The Forceが残したもの
なぜ、個人選手だったのか
その企画は、「個人はなぜ、団体ほど注目されないのだろう」という素朴な疑問から出てきたものだ。
幸運だったのは、取材しやすい国士舘大学に魅力的な個人選手が揃っていたこと、舘山楓弥君が東京にいたこと、そして応援!男子新体操が素人集団であるが故に、活動に何も縛りがなかったことだ。
男子新体操を、どんな入り口からでもいい、知ってもらいたい。
フィギュアスケートと同じ表現スポーツである男子新体操が、なぜずっとマイナースポーツのままなのか。どうしたらもっと多くの人に見てもらえるようになるのか。
私は、彼らのルックスの良さが新しいファン獲得につながるのではないかという、ごく単純な動機をもってこの企画を進めようとしていた。
現場の化学反応
撮影の当日、待ち合わせ場所に現れた彼らを見て驚いた。4人とも素晴らしくオシャレ(笑)。織田一明君の皮素材のパンツにはおお!と思ったし、田中啓介君はピアスやリングまで。大袈裟ではなく、4人ともモデルさんのよう。モノトーンでまとめた石川裕平君は、器用にメイク道具を使いこなす。ベージュ系コーディネイトの吉留大雅君は、元々のスタイルの良さでジャケットを着こなしつつも、鹿実出身者らしい演技力を見せる。
正直に言うと、彼らのここまでのオシャレさはまったくの予想外だった。というのも、遠征の時の彼らは、街中でもどこでもスポーツウェア一辺倒。「新体操選手って、普段着もジャージにスニーカーなんだな」と私はすっかり思い込んでいたのだ。(申し訳ありませんでした…💦)
スーツに着替えた彼らを見た時も、ちょっと驚いた。昭和生まれの自分にとっての「スポーツマン」(アスリート、ではなく)の概念と、目の前の4人に齟齬がありすぎた。春編の動画の中では、スーツ姿からユニフォーム姿にパッと変わるシーンがあるけれども、現場でその変化を見ているのは、とても楽しかった。さっきまでバリっとスーツで決めていた青年たちがユニフォームに着替えた途端、柔らかい動きでシンクロする集団に変わるのだから。
撮影現場で、The Forceの世界が躍動的に動き出した。私がこうしよう、ああしようと思っていたイメージは良い意味で裏切られ、もっとずっと洗練されたイメージを、彼らは自分たちでどんどん作り出していった。もちろんそれには、撮影・編集を担った舘山君の力も影響している。いわゆる、「化学反応」というやつである。目に見えない何かが渦巻いているのを肌で感じるようだった。
The Forceメンバーのその後
公開された動画は、多くの人に見てもらうことができた。男子新体操の動画で話題になるのは常に団体の動画であったが、この動画は個人選手の動画としては類を見ない話題性を(たとえ局所的にではあっても)提供したように思う。
その後、石川裕平君はNHKテレビ体操の初代男性アシスタントとなり、インスタでは数万人のフォロワーを持つ発信者となった。
田中君はSony XperiaのPVに出演した。(2:23あたりから)
また、アニメ「バクテン‼︎」に声優として出演。
さらに彼らは、バク転パーソナル教室の東京店で講師としても活躍中である。
そして、現役選手の織田君、吉留君もアニメ「バクテン‼︎」のモーションキャプチャーに参加し、クレジットに名前が掲載された。そして織田君もまた、バク転パーソナルの講師陣に加わった。The Forceの動画を見てファンになってくれた人に、彼らの試合を見てもらう機会になかなか恵まれないことが残念であったが、彼らが講師として活動することで、直接的にファン拡大に寄与する機会が生まれたとも言える。特に、現役選手がこのような形でアルバイトするという織田君のケースは、これまで前例がなかったのではないか。それを可能にした関係者に敬意を表したい。(国士舘の山田先生や、バク転パーソナルの谷さんらの進取の気性が、男子新体操界をどれだけ活気づけ、進化させていることか…)
The ForceのPVは舘山君の才能あっての作品であったが、The Force以降の彼の活躍もまた、素晴らしい。自ら発信者となり、男子新体操の魅力を拡散することに尽力している。
The Forceが残したものは
上述のメンバーの活躍は、おそらくはThe Forceがあろうとなかろうと起こったことだ。それだけの才能と運のようなものを持っている人たちなのだ。
ただ、The Force以降、男子新体操のOBや選手が映像を作ったり、自己PRを積極的に行ったりする機会が増え、ある種の発信のハードルが低くなったように感じるのは気のせいだろうか。これは、数年前にはおよそ考えられなかったことだ。以前は、選手がSNSで発信すること自体がタブーに近い雰囲気があり、「現役選手がSNSで発信などとんでもない!」という雰囲気だったと思う。(もちろん、時代の流れという側面もある)
The Forceの活動は、メンバーの人生のほんの小さな断片にすぎない。しかしそれでも、彼らの時間の一部を、あのように美しい映像として残せたことをとても嬉しく思う。そしてファンの皆様が、The Forceメンバーのことを語ってくれているのを見るたびに、私の胸に温かい思いが生まれ、この小さな作品を世に出した自分の"蛮勇"をさえ、少し誇らしく感じるのだ。
The Forceの企画を聞いて、「やります!」と言ってくれた石川君、田中君、織田君、吉留君、舘山君。彼らは、男子新体操界の何かを変えた。それも決定的かつ永続的に変えた、と私は信じている。