あの時、僕たちは。③堀孝輔(同志社大学)
堀孝輔といえば、マットのない環境で戦い続けてきたトップ選手、という印象を持つ人が多いだろう。高田高校時代は、決して恵まれているとは言えない練習環境で選抜・高校総体を制覇した。
あの時、大学進学を目前にして
あれは確かジャパンの会場だったと思う。当時高校3年生だった堀は、「新体操選手にとって大学の選択肢が少ない現状」を憂えていた。大学4年生となった今、彼にそのことを聞いてみた。
「あの頃の自分が望んでいたように、今、少しずつ大学の選択肢の幅が広がってきているのを嬉しく思っています。」
同志社大学は「関関同立」と言われる関西私立の雄であるが、そのメリットは「総合大学であること」だという。スポーツ健康科学部に籍を置く堀だが、スポーツ以外のあらゆる方面から学びを得ることができ、それが新体操に繋がることもあるという。大学の友人には、フィギュアスケートの友野一希さんがおり、SPORTS BULLの取材で同時に取り上げられたこともある。
友野選手は、3:45あたりで堀選手についてコメントしている。
あの時、練習拠点を失って
堀は現在も京都のキャンパスには戻っておらず、三重の自宅で過ごしている。
インタビューを行った7月26日の時点で、同志社大学の体育館で練習するには「使用許可を得たうえで90分以内」という制限がかかっていた。
堀は、母校である高田高校と古巣のLeo RGの2ヶ所を練習拠点にするつもりで三重に帰省したが、帰省後すぐに高田高校が休校になり、Leo RGの練習も中止になった。練習拠点を失った堀は、自宅で筋トレや柔軟などを行う日々を過ごす。
「新体操は感覚スポーツなので、手具を触っていなければいけない。晴れの日はできるだけ外に出て、風の少ない時間帯に投げをして、調子が良ければタンブリングをして、ちょっと曲流して動いて…とか。できる限り工夫して、自分の体力が落ちないように、もっとレベルアップできるようにしていました。」
緊急事態宣言があけてからは、Leoの子供達と一緒に公園でトレーニングをした。
堀が発した驚愕の言葉
マットのない環境で全国制覇を成し遂げてきた堀の存在は、恵まれない環境の個人選手たちにとって、一つの偉大なロールモデルである。堀は「環境を言い訳にしてしまったら、真に強い選手とは言えない。だから頑張って自分を追い込んで…というのが自粛期間の練習でした」と振り返る。
続けて堀は驚愕の言葉を口にした。
「こんな時に逆境に立ち向かえる選手こそが真に強い選手なんだ、と毎日思い続けて練習しているので、モチベーションが低下することは一切ありません。むしろ徐々に高まってきています。もっと練習しなきゃ、と暇があれば公園に行って練習しています。」
まさに堀孝輔の存在そのものが、全国の選手たちにとっても「言い訳できない理由」となっているのではないだろうか。
真似したいけど、真似できない演技
堀が目指す演技。
それは、「真似したいけど真似できない演技」なのだという。「せっかく個人をしているのだから、個性をしっかり出して表現していきたい。簡単に真似される演技ではもったいないなと。」
「自分の長所は手具操作や投げ技の多様性。全日本インカレやジャパンまでに、自分のやりたい新体操を形で残せるように頑張ってはいるんですけど、間に合うかが心配で。今、超特急で仕上げている最中です。」
ビバルディを選んだ理由
堀のロープは、ビバルディ作曲「四季」の「冬」。歌詞が解禁になった男子新体操界では、洋楽やJポップを使う選手が増えた。その中で、あえてクラシックの王道を行くこの曲を選んだ理由を聞いてみた。
「昔の新体操の動画を見ていると、演技もですけど、曲がすごくカッコ良かったりするんですよ。やはり、そこを忘れてはいけないし、昔の新体操が好きだから(自分は)今もやっているので、それを自分が下の代に伝えていけたらという思いがあります。」
「何か一曲クラシックを使いたいなと思っていて。小川晃平さんが「夏」を使っているのが、うわ、カッコいい!と思って、そこから「冬」にたどり着きました。」
同志社大学 一丸となって
現在、同志社大学体操競技部の部員達は、京都にいる者と帰省している者に分かれている。そのような状況ではあっても、全日本インカレでは同志社一丸となって頑張っていきたい、と語る。
(写真:同志社大学3年 藤綱峻也選手)
堀の同期である西原昌希は、昨年ジャパン進出。堀の目から見た西原の魅力とは。
「体が大きいので、とても見映えがする選手だと思います。それを生かした演技構成なので、ノーミスで実施すれば必ずジャパンに行けると思う。一緒にジャパンに行って、最高の形で新体操人生の幕を閉じましょう!」(小さくガッツポーズ)
西原は計画性を持って練習する選手で、お互いに切磋琢磨できる関係なのだという。
憧れの選手と、同期の4年生たち
堀が憧れるのは、清風高校の監督である木村功さん。「徒手が美しく、ラインが綺麗で、何も引くところがない選手というイメージ。それに自分が似ているかと言ったらそうではないが、ただ憧れる。」
一方、現役選手でもっとも意識しているのは青森大学の安藤梨友選手。「新体操は採点競技なので、自分より上の順位にいる安藤選手は、意識するというより、意識せざるを得ない状況」だと語る。
「今年がおそらく最後の一緒に戦う試合になると思うので、二人だけでなく、4年生全員がしっかりノーミス演技を出せればと思う。もちろん自分は優勝を目指します。」
そして、これから
最後に堀選手からのメッセージを。
「ぜひ、同志社に入ってください。メッセージをいただければ、大学情報、入試情報、練習環境など、あらゆる質問に誠心誠意お答えさせていただきます。」
「そして、やはり最後のジャパンでは笑って終わりたい。」
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インタビュー中に、蚊が飛んできた。一発で蚊を仕留める堀選手。手具も蚊も、視界に入ったものは逃さない(笑)
「あ、蚊が死んじゃった…」と呟く堀選手。
長い自粛期間を経ても、彼の卓越した "hand-eye coordination" (目と手の連係能力)は全く衰えていないようだ。
秋の試合シーズンには、2つの新作を用意しているという。
堀孝輔は、きっと今年も強い。
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