短編🍓その嫁…鬼？…『チョコレートパルフェな彼と彼女〜転生したかも？妻が可愛すぎて気絶しそう〜』※普段ミステリー書きが、無理矢理お題で転生姫ロマンスを書いたら笑えるぐらい酷くて、カップ麺姫が出来上がってしまった件。

「……ただいま〜。」
　うん、返事は無い。……何時もの事だ。
「たまには「お帰り〜」って言って欲しいなぁ〜。」
　甘えて言ったが、姿が見えない。いつもなら、

　……何よ甘えてばっかりで。なんでもっとしっかり出来ないのー？いーい？見てコレっ！
　と、言いながら少女漫画やVチューバーの中でも、格好付けている奴ばっかりを見せて、如何に理想と僕が違うのか比較して言うのだ。
「結婚するときは……甘えたところが可愛いって気に入っていたのに、……時が経つと勝手なモノだよなぁ〜。」
　僕はそう独り言を言い、ダイニングテーブルの上にハンカチーフが置いてあるのを見て、
「あれ？珍しい……何か作り置いてくれたのかなぁ？」
　そう呟き、ハンカチーフを翻した。
「えっ……と。えっ！……コレが例の最終的なヤツかっ。……おぃ、見切り判押すのこっちの方だろう？……まともに家事炊事洗濯、ぜーんぶ出来ないのに、大丈夫なのか？」
　僕はその半分書かれた妻からの離婚届に、思わずそう言った。別れる辛さと言うより、別れた後の妻の心配が頭を過ぎる。……独りで生きていけるのかなぁ？誰か代わりにやってくれる人、いるんだよなきっと。
　と、僕は勝手に自分を納得させ、ほんの気持ちのつもりか、申し訳ない程度に置かれたカップ麺を見詰める。
「まぁ……離婚協議や財産分与で連絡があるよな。」
　僕はそれまで、出来るだけ気にしない事にした。
　電気ポットのスイッチを入れて、沸騰する間にカップ麺の蓋を開けた。
「えっ？――えっ――っ！！」
　カップ麺の中から強い光が目に入って、僕は咄嗟に目を閉じて腕で目元を隠した。
　再び瞼を閉ざしても分かる強い光が落ち着いた頃、僕はゆっくり目を開ける。
　……あっ……何だ、妻の日和（ひより）じゃないか……
　見慣れた人影がぼんやりと霞む視界に見えた。
「幾ら何でも悪戯が過ぎるよ。それにカップ麺だけじゃ体に悪いだろう？何か食べる？」
　僕は取り敢えず、離婚届が本気かどうかの前に、腹でも空かせているだろうと、聞く。
「……あっ、あのぉ……。カップ麺？って、何ですか？……それに、目の調子でもお悪い様でしたら、お医者様をお呼びしますが？」
　と、日和が言うのだ。えっ？そんなに丁寧な言葉、使おうにも知らないじゃないか。それに何だ？
　……とっても、綺麗だ。
　グリーンのサテンのドレス。胸元のネックレスは……あれは、ダイヤか？イヤリングも太陽の日差しを反射し、眩い光を見せた。
「あの……日和……だよね？」
　と、僕は聞いた。
「あっ、えっと……夢でも見ていらしたのですか？人違いです。それで驚かれていらしたのですね？私はスカーレットと申します。エルダー王国第四王女に御座います。」
　……第四王女……何を……？
　そう思うのに、やはりこんなに綺麗な日和は見た事も無く、他人のそら似とは言え、目が離せない。こんな素敵なドレス……着せてあげられたのは、結婚式以来だったよな。
「あっ、すみません。僕は……。」
　と、神川　孝洋（かみかわ　たかひろ）と名乗って、礼を言って帰ろうと思った。けれど、周りを見渡すと見た事もない美しい庭が何処までも続いていた。海外で見た城の広場に良く似ている。
　左右対称の整えられた樹木は実に美しく、青々としていた。
「まぁ、冗談がお上手なのですね。それとも流行りのお遊びなのですか？貴方様をこの大国エレンツァで知らぬ者など誰、一人と居りませんのに。」
　と、スカーレットは言うではないか。何だ？僕のそっくりさんでも居るのか？そう思った時、掌の甲に何だかふわふわする感覚が当たった。僕は腕を見下ろす。
　あれ？……何だこのヒラヒラレースの袖っ！めっちゃダサぃ！恥ずかしい。……他も何だ？この服はっ？演劇部の王子様じゃないんだ。
　僕は自分の身なりを、あれやこれやと見渡し……
「はぁ……南瓜パンツじゃないだけ良かったぁ……。」
　と、言って、肩を撫で下ろす。
「あっ、あのスカーレット、えーっと……第四王女……様？」
　と、色々聞いてみなければと、呼んでみた。
「スカーレットで構いませぬ。」
　と、不思議そうにスカーレットは、僕を見る。
「あっ、えっと……じゃあスカーレット。……あの、僕はこの世界じゃない所からやって来てね、だから多分スカーレットが話していた人とは、そっくりなだけなんだ。」
　と、僕は上手く言える訳も無いが、必死で状況を分かって貰おうとする。
「……かっ、影武者と言う事ですか！？遥々エルダー王国から参りましたのに、なんて無礼なっ！それが、最強の大国エレンツァ国の王子、ルーシェ様の御意志と言う事なのですねっ！そうですか、女子（おなご）一人交際を断るのが怖いのですね……がっかりです。私、この様な侮辱を受けたのは初めてです。……帰らせて頂きますっ！どうぞ、ルーシェ様にもそうお伝え下さい。……ごめんあそばせっ！」
　そう、スカーレットは急に勘違いして怒り出すと、フンっと振り返り長いスカートをふわりと持ち上げ帰ろうとする。
「あっ！待って！お願いっ！……ちがっ、違うんだ！僕は影武者なんかじゃ無いっ！聞いてよ……神川　孝洋なんだっ！」
　僕は必死でスカーレットを追いかけて、後ろから手を掴んで半泣きで転びそうになった。
　スカーレットが睨んで振り向いたかと思うと、僕の体制が間抜けだったからか、キョトンとした目で僕を見ている。
「……まぁ、麗しい瞳がお美しい……。」
　と、スカーレットは言った。
「えっ？……。」
　僕は思わず、手を握ってしまった事に気付き、慌てて手を離す。スカーレットは頬を赤て、扇を広げて顔を隠してしまった。……かっ、可愛い……。
　待て、そんな事を思っている場合じゃないんだった！
「あの、褒めてくれるのは嬉しいのですが、さっき様子が変だったでしょう？あの時に僕はどうやら他の世界から此処に来て、ここの……そのルーシェ様？に成ってしまったらしい。本当にこんな格好も知らないし、景色も知らないし……王子だなんて……何にも分からない。」
　と、僕は肩を落として言った。
「良いのです。私は貴方こそ、ルーシェ様ならばきっと幸せです。」
　と、スカーレットは、優しく微笑んだ。
「……それはどう言う？」
　僕は全く意味が分からず聞く。
「私は此処で、ルーシェ様を亡き者にしたかも知れないのです。」
　その物騒な言葉に、僕は息を呑んだ。

「お噂では暴君と名を馳せたルーシェ様は、とうとう隣国の私の育った国、エルダー王国まで兵を延ばしてきました。
　私が此処で気に入られなかったら、祖国の為に私はルーシェ様を此処で暗殺し、自害するつもりでおりました。」
　と、スカーレットは言うのだ。
「……なんて事をっ！そんな事、あってはならない。分かった、僕がそのルーシェで居れば良いんだろう？だからっ……だから、死ぬだとか……そんなの……言っちゃ駄目だっ！」
　僕はルーシェなんて奴は知らない。ただ、目の前にいるこんな弱々しい一人の女性を、こんなにも追い込むような奴ならば、僕はルーシェが大嫌いだ。
　その大嫌いなルーシェに成った僕は、ルーシェにも成りたくないのならば、一体何者として何も分からぬ此処で生きねばならぬのか……。
　悔しい様な……どうしようもない、遣る瀬無い現実に、両手を強く握りしめ俯いていた。
「……ルーシェ様……。私が……お側におります。どうか貴方は貴方らしく……生きて下さい。」
　迷う僕に、スカーレットはふわっと抱きしめ包むと、そう言った。
　カランカランと、きっと殺すつもりでスカーレットが持参した美しい宝石が散りばめられた、ナイフが落ちた。
　その音に誰か、護衛が気付いた様だ。
「ルーシェ様っ！」
　慌てて兵が走って来て、銃を構えた。
「待てっ！護身用だ。スカーレット王女に無礼だぞ！今直ぐ下がれ！」
　何だか良く分からないが、映画の見よう見真似でそう言ってみた。
「はっ！失礼致しましたっ！」
　と、ガチャガチャ拳銃の音を立てて去って行く。
「はぁ〜怖かった。生の拳銃、初めて見たよ。」
　と、僕は言ってスカーレットに微笑んだ。
「あら、ルーシェ様はお持ちではありませんの？」
　と、スカーレットが笑って言う。
「えっ？……」
　僕は腰の周りを探ってみる。
　……あっ、ある。拳銃が……。
「つっ、使い方……分からないよ。それにしても、それを知ってて挑むなんて、貴方って人は……」
　僕は少し考えてこう言った。
「向こう見ずな人だ。」
　そう言って僕はナイフを拾い、刃を自分に向けスカーレットに返す。
「今までのルーシェがどうだったかは知らない。だけど、必ず僕は君が此処までした原因を直ぐに、消してみせる。だからもう……。」
　震える君の肩を……その華奢な手を……どうすれば放っておけると言うんだ。
　君を抱き締める以外に、その涙を消せる方法が見当たらない……。


短編②え？もう？

　「あの、僕はこの……多分、自分の城？も、周りの人も分からないのです。……元いた世界に妻がいるのですが、離婚届を突き出され、まだ受理されていなくて。……つまり、離婚が成立していないので、これは浮気になるか分かりませんが……えっと……。」
　一気に僕はそう言って言葉を濁らせた。何だ……この、酷い背徳感は。何もしていないのに、恐らく「なよい」と言うだけで捨てられたのだ。今更……戸惑う必要は無いのに。
「……はい。」
　スカーレットは次の言葉を待っている。いっ、言ってしまえっ！
「この世界の事、他に聞けそうな人もいない。正直に言いますっ！逃げられた妻をまだ引き摺っています！……性格は違えど、貴方そっくりでした。……一目惚れだったのです。僕の。迷惑かも知れませんが、貴方に1日も長く側にいて欲しいっ。こんな分からない世界で独りなんて絶対我慢ならないに決まっているんです。
　……だから……どうか……。ぼっ、僕と、結婚して下さいっ！」
　……あっ、言ってしまった。
　なんて最低なプロポーズなんだ。それでも、まだ……妻の日和に申し訳ない気持ちが、そんな言い方にさせてしまった。
「あっ、急に……すみません。良く知りませんが、こう言う世界は順序やしきたりが……。」
　……頭……冷やさないと……。そう思いながら話していると、
「ええ、私で良ければ。」
　と、スカーレットが答え微笑んだ。
　……ん？何かの聞き違いだろう？否……確かに……。
「あの？……今、僕はまだ離婚が成立していなくて、まだ逃げられた妻を引き摺っていると言ったのですよ？……それとも、さっき言っていた、この国の規模の問題ですか？僕は思っているより偉くて、言う事を聞いているだけですよね？」
　と、僕はスカーレットに何か早急な事情や国の確執の問題ではないかと、改めて聞いた。
「奥様がいらしたのは違う世界なのですよね？……ならば、この世界とは無関係です。国の確執は確かにエルダー王国は、ルーシェ様の大国エレンツァに比べれば小国で貧しい国です。
　……ですがっ、今のルーシェ様でいていただかないと、エルダー王国も滅びます。私は今のルーシェ様を信じて、お側に居たいのです。」
　と、スカーレットは言った。綺麗な瞳で真っ直ぐ僕を見る、その瞳……。
「結局は祖国の為？……それなら、近々何とかするよ。」
　と、僕は言った。その瞳が欲しくても……今の僕が言えば、ただの暴君の命令と変わらないじゃ無いか。悪役みたいで……何だか気分が悪い。
「……私でないと、この世界の事……独りで不安なのでしょう？」
　スカーレットは、少し悲しそうに言う。
「あっ、ごめん。言い過ぎたみたいだ。……命令や政略結婚では無くて、その……本当の気持ちで答えて欲しかっただけで……。」
　と、僕は少し困りながらおどおどしてしまう。
「……それは先程言いました、ルーシェ様。二度も言わせるなんて……。ルーシェ様のお言葉を借りるならば、私も一目惚れです。それではいけませんか？」
　と、ルーシェは微笑んだ。
「いっ、否……全然良い！本当だな？」
　僕は夢の様な世界だと、この時此処に来て初めて思った。
スカーレットは頬を赤く染めてまた扇で隠してしまう。
　……日和さんとそっくりなのに、なんて可愛いんだっ！こんな人と結婚出来るなんて2倍得した気分だっ。
「やった！嬉しいよっ！……良かったぁ〜勇気出して言って。」
　と、僕は歓喜し言うと、スカーレットは扇を広げたままクスクス笑った。
「あっ……でも、結婚ってどうすれば良いんだ？僕は王子だから、王国ってことは父王がいるんだ。先ずは報告かなぁ……。」
　と、僕は考えながら言う。
「ルーシェ様、エレンツァの全権は総て、今ルーシェ様にあります。」
　と、スカーレットは言うのだ。
「えっ？何で……。」
　僕は何も知らないので聞いた。
「ルーシェ様の父王様は、今病の床に就いておられます。そして、生きている間にと、全権をルーシェ様に託されました。それからです。今のルーシェ様の前のルーシェ様が、隣国へ兵を伸ばしたのは。」
　と、スカーレットは答える。
「何か隣国から欲しい物でもあったのかなぁー？そもそも何が気に食わなくて戦争なんて……。」
　と、僕は言った。
「それが理由が無いから困るのです。ただ、強さの固辞と王が病に伏しても、自分が実権を握っていると言う、アピールの様なものだったかも知れません。」
　と、スカーレットは答える。
「行き過ぎた自己顕示欲ねぇ……。僕にはそんな物、かけらもないよ。……で、父王には報告だけとして、最短でいつかな？側近の事も分からないのは拙いよ。」
　と、僕はスカーレットに何か良い案はないか聞いてみた。
「……ふふっ、そこは暴君をお使いになればよいのですよ。私、今日からお側に置かせていただきます。」
　と、スカーレットは扇を閉じると、ドレスのスカートを摘み開き深々と一礼した。
「宜しくお願い致します。ルーシェ様。」
　そして顔を上げるとこう言ったのだ。
「どうぞ私を強奪して下さい。密使に私の側近の者を一名呼びたいのですが宜しいですか？」
　と、スカーレットは言う。
「あっ、そう言う事なら良いよ。……成る程、少しだけ悪役になるんだな。……で、直ぐに結婚すると準備してもらえばいいのか。」
　と、僕は納得したが、スカーレットは首を傾げ、
「ルーシェ様？」
「えっ、あ、はい。」
　僕は呼ばれたので、何事かと返事をする。
「お言葉ですが、ルーシェ様少し喋り方が……。ゆっくり戻しても良いですが、急にその優しい感じでは周りがびっくりします。少し横柄なくらいが丁度良いかと……。」
　と、スカーレットはアドバイスをする。
「そ、……あっ……左様か。お前が望むならばそうするとしよう。感謝する。……とか？」
　と、試しにスカーレットに聞いて貰う。
「そう、そんな感じです。後、感謝は述べません。褒美を出す時ぐらいです。」
　と、スカーレットは言った。
「そうかぁー。結構面倒だけど、RPGゲームのボス気分でいれば何とかなりそうだ。さぁ……そろそろ一緒に城へ行こう！新居も覚える事が沢山だ。」
　と、僕は微笑んでスカーレットと、手を繋いで庭を歩く。城の両脇に何人もの兵が左右に分かれ並んでいる。
　スカーレットは自然に後ろに少し下がり手を離す。
「ご苦労で右手を上げて下さい。」
　と、スカーレットが小声で後ろから教えてくれた。
「ご苦労。」
　そう言って手を上げると、忠誠を誓いガチャガチャっと皆剣を顔の前に出し持ち直すと、鞘に収めた。
　僕は何気ない顔で真ん中を堂々と通り抜ける。
　……廊下に人は見えない。
「はぁ……怖かったぁ……。」
　と、肩を撫で下ろすと、スカーレットが後ろでクスクス笑っている。
　暫く散策していると、
「ルーシェ様！こんな所におられたのですか？！」
　と、話しかけられる。
「……その方は……」
　と、訝しげにスカーレットを見ている。
「お前も知っているだろう？エルダー王国のスカーレット王女だが、何か文句でもありそうだな。」
　その男は敵国の王女といるのが気に入らない様だ。
「ルーシェ様、これは何のお戯れでしょうか。」
　と、スカーレットを睨む様に見ている。
「良いか、よく聞け。私はスカーレット王女のエルダー王国と和平協定を結ぶ事にした。私はスカーレット王女を妃として迎える。今直ぐ兵をエルダー王国から撤廃させよ。明日には式を上げる。急いで準備に取り掛れっ！」
　と、僕はこんな我儘、通るのか？と、思いながらも言った。
「ルーシェ様、それならば側近の私、ジェダーがエルダー国に参りましたのに。……そんな、半強奪のような結婚など、急に言われましても……。」
　と、ジェダーが困った顔で言う。
「私が決めたからには、変更はないっ！今直ぐ、スカーレットに部屋を。」
　と、僕は言った。離れるのは心苦しい……それでも、君といられるのならば……。
「わっ、分かりました。参謀のマルエルにも伝えておきます。ルーシェ様のお部屋には何時もの紅茶で宜しかったですか？」
　と、ジェダーが聞いたので、僕は、
「ああ、それで構わん。」
　と、自分でも偉そうだと思いながらも、そう言った。
　側近のジェダーと参謀のマルエル。二人の名前を聞き出す事に成功。……後、問題は自分の部屋だ。
　長い廊下を歩く……あった。……調理場。何気なくメイドが出て来た所で前をわざと通る。
「あっ、ルーシェ様。今お伺いしようと。」
　と、メイドが金色のワゴンにティーセットを置き運び出そうとしていた。
「少し暇を持て余していた。部屋までたまには話そう。」
　そんな事を言って、ワゴンの横をゆっくり着いて行く。
「あの……私のような者と話されても暇つぶしにもなりません、ルーシェ様。」
　と、メイドは言った。
「そんな緊張するな。……実はな、好きな人が出来て、強奪してしまった。強奪に関しては少し後悔と言うものを感じてね。それで私は少し、今までの自分を改めて直そうと思ってな。どうだ……似合わないか？」
　と、僕は周りの噂から素の自分でいられる様、根回しをしている。
　メイドは少し考え、
「どう変わろうとしていらっしゃるのかは皆目、見当もつきませんが、良い方に変われるのであれば、私達使われる者共も嬉しい限りに御座います。」
　メイドは部屋を開け、ワゴンを置いた。……此処か。
　ブルーの壁には輝く箔押しが施され、天井画も素晴らしい。隅々まで磨き上げられたその部屋は、まるで別世界だ。
「では、私は此処で失礼致します。」
　丁寧に挨拶をしてメイドは帰ろうとした。
「待て。明日、結婚式を執り行う。忙しくなるが頼む。有難う。」
　と、僕は言った。メイドは驚いて僕を見るので
「ほらな。変わると言っただろう？……どうかな。」
　と、僕は微笑んでみせた。
「大変宜しい変化と存じあげます。」
　そう言って、メイドもにっこり笑うと、静かに去って行った。

短編③出入り口

その夜、僕は慣れない場所で、沢山の事を覚えてあまり眠れずにいた。
　……嗚呼、スカーレット……今頃どうしているだろうか。スカーレットは結婚式まで会えない。早く……会いたい……。
　そう思うのに、スカーレットの事を思うと、何故か日和を思い出して、ちゃんと食べているんだろうか、洗濯物はどうしているだろうかなどと、今更気にしても仕方がない事を思い出してしまう。
　その日の窓から差し込む夜明けは、この世界で見た初めての夜明け……この神々しい景色を一生忘れまいと僕は思った。
　朝から大勢の国民が広場に集まっているようだ。

「我々、エレンツァは隣国との戦いを止め、協定を結び、その互いの文化を認め合い、協力をより強化する事となった。
　エルダーから我が国へスカーレット王女を迎える事が出来た。
　今日と言う日があるのも、エレンツァの民とエルダーの民があってこその繁栄の賜物である。皆、今日は共に祝おうではないかっ！」
　と、僕は適当に演説し、後ろを振り返る。
「……スカーレット……。」
　真っ白なドレスで後ろから側近の者が裾をもち、ゆっくり現れた。

「……綺麗だ。……とても……。」
　スカーレットは国民の前に姿を現すと、僕の腕を取り、にこやかな笑顔で反対の手で国民に手を振る。僕はそっと、こんな大衆の面前でと思ったが、ここは覚悟を決めてスカーレットに優しく口付ける。
　綺麗な花びらが国民の群衆から舞い上がった。
　――――――――――

「スカーレットっ！」
　僕は思わず披露が終わると直ぐ様、君を見つけて抱きしめた。
「ルーシェ様ったら、よっぼどお寂しかったのですね。」
　とスカーレットは微笑んだ。
「スカーレットは何とも思わないのかい？」
　と、僕は聞いた。
「思いましたよ……ルーシェ様の事を。夜明けまでずっと。」
　と、スカーレットが言うので、同じ朝焼けを見れたかも知れないと思うだけで嬉しかった。
「幸せにするよ。」
　と、僕が言うと
「ええ、今度こそ。」
　と、スカーレットは不思議な返事をする。
「えっ？スカーレットは再婚？」
　と、自分も離婚届を突き付けられていたので、気兼ねなく聞いた。
「いいえ、それが……二度、恋をしたのです。」
　と、スカーレットは言うのだ。そして、
「実は私も他の世界から来たのです。この世界はまるで夢の様。美しいドレスにアクセサリー、宝石もまるで小さい頃の夢の宝箱みたいに思えました。
　私、少しルーシェ様より前に、この世界に来ました。だから少し多くの事を知っているだけなのです。しかし、この夢の様な世界で戦争を起こした時……敵国で指揮を取っていたのが、ルーシェ様だと知り、私はショックを受けたのです。」
　と、付け加え話す。
「えっ？もしかして、僕の前のルーシェを知っていたのですか？」
　と、スカーレットに僕は聞いた。
「いいえ……隣国とは言え、小さな国にわざわざ大国の王子が来られる事などありません。戦争が始まり、初めてその顔をみた時に驚いたのです。」
　と、スカーレットは言うのだ。
「顔に？僕のこの顔ですか？」
　僕は訳が分からず首を傾げる。
「ええ……その顔……。あの暴君が貴方じゃなくて良かった。私は……あの暴君を貴方だと勘違いしていたのです。だから、辛くなって離婚届を……。」
　と、確かにスカーレットは「離婚届」と言った。
「えっ？……もしかして……。スカーレット……君は……。」
　と、僕はまさかと思いながらも聞くしかない。
「ええ、まだ貴方の妻、日和です。私にまた恋をしてくれた貴方の言葉に……どれ程救われた事か……。私、この世界に居たくて孝洋まで巻き込んでしまった。御免なさい。」
　と、スカーレットは謝る。
「えっ？じゃあ僕は日和に2回も恋をして、2回も結婚を申し込んだって事？」
　……嘘だろう？確かに似ているが、こんなに可愛いじゃないか。
「あのね、孝洋…私、少女漫画大好きでしょう？いつかこんな所に来てお姫様になりたかったなんて、大人になったら恥ずかしくて言えないじゃない。でも現実はそんなものとは全然違った。だから孝洋に当て付けのつもりで、食べると怒るカップ麺……わざと買って来たの。そうしたら此処へ……。」
　と、スカーレット……否、日和は言うのだ。
「え？……それから離婚届けとカップ麺置いて行ったって事は……帰り方、知っているの？」
　と、僕は聞いた。
「ええ、実は……。カップ麺……またお湯を注いで蓋を開ければ良いのよ。」
　……嘘だ。……嘘だ嘘だ嘘だ！……何だ？日和は何を言っているんだ？
「そんな馬鹿な……。僕、カップ麺なんて持っていないよ。」
　そう言うと、日和は僕の両腕を持って、可愛らしく頬にキスをした。

「びっくりしても、やっぱり可愛い♪それに私の王子様は世界一カッコ良いの。見て……。」
　と、日和はドレスの裏に、ポケットみたいに布を当て縫って、カップ麺を二つ隠しもっていた。
「嘘っ！そんな所に……。これ、一つは僕の分？」
　と、僕が言うと、
「そうに決まっているわ。」
　と、テーブルの上のチョコレートを僕にあーんと食べさせる。
「離婚……しなくて良いの？」
　僕はまた半泣きで聞くと、
「もうっ、こんな綺麗な目で潤まれたら出来ないわよ。」
　と、日和は微笑んだ。
「ねぇ、日和さん……。」
　僕が呼ぶと日和は人差し指で内緒と言うように僕の唇に触れた。
「違うわ、此処にいる間はスカーレットよ、ルーシェ。」
　と、微笑んだ。
　……そうか……同じ君なのに輝いて見えたのは、君が夢に心、踊らせていたからなんだ。
「2回もウエディングドレス見れた。……幸せ者だよ僕は。
　緑のドレスを見た時、あんな綺麗なものを君に結婚式以来、着させてやれなかったと、反省したんだ。」
　僕はそう言いながら君の肩に頭を置いた。

「ルーシェ様……」
　僕が立ち上がると、ジェダーが曲を止め、一斉に舞踏会で踊っていた者達が道を開ける。
　目の前にはあのグリーンのドレスに着替えたスカーレットがいた。
「……やはり……美しい……。」
　僕はゆっくり歩き出し、スカーレットと手を取り、踊り出す。
　忘れていた筈の恋を僕はもう一度やり直している。
　この引いては戻る優雅なステップの様に。
「ねぇ……ルーシェ様、スカーレットって、何か思い出しません事？」
　と、踊っている途中でスカーレットが聞いてきた。
「あっ！分かった。……君がウエディングドレスを選ぶ時に言っていた。この『映画の「風と共に去りぬ」のスカーレットのデザインが良いわっ』て」
　と、僕は答える。
「ルーシェ様、流石で御座います。」
　と、口付けを貰って、僕は微笑んでそれを君に返す。

「あら、そろそろ帰らなきゃ。ルーシェ様、現実へ戻る時間ですよ。」
　と、スカーレットは言う。
「あっ、そうだね。洗濯物、干しっぱなしだ。」
　と、僕は苦笑いをした。
「今日は夕飯何にする？」
　僕が聞くと、スカーレットは少し考えて、
「こっちは洋食ばかりだから、和食にしましょう。」
　と、スカーレットは笑う。
「ジェダー……そういう事だから、お湯沸かして。留守の間を頼んだよ。」
　と、僕は案外忙しいが、君と夢が見れるなら幸せだ。
「さぁ、スカーレット姫……シンデレラはお帰りのお時間ですよ。」
　と、僕は君と目を合わせた。
「では、戻ってきまーす！」
　と、僕はカップ麺を前にジェダーに手を振った。
「珍しいもの、持って来てあげるわねー。」
　と、スカーレットもジェダーに手を振り、僕らは再びカップ麺の中から輝く光に包まれ、現実へ戻る。

「日和さん……今日も楽しかったですね。」
　と、僕は微笑んだ。
「そうね、孝洋と毎回行く度に恋している気分。」
　と、日和は言うと微笑む。
「あっ……材料少ないなぁ……。ねぇ、日和さん、たまにはお寿司でもとりましょうか？」
　と、僕は提案した。
「えっ、良いのー？やったー♪」
　と、日和はにこにこ喜ぶ。
「ぜーんぜん、違いますねー。」
　異世界と違う、普段着の日和に僕は言った。
「お互い様じゃない」
　それを言われると……と、僕は苦笑いする。
「……日和さん……。」
　ずっと君に……言いたかった事がある。
「……はい？」
　何も知らない君は何時もの何気ない返事。

「……愛しています。……これまでも。……これからも。」

　まだまだ僕には知らない君がある。
　全部だなんて我儘は言わない。
　けれど、一つでも多く、君の事を知って一緒に歳を重ねて行きたいんだ。
「なぁにぃ、急に……。」
　そう言うのに、頬を直ぐ赤てしまう、可愛らしい君は夢を見過ぎで大事な事を忘れている様だ。
「実はもう……洗濯物終わっているんです。」
　と、僕はふふんと言いたげに少し鼻を上に上げて、偉そうにしてみる。
「え？……じゃあ何で戻ってきたの？」
　と、君はやっぱり聞いて来た。
「良いですか〜？夢を見るのも良いですが、現実も楽しんで下さい。……今日は、日和さんのお誕生日ですよ。」
　と、僕は忘れているであろう君に教えた。
「嫌だー！また歳、とっちゃうー。」
　と、君が毎年嘆くので、僕は毎年同じ事を言う。
「日和さん。ずっと変わりませんよ。」
　僕の気持ちも……きっと君も。
僕は紙袋から綺麗な包装紙に、リボンの掛けられた包みを、
「お誕生日おめでとう御座います。」
　そう言って手渡した。
「今年はなぁ〜にかなぁ〜。」
　と、君は無邪気な笑顔で、包装紙を開いて行く。
「……これ……。」
　君がプレゼントを見て、気付いた様だ。僕の後悔に。
「着てみて下さいよ。」
　僕は君に微笑んだ。
　此方の世界で言う、タイトから裾が広がるマーメイドのグリーンのドレスにオレンジ色の耳飾り。
「ずっと、ドレスを買っても上げなかった、僕からの反省です。」
　と、僕は微笑んだ。君は暫くすると着替えて戻ってくる。
「どう？……これ、城で来たら皆んな驚くでしょうね、、」
　と、君は笑った。
「……綺麗ですよ。……とっても。」
　と、僕が言うと君はこんな事を言った。
「なによ……ルーシェじゃない癖に。」
　と。
「いいえ……カップ麺一つで、いつでも僕は君の王子様になれるんですよ。」

　――――――――完ーーーーーーー

我ながら酷いものでしたねf^_^;
僕にトキメキ浪漫すは語るに未だ未だ未熟なやうです。