます。

一昔前の闘病記録を読み込むと、結構多くの飼い主さんが
「この病気に完治はないと言われた」といった話も多くあり、
獣医さんも「寛解」という言葉を選ぶことが多いと感じますが、
その理由は下に記します。


[完治]

病を発症する前の、ウイルスも症状も体にない状態を指します。
なので再発はありません。

[寛解]

ウイルスは体内にあるものの、
症状が一時的に治まって健康に問題がない状態を指します。
つまり再発の可能性が残ります。

[キャリア]

ウイルスを持ったまま発症していない状態を指します。
これは一度発症して寛解状態の子も、
まだ一度も発症していない子も同じです。

キャリアのままで「発症」や「再発」をせずに一生を過ごす
「生涯キャリア」になることもあれば、
寛解後にウイルスを殺して完治出来る子もいます。

「ウイルスキャリアとは何? Weblio辞書」

つまり、完治と寛解の違いは再発の可能性があるかどうか
という事になります。

寛解後に完治する事もあれば、
寛解後に再発という事も、悔しいですがよくあります。

その為、再発を懸念して「寛解」とする獣医さんも多く見られます。

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2.ウイルス変異後からの流れ

体内でウイルスが変異し、FECVがFIPVになる

「キャリア」か「発症」か「完治」

・この時点でアレルギー反応を起こさずに正しい免疫反応を起こせれば、発症せずにウイルスを殺して「完治」します。

・この時点でアレルギー反応を起こさなければ、FIPの主症状は発症しませんが、ウイルスを殺すに至れなければ完治ではなく「キャリア」となります


※アレルギー体質の原因となる物質につきましては

こちらをご覧下さい。

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「キャリア」

「発症」「完治」「生涯キャリア」


[キャリア後の完治]
極稀に遺伝子検査で陽性になるものの、後に陰転するケースがあります。
ウイルス変異は起きたものの、発症前に正しい免疫反応を起こして完治させた例だと思われます。


[キャリア状態の持続]

変異後のウイルスを体内に保有していても、
一生発症を防げれば「生涯キャリア」となります。

遺伝子検査につきましては

こちらの「5.基本的な知識」の、「血液検査」項目をご覧下さい。

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「発症」

「死亡」「寛解」「完治」

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「完治」

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完治の仕組みにつきましては

こちらの「6.FIPに関係してくる免疫」をご覧下さい。

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3.FIPに「寛解」が多い理由

つまり再発が多い為、この言葉が使われます。
これにはFIPVならではの厄介な理由が絡んできます。
それは、

FIPVはマクロファージ内(免疫細胞内)で生きられる

と言う事実です。

「JP2004035494A - ネコ伝染性腹膜炎ワクチン - Google Patents」

-以下本文一部抜粋-
「FIPVもマクロファージに感染するウイルスである。」
-抜粋終了-

自分の、それもウイルスを殺すはずの免疫細胞内に住み着いている為、
免疫細胞からの攻撃を免れます。
つまりウイルスを殺し損ねるのです。

殺せなかったウイルスは、発症しなくても常に体内に生存している状態となり、これがキャリアの仕組みとなります。
この状態を「不顕性感染」と呼びます。

「不顕性感染 - Wikipedia」

なので一見無症状の為に病が落ち着いたように見えても、
寛解状態ではウイルスは年単位で体の中に潜み続け、
完治しなければ再発の種になります。

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4.完治と寛解の境目

完治と寛解を見分けるのは、無症状の間は非常に難しいです。
見分ける手段と難しい理由を記します。


1.血液検査で確認

但しこの方法は確実ではありません。
FIPの発症確認に使用される血液検査には主に3通りあり、


1-a.蛋白分画[Alb/Glb(アルブミン/グロブリン比)]
蛋白分画とは、血清中の総蛋白の内訳をする検査です。
A/G比検査は、血清中の蛋白であるアルブミンとグロブリンの比率を見ます。

ガンマグロブリンの増加、アルブミンの減少、
臨床症状と合わせて発症の判断材料とします。
A/G比の値は小さくなります。


「血清蛋白分画とは|病気の検査法を調べる - 医療総合QLife」
「A/G比 | セントラルクリニックグループ」
猫伝染性腹膜炎(FIP)の新しい診断法 RealPC FIPウイルス検査|アイデックス


「活性化自己リンパ球療法」を紹介します( 2 ) | イヌやネコの検査や治療に関する最新情報(社長の独り言) - 楽天ブログ」

-以下本文一部抜粋-

今回FIP発症が疑われるネコでA/G比とFIPV感染との関係を解析したところ、A/G比が正常範囲(0.5~1.0)より低い場合に感染率の高いことがわかりました。さらに、FIPV感染が確認された(陽性)ネコだけでみると、A/G比が低い症例が70%以上でした。

-抜粋終了-

FIPにおいては抗体を多産している為に血中の総蛋白は増加していますが、
その内、栄養の指標であるアルブミン量は減少しています。

※猫のA/G比の正常値は0.5~1.0
「イヌ、ネコの血液検査の見方考え方」

※総蛋白:血液中の蛋白質
「犬猫の血液検査 TP(総蛋白)|大和市の花岡動物病院ブログ」
「総蛋白、アルブミンとは」


アルブミン:

血液中の蛋白(総蛋白)の約6割前後を占める蛋白。
栄養低下、腹水や胸水への流出で減少する。

「アルブミン | 看護師の用語辞典 | 看護roo![カンゴルー]」

アルブミンは人間でも生命維持の指標とされる数値です。
低い場合は栄養不良となります。

FIPでは腹水等での漏出や食欲不振、下痢、
感染細胞からのウイルスによる栄養搾取により、
慢性的な栄養不良を引き起こします。
その為、FIP発症猫ではアルブミンの数値が低くなります。


ガンマグロブリン:

血液中の蛋白(総蛋白)の約3割を占める蛋白。
抗体の働きがある為、アレルギー反応を起こすと増加する。
炎症由来での増加もある。

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1-b.猫コロナウイルス(FCoV)抗体価検査
FECV抗体、FIPV抗体の区別なく検出します。
つまり体がFCoVの抗体を作ったことがあるか、
あればその量についての検査です。

「猫感染症検査 猫コロナウイルス(FCoV)」

FECVは弱毒性ウイルスの腸コロナウイルス、
FIPVは強毒性の猫伝染性腹膜炎ウイルス、
二つのウイルスはFCoVから分類されますので、
どちらもFCoVという括りです。

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1-c.遺伝子検査(抗原検査)
FIPVのみ検出可能です。
血液、胸水、腹水を検査してウイルスがいるかを確認します。
FECVは腸管から出られない一方で、FIPVは体中を巡ります。
よって血液等からウイルスが検出されればFIPVという理屈から来る検査方法です。

「(犬・猫)の株式会社ケーナインラボ」


以上、3つの方法が代表的な血液検査での確認方法となります。
ですがこれらには、
完治か寛解かの確定が出来ない問題点がそれぞれにあります。

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1-a.蛋白分画[Alb/Glb(アルブミン/グロブリン比)]の問題
寛解状態にあれば当然無症状ですから、1の異常はありません。
つまり完治ではなく寛解である可能性が残ります。

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1-b.猫コロナウイルス(FCoV)抗体価検査の問題
「FIPVを退治した完治」になっても
「FECVを退治できていない」場合がありますから、
その場合はFECVに対する抗体が造られ続け、
「FIPVとFECVの区別が付かないFCoVの抗体価」として数値が出ます。

例としてFECV・100:FIPV・0でも
抗体価はFCoV・100として数値が出ます。

つまり抗体価が高いからと言って、
=「FIPVが存在している寛解」の証明にはなりません。
抗体価が高くても「完治」と「寛解」の可能性はあると言う事です。

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1-c.遺伝子検査(抗原検査)の問題
遺伝子検査はあくまでも「ウイルスがいるか」の検査であり、
「ウイルスがいないか」の検査ではありません。

つまり、臨床症状が出ている場合において
「診断の確定」の為に使用される検査であり、
例え無症状の中で血液検査等を行い、ウイルスが非検出であったとしても、
「検体部位以外にウイルスが身体に潜んでいる寛解」である可能性は消えないと言う事です。

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2.無症状の年数で確認

ウエットタイプ(滲出型)とドライタイプ(非滲出型)では、
症状の進行も、再発までの期間も違います。

ウエットタイプ

再発が多いとは言われますが、
年単位での寛解後の再発は私が知る限りはありません。
闘病記録を見る限り、大抵の再発は寛解後一年以内の数か月の後に訪れている様です。


「無症状である寛解後の再発」ではなく、
「症状が比較的落ち着いた状態での再発」は、
年単位での記録をたまに見ます。


ドライタイプ

ドライタイプでは「症状が比較的落ち着いた状態での再発」、
つまり寛解に近い状態(軽い下痢や、癇癪一歩手前の症状は有)から5年後に神経症状を突然発症して死亡、といった内容の記録を2つ見ました。
他にも同じ様な例が幾つかあります。

代わりに悪化は緩やかに起こる場合が多く、
その意味では対処への時間が貰えるとも言えます。

ドライタイプが数年を越えてから大きな症状を起こす理由は、やはり肉芽腫によるものと筆者は考えています。
詳細は

こちらの「肉芽腫形成の仕組みと役割」項目をご覧頂きたいのですが、同じ肉芽腫を作る病である「結核」では、肉芽腫を作れない場合において結核菌の増加、病状の悪化が見られるからです。

事実、肉芽腫でウイルスを閉じ込めた状態で一生発症させずにおく事も可能なんです。

「肉芽腫 - Wikipedia」

-以下本文一部抜粋-

十分な免疫力があれば肉芽腫は、細胞内に感染して殺すことのできない病原体を終生無症状のままコントロールすることも可能である。

-抜粋終了-

なのでFIP発症後に寛解した子は、
今現在もウイルス入りの肉芽腫を体内に持っているかも知れないんです。



これらの理由から、

ウエットタイプ
1年以上無症状であり、
どの血液検査にも異常が無ければ完治と捉えても良いかも知れません。

ドライタイプ
特に何年も注意が必要ですが、
無症状でどの血液検査にも異常が無ければ
「完治(仮)」と捉えても良いかも知れません。


私はこの様に考えています。
※素人の推測です

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