コバルトブルー・リフレクション📷第一章 休止
🔗表裏一体連鎖発動中
表裏一体連鎖とは?連鎖発動元の「黒影紳士」4-10幕とどちらから読んでも物語が成立するんだ。しかし、内容は全く違う。こればっかりは体感してもらわないと説明し難いな。順番はどちらでも成立するけれど、著者が書いたのはコバルトブルー・リフレクションの後に黒影紳士4-10である。
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二重連鎖
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第一章 休止
僕は正しいと思わないと止まってしまう
だから、間違いも後悔せず走ってきた
けれど、もう……疲れたんだ
一体何に疲れたのかすら分からない
楽しかった瞬間は一瞬で
一瞬の瞬きが消えると
どうしようもない虚しさに襲われた
幕を閉じるって……こういう事なんだろうか。
そう……静かに思った
引き際が大事なんだ
総てのものには
バンドの活動休止ってあるだろう?人からしたら何だその理由ってものがいっぱいある
それと同じさ
誰かに分かって貰おうなんて思っちゃいない
人には分かりづらい性格らしいから
尚更慣れたものでさ
僕は……自分の人生の中の大半を費やした
書くって事を止めようと思った
流行り廃りがどうのじゃないんだ
自信がある無しも関係ない
ただ……下らない理由
バンドの休止より、もっと理解され難い理由だ。
ある日書き終え、幸せな気分だった。その日は凍てつく寒さでエアコンの効きもあまり良くない。書き終わる少し前に君が起きてきて、あと少し……そう思った。書き上げて、君を見ると一人で簡単な夕食を食べ始める。僕はあまり書いている時は腹が減らないので気にはしなかった。仕方無いから、アップロードして紹介記事を公開していた。
すると君は夕食を食べ終わり、布団に入った。
……気になっていたんだ、君の事。
やる事を終えたら君は小さな寝息を立てて寝ていた。最近、気分が沈みがちだと言う君の話を聞いて、アドバイスをしたばかりだ。なのに、こんなすれ違っていてはきっと良くはならない。そう、思った。君は待ち疲れたんだ。僕は書くのを見守ってくれるのが、理想の妻だった。理想に付き合わせてしまったに違いない。僕が感謝をすればする程、君を辛くさせたのかも知れない。僕は僕を止める。君を愛していたいから。自分を真っ直ぐ持つよりも、案外自分の信念をわざと曲げる方が辛い時もある。僕は静かにその日泣いた。君の寝息を聞きながら。夢を応援して笑う君……書き上がると読んで誤字脱字を厳しく叱る君……全部、それも思い出なんだ。書いて残したものよりも、書いて行く過程にあった君との日々を終わらす事が……今、何よりも辛い。
僕のどうしようもない文章なんて、絶賛してくれなくて良い。詰まらないなら詰まらないと言ってくれても良かったんだ!……なのに……なのに……君は僕に何故書けと、書いている僕の方が良いと微笑んでしまうんだ。
頼むから……もう微笑まないでくれ。
無理して笑うのは心が痛むだろうに。
僕に……出来るのは……この筆を下ろす事だけだ。
さようなら、僕の愛した文字の数々よ。言葉の数々よ。きっと其れを愛しているから、君との愛が軽薄になってしまったのだ。
人はそんなに……沢山のものを愛せない。
……これが、僕の理由……。
それが書かれた更新日から翌年の二月中旬……その物書きは古いマンションの5階から飛び降り自殺した。住んでいたのは3階だったが、きっとミステリー作家だったので知っていたに違いない。3階からじゃ、死ぬ確率は低いと。確実にほぼ即死する10mとまではいかないが、5階ならば格段に死ぬ確率も上がる。指紋を探しても躊躇いなく飛んでいる。
彼は月が好きだったらしい。数多く残した記述の中に、「月」と言うワードがちらほら出てくる。それを読んだ私は思った。彼は月に近付きたかったのではないかと。海外のニュースで聞いた事がある。月に行きたくて……飛び降りた女の話。その映像も見たが、確かに「降りる」では無く「上がる」が正しい。飛び降りたのではなく、手摺を踏み台にジャンプし飛び上がったのだ。そして弧を描き、虚しくも願いは届かず、イカロスの様に散って行った。あれを自殺と言うのか、私には今だに分からない。あれは……月を愛してしまったが故の悲恋が起こした事故なのだと思うのだ。
何でこんな話をするか……もうわかるでしょう?この5階から飛び降りた彼……手摺の上で、踏み切ったのよ。落ちずに……飛んだの。
もし彼に羽根があったなら、彼は死なずに済んだのかも知れない。他に彼に死ぬ理由はどこにも見つからなかった。理由なき自殺は……こんな理由の理解されない偶然の死であるのかも知れない。
私は刑事をしている。なのに、どうしてもこの彼の自殺が忘れられない。ネット上に残された、彼の小説を通勤時間に利用して毎日読んでいる。始めは、彼の死んだ理由が分かるんじゃないかと思っただけだ。何時迄も一つの事件……しかも、自殺案件の事を考えている場合ではない。そう、読むのを止めようとした事もある。……しかし、ふと悪魔が私に囁いたのだ。
別に朝のほんの少しの時間ぐらい……私の好きにしたって良い。たった一人ぐらい、その死の干渉に浸っても誰も咎めはしやしない……と。
彼の書く小説はミステリーからファンタジーに変わって行く。長い長いシリーズで、私は終わりのないその物語の先を読むのが楽しみになってきていた。彼は死んだのだから、いつか終わりが来るのに。それでも余りに長いので、先を心配する事も無く安心して読んでいた。一頁に一万文字。彼は読者に話すように独り言を上段と下段に書き残すの。ブックマークされるとランキングが上がって目立つから、一層の事、他みたいに五千文字にしてみようか……なんて、考えていたらしい。
確かに一万文字はスマホからだとスライド幅も広いし、途中でブックマークをして目を離すと、何処からだったか分からなくて探す。
変な人……それを分かっていて一万文字をキープするなんて。でも、読み進めるうちに気付いたの……。その、一万文字の理由が書いてあった。夢中になって書いていると一万文字なんてあっという間だと。途中で区切るならば、本で言えば内容を切り替えるのが正しい。段落的に変わっていない、時差も無いのに章を切り替えるのは我が意に反する。……と。結構頑固なところがあったみたい。本を出した事もあるらしく、だからこそ本になった時を考えてしまうのでしょうね。
私は……いつしか、何故この人の隣にいれなかったのかと後悔していた。もう死んだ人に後悔なんて、どうかしている。生きていても、頑張ったところで、彼は彼女を心から愛していた。……でも、もしそれが彼女じゃなくて私だったら……貴方は生きていてくれましたか?スマホの画面にぽとりと何かが落ちた。
……えっ……。
私は慌ててハンカチをバッグから出して、何食わぬ顔をして俯く。……気がついたら、泣いていたの。私はきっと、変になったのよ。少し変な貴方につられて。事故物件になった彼の部屋……その後、半年経ったが安くなっても買い手が付かなかった。私は……高層マンションで何不自由ない生活をしていたのに、思い切ってその彼のマンションに引っ越してしまった。同僚には、
「幽霊が本当に出るか、見たくなったのよ。見たら教えてあげるわ。」
なんて、悪戯半分で引っ越した様に誤魔化して言ったわ。でも、本当は違う。私は彼のいた場所で、少しでも長く彼の物語を読んでいたかった。
昔は本を出したけれど、また書き始めた時には無名の様なもので、また書きたくなって少し早めの第二の人生に、選んだようだ。はっきりとは書かれてはいないが、第二の人生が早かったのは、彼は体が弱かったかららしい。
思ったより……広い部屋。和室の小さな部屋だと想像していたが、クッションフロアに白い壁紙も変えていない。彼の息遣いがある方が良いから、私はリフォームを断ったのだが、白い壁が少し茶色掛かっているだけで、ボロを感じさせる所は見当たらない。壁が薄く茶色なのは、彼が紙煙草を吸っていたから。仄かに、壁に近付くと煙草のフレイバーの匂いがして、安心する。……ここで、彼は生きて……そして死を選んだ。
そう思うと、私は彼が呟きに書いていた、珈琲や酒を買って、部屋に置いた。すっかり……気付けば、自殺者のストーカーになっているのに気付く。
でも、また此処で悪魔が囁いた。……一体誰が迷惑だと言うんだい?死人は迷惑だなんて言わないよ。ちょっと変わった趣味なだけじゃないか……と。そうよ、何の違法行為もしていない。ちょっと、興味が行き過ぎただけ。曰くつき物件。……私の秘密がある曰くつきの物件。幽霊物件。……貴方に会えるかも知れない愛しの物件。「……ああ……もう、一冊読んでしまった。……大事な物語なのに……。終わったら燃え尽き症候群にでもなるわ。」
私は彼の好みのウィスキーを飲みながら、一冊分読み終えると、また涙が止まらなくなった。いつか終わってしまう……その日は確実に近付いているからだ。私はそれから、ストイックにこの物語と付き合う事に勝手に決めた。一日五千文字ぐらいで止めよう。一万文字の丁度半分ぐらいで止めれば良い。彼が知ったら、そんな読み方は邪道だと叱られそうだけれど。叱るでも、怒るでも良いの……せめて、幽霊か夢でも良い……貴方の死んだ本当の理由が聞きたかった。
この広い部屋に二人でいた……少し寂しい気もする。私は一人だから尚更……。彼女が良く眠るから書いていたと言う話が本当ならば、こんな静かな所で、何故彼はこんなにも夢や笑いもある楽しい物語を書いていたのだろう。そして、ミステリーでは最初は順調だったのに……何故、ファンタジー要素を入れたのだろう?彼自身、そこにジレンマを感じていた気がする。久々に本格的ミステリーを書いたのに、あまり読まれなかったと嘆いた呟きが残っている。……このシリーズに生き甲斐と絶望があった。私はそんな仮説を立てた。終わろうにも終われない。終わらせればまた書きたくなる。……そんな風に感じていたのかも知れない。
「二月……か。」
私は今日の彼の物語を読み、二月の文学賞の公募を調べてみる。
「……これだ。……でも、間に合いっこない。」
年末年始に彼は読者の為にと二冊同じ月に仕上げている。こんな長い彼の物語を出せる公募は年に一度のそれしかなかった。……まさか、これに原稿落としが間に合わなかったから?後、一年書き続けるのは難しかったから?薄らと、彼が死にたくなるような事の断片が見つかる。でも……書く頻度は変わっていない。アップロードされた日付を見ればわかる。彼は続ける怖さに気付いたのかも知れない。チャンスすら失い……彼女の為に、諦めた。……何を?……きっと書く事を諦められなかった。……だから、死んだ。
選べないと言えば、言葉で彼女を傷つけてしまう。彼女を選べば、この静かすぎる部屋で、彼は繊細な書き方をするから、きっと心が壊れてしまう。物語を選んでも、彼女との積み重ねた日々が消えてしまう。彼に選ぶ道などなかったのだ。どんなに探しても……。
彼が書く探偵の口癖は、
「洞察力と観察力さえあれば、自ずと道は見えてくる。」
……そんな言葉だったのに、どうしてっ!?……私は一人彼を想い泣いた。その探偵の口癖は、シリーズの先へ行くと、次第に消えて行くのだ。その代わりに良く出てきた主人公の口癖は、
「大丈夫。……今から大丈夫になる!」
と、いう言葉。これは誰に言っていたの?彼女……?それとも自分?……不安を知っているからこそ、その言葉を言われたら安心すると知っていたのよね?主人公が作者にその言葉を言われてこう言うの。
「誰よりも……一番言って欲しかった言葉……。」
と。この時、作者と主人公がリンクしていたならば、よくある主人公の気持ちになって没入していたとしたら……貴方は誰にも言われないと分かって、空想の中で二人に分かれて、聞いた。それまでに、その言葉が欲しかったんだ。彼は一度、シリーズを終わらせるような記述をして一冊の締め括りにした事がある。続くか分かりませんよって、珍しく期待と不安を煽るような書き方。この時……彼は辞めようと考え、悩んでいたのかも知れない。其の後だって楽しそうに進んで行くのに……。何時も上段と下段のメモに読者への想いを書く様な人が……果たして、こんな読者を不安にさせる終わらせ方をするだろうか?……スランプ?だったのかなぁ……。此処で終わるなら綺麗な終わり方だ。でも終わるとはっきり書けなかったのは、また書きたくなると気付いて……。
ねぇ……まだ書きたかったのに貴方は何故、死ななきゃいけなかったのですか?道が塞がったから?不安だったから?彼女に悪いと思ったから?月に近付きたかったから?このままチャンスの来ない自分を卑下したから?
……ねぇ……何でですか……。全部だったのですか?私はどんなに下手になっても、貴方の書く……夢の続きが見たかった。
僕は……月を愛しました。夢を見ても覚め、選ぶ事も出来ないのならばと。独り静かな夜でも、そこに在った消えない光に見守られて書いているのが、幸せでした。
カサッと紙が滑る様な音に、私は怖くなって恐る恐る振り向くと、そう書かれた紙切れが落ちてきたのです。怖くて見るのも震えました。紙は手で千切られている。でも……紛れもなく、私はその紙に書いた人が、彼だと分かる。この言葉遣い「……」の扱い方、読点も……総て貴方の癖のままだった。さっき泣き止んだ筈なのに……涙がまた溢れて止まらない。声も出さずに泣いたから、喉が痛くてヒクッヒクッという醜い嗚咽だけが、響いてしまう。その時、部屋のエアコンでも無い方向、丁度紙切れが落ちた先から、温かい風がふわっと優しく吹いた。
「ごめんなさい。……でもお願いだから泣かないで。笑顔になって欲しくて書いていたのだから。」
そんな声が聞こえる。
「あっ、あのっ!……ストーカーみたいな事してすみません!」
私は、もしかしたら会話が出来るんじゃないかと、兎に角謝らなければとそんな事を言った。
「……面白い人だね。……構わないよ、僕は死んでいるのだから。読んでくれて……有難う。」
そう、優しい声がするとまた温かい風が吹いた。――紙切れが消えている。……いなくなっちゃったんだ……。それは、少しの幻聴や幻覚だったかも知れないけれど、私は浮かれた様に嬉しかった。
……私、決めました。いつか貴方を甦らせる為に……書きます。貴方を物語の中に……私は生かします。……待っていて下さいね。
🔸次の↓コバルトブルー・リフレクション 第二章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)